どうしようかとそわそわしていたら、約束の時間前に美晴がやってきた。几帳面で真面目な性格なところも好感が持てる。今日は白いワンピースに上品な薄紫のボレロを着用していた。ネットのクチコミで人気の店を予約したので、ドレスコードをしてくれたのだろうか。
先ほどの亜澄の台詞が脳内に蘇り、隆也は余計に焦ってしまった。
「あれ? 亜澄さんは……?」
「あ、あのっ。実はさきほど亜澄さんからどうしても美晴さんの離婚準備を進めたいからと連絡があり、今日は二人でお祝いをしてきて、と言われてしまいました」
準備――いよいよ幹雄との本当の離婚が近づいている。今日はミーティングも兼ねた隆也の勝利の食事だからと亜純が誘ってくれたからオーケーしたのに話が違う。
「そうですか……残念です」
せっかくなら、隆也の勝利を3人で祝いたかったと美晴は少し残念な表情を見せた。
「あの…やはり僕とふたりではお嫌ですよね。…またの機会にしましょうか」
落ち込んだ様子で隆也が言うものだから、美晴が慌てて言った。「そんなつもりじゃなかったのです。隆也先生も頑張られましたもの! このままふたりでお祝いしましょう」
嫌がられていたわけではないとわかり、ほっと胸を撫でおろした。
窮屈なスーツに窮屈な店。若輩者の自分にはまだまだ似合わない場所ではあるが、いつかそれが似合う大人になれるように努力しよう。
彼女は自分が苦しんでいた時、辛い気持ちに優しく寄り添ってくれた。純粋な美晴に惹かれる気持ちはもう隠せない。
だからどんなことをしても彼女を守ろう。美晴がきちんと夫に制裁を下すまでは、彼女を支えるのだ。
ふたりでメニューを見ながら、どれがいいのか悩みながら慣れないオーダーをした。美晴がこういった店に馴染みがないことに隆也は安堵した。
やがて運ばれてきた酒で乾杯し、うまい料理を楽しんだ。
「次はいよいよ美晴さんですね」
「ええ。頑張ります」
「力になれることがあったら協力しますので、なんでも言ってくださいね」
「はい。ありがとうございます」
力強く笑う美晴に、隆也の気持ちは高揚した。
今は彼女の勝利をただ、願おう――
※
『美晴さん。準備はいいですか?』
――はい!
『今日、クラウンホテルで松本幹雄と上原こずえの婚約パーティーが行われます。招待状とドレスは届いていますね?』
――手元にあります。
『正念場です。頑張ってください』
――はい!
美晴は復讐アプリを閉じ、亜澄に連絡を入れた。1コールも鳴らないうちに亜澄が電話に出た。
「たった今…アプリから連絡がありました」
『ええ、いよいよですね。ふふっ。まあ、任せておいてください』
いよいよ今日、リベンジプランが遂行される日なのだ。亜澄も心が躍った。美晴を散々蹂躙していいように使い、挙句の果てに子供まで殺した男の罪がようやく暴かれ、裁きにかけられるのだ。
「わかりました。じゃあ、私は静観しておいたほうがいいですか?」
『高みの見物――と言いたいところですが、美晴さんにやってもらいたいことがあります。できますか?』
「もちろんです。なんでもやりますよ!」
ここまで来たのだ。後は幹雄を討ち取るだけ。
『では、いよいよパーティーに潜入です。最後に花火を打ち上げるのは、美晴さん、あなたです!』
亜澄の力強い声に、美晴もしっかりと応えた。
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