◻︎共依存
話してみようかな、もう少し私をほっといて欲しいと。
「ほっといてって言うのは簡単だけど、いざ、ホントにほっとかれたら、あんたはやっていけるの?」
お母さんの心配もわかるけど、今はとにかく、深呼吸がしたい、そんな感じなのだ。
実家から帰ったら、美味しそうな煮物の匂いがしてきた。
「ただいま!今日はなに?」
旦那の手元の鍋を覗き込む。
「おかえり、結び昆布と干し椎茸と高野豆腐だよ。お母さん、元気にしてた?」
「おいしそう!うん、相変わらず元気だったよ」
菜箸で椎茸を一つ、つまみ食いする。
「うわ…味が染みてて美味しい、私、こんなの作れないかも?」
「作れなくてもいいよ、僕が作るから」
「えっと、そのことなんだけど…」
このタイミングで話してみよう。
「どうかした?」
「うんとね、私も家事をやろうかと思って。ずっと何年もやってもらってばかりだし。甘えっぱなしも悪いなぁと…」
お鍋を混ぜていた旦那の手が止まる。
「どうして?なんで急にそんなこと言うの?」
「私も大人だし、というのも今更おかしいけど…」
「僕がやってることで気に入らないことあった?言って、直すから」
困ったような泣きそうな旦那の顔を見たら、それ以上言えなくなった。
「ううん、気に入らないなんて、そんなことひとつもないよ、やっぱ、もういいや、気にしないで」
「ホントに?」
「うん、ホント。私にはこんなに美味しい煮物作れないしね」
答えながら思った、私はこんなに上手く料理ができない。
料理だけじゃなく、洗濯や掃除も。
ましてや朝ご飯と、お昼用におにぎりまで作るなんて…。
あれ?
私、旦那がいないと何もできないの?
結局もとのまま、何も変わらない毎日。
週末に息子の侑斗が帰ってきた。
「侑斗のリクエストの焼肉だよ!たっぷり召し上がれ、ほら、このロース美味しいよ」
「母さん、あのさ、まるでものすごーい手料理を出してくれたみたいに言うけど、肉と野菜、買って切って並べただけじゃん!」
「えー、でもこのお肉は国産黒毛和牛なんだからね!お野菜も、北海道産、宮崎産、それからこのおナスは地元産と、全部美味しいやつだから」
プシュッとビールを開けて、ホットプレートの肉をひっくり返す侑斗。
「美味しいんだろうけど、働いてるスーパーで社割で買ってきたんでしょ?」
「まぁまぁ、侑斗、そう言うなって。この大根おろしなんか、ママがおろしたんだからな、味わって食えよ」
「大根おろしただけじゃん、あ、このキムチうまっ♪」
付け合わせのカクテキキムチと、チャンジャは旦那の手作りだ。
「だろ?それはパパが作ったから、特別だ!」
「マジで美味い。今度作り方教えてよ」
「いいぞ、あのな、まず大根を…」
ホットプレートの上では、ロースとカルビが焼けてきた。
横っちょにとうもろこしと茄子とピーマンを置く。
料理の仕方で盛り上がる旦那と息子《ゆうと》を見て、少し疎外感があった。
料理といえば、普通はお袋の味。
「ねぇ!侑斗!お袋の味といえば何がある?」
「えーーっ?うーん、あ、おかゆ、卵とニラの」
「おかゆって、あんたが熱出した時に作ってたあれ?」
「そ、他には…ない」
「あ、ない、ないんだね、そうだよね」
「だって、ずっと父さんがご飯作ってるから、全部お袋の味じゃないよね、オヤジの味だよ」
「まぁ、ね。ないよね」
ほとんど料理しないから当たり前だけど。
ちょっとだけうれしかったのは、卵粥をおぼえてくれてたこと。
侑斗と、旦那が二人同時にインフルエンザにかかって、二人に卵粥を作ったことがあった。
それだけでもいいとしよう。
「…にしてもさ、ホントに父さんは、母さんのこと大事にしてるよね?」
「なにを言うの、唐突に」
「彼女にさ、うちの家事はほとんど父さんがやってるって話したらさ、めちゃくちゃ羨ましがってたよ、結婚するならそんな旦那さんがいいってさ。思わず自分のハードル上げてしまったけど」
ん?いまサラッと?
「なに、侑斗、彼女いるの?結婚の話とかしてるの?うちに連れてきなさいよ、会ってみたいからさ」
「そうだぞ、息子の嫁さんになる人なら、挨拶しとかないと!」
「あ、まだそんな真剣に話してるんじゃないんだけどね。休みが合えば今度連れてくるよ」
その日のビールは美味しかった。
知らないうちに息子も成長している。
私だけ?成長していないのは…
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