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#衝撃のラスト
山根利広
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#恋愛
ピデピー
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2025年の8月に入った辺りから、とある個人的な理由で夫の守護2人に幽体離脱時の修行を頼み込んだ。
いつもなら寝始めてすぐ誰かに呼ばれるのだが、それを拒否して2人との修行が始まる生活に切り替わった。
昨夜も日課として深夜に2人と修行を行い、ついでに百鬼のいるツリーハウスに顔を出そうとしたら、突然背後から緊迫した声が聞こえた。何て言ったのか分からない。
何かと思って振り向いた時には既に引っ張られていたようで、知らない場所にいた。
かなり広いがなんて言い表していいのか分からない。日本の学校の校舎内と言うには違和感があるが、海外だともしかしたら校舎内はあんな感じなのかもしれない。
目の前を通りすがるのは、イマドキな雰囲気の制服姿の高校生達だった。
なんとなく雰囲気に対して、韓国風のお洒落な学生だなと変な感想を抱いた。
ちょうど昨夜、夫や百鬼達と私が普段幽体離脱で飛んでいる空間のことや別作品に執筆した『パラレルワールドの私』の空間のことについて、認識的な答え合わせをしたばかりだった。
この校舎内のような空間はパラレルワールドと呼ばれるものではなく、無数に存在する現世と近い位置にある霊界の一部だと、直感で瞬時に理解した。
周囲の観察の為に広い廊下を歩いていると、曲がり角から来た黒い学ラン姿の男の子に声を掛けられた。
「急に呼んでしまってすみません」
いつもなら、呼び主を探すところからスタートするので、手間が省けて内心とても喜んだ。
でも、異国の言葉だった。もしかしたら日本人の霊ではないのかもしれない。
私は憑依守護のあさかの目の共有があるので、言語が違っても便利なことに、ある程度の言葉は日本語の文字として本人からふわっと出てくるのが見える。
言った言葉というより本心が文字化して見えるから、あさか自身が初めて聞く単語などは上手く表せない為、通訳がちゃんとできていない部分もある。
また、こちらの言葉や意思も相手に同じように母語に変換されて見せることもできる。
異国から来たうちの百鬼も最初は日本語が分からず、何日間かやり取りはあさかの目を共有しているので私は慣れている。
気を付けなければならないのは、思考もダダ漏れということ。考え事をしたい時には目の共有を切らなくてはいけないのがちょっと手間だ。
以後、彼らの言葉と私の言葉は互いに通訳された文字として見えていると思って欲しい。
彼は続けて困った顔で「助けて欲しいんです」とだけ言った。
詳細がないので何から助けて欲しいのか分からず、現状把握の為に今どういう状況なのかを問い掛けたが、彼は困った顔で苦笑いするだけだった。
何故か詳細を告げることができない、ということは表情から読み取れたが、かと言ってどうしていいのかも分からない。
困惑する私に彼は「少し、校内を散歩してみて下さい」と言ってきた。
自力で情報収集しろということか。
「僕は管理室にいますので、何かあったら窓口側から声を掛けてもらえますか。決して出入口側からは入って来ないで下さい。一部の役員しか入れないようになっていますので」
彼はそう言って、曲がり角のすぐ側にある管理室らしき部屋に引っ込んでしまった。
言われてみれば、彼の首元には他の生徒にはないバッチがついている。例えるなら委員会的なものなのだろうか。
仕方ないのでしばらく校舎内を探索していると、定期的に学生達が周囲を警戒する様子が見られて、なんだかとても違和感があった。
たまたま廊下で話し込んでいる女学生が3人いたので、立ち止まって彼女らを見て会話を盗み見た。
「……聞いた?また女の子が消えたんだって」
「えー……また?もう5人以上消えてるじゃん」
「噂ではもう食われたとか言われてて……」
「怖いね……うちらもいつ消えるか分からないんだよ」
「そうならないように〇〇(なんとなく聞き取れるが私は発音できない、おそらく誰かの名前)が呼びに行くって言ってたけど」
「でも違うのが来たら怖くない?」
全然関係ないが、彼女達の会話を眺めながら、なんで私は学生らしき個体が多い空間によく呼ばれるのだろうとぼんやり考えてしまった。
未成年らしき個体が多い空間には、強い個体が紛れ込んで来た時に対処できる奴はいないのだろうか?
未成年者らしき個体は大概弱く、強い個体からするとちょうどいい餌なのだろうか?
そもそもここの連中は制服姿の未成年者に見える外見だが、私の認識の中で弱いといえば守るべき存在=未成年者という固定概念があって、それで未成年者に見えているのかもしれない。
実際この空間に夫も幽体離脱して来たら、もっと別の個体として認識する場合もある。
……などと考えながら黙って至近距離でガン見していたせいか、女学生達が私の視線に気付いたようで、こちらに視線を向けてきた。
「あの……」と恐る恐る話しかけられて、我に返った。
「何処から来たの?」
「外から、だよね?」
女学生達が頭から爪先まで私の全身を眺めている。
私の幽体離脱時は裸足で白いワンピース姿だ。腰に物騒な刀をぶら下げている。
普通に制服姿の個体が沢山いる所では、かなり悪目立ちしていた。
「外からだよ。管理室の男の子に助けてって言われたからまず情報収集してるんだけど、詳細聞いてもいい?」
端的に伝えると、私の身体から文字がふわっと出たことに驚いた様子。
ややあって、女学生の1人が「やっぱり〇〇が呼んだんだ!」と少しだけ安堵したように言った。
しかし2人は半信半疑のような顔で「……子供に見えるけど大丈夫なの……?」とコソコソ話しているのが薄ら見えた。
確かに小学生と並んで変わらない身長ではあるけども、中身というか生身は一応三十路なんだよなぁ。魂の年齢だとどっちが上なのか、私も不明だけど。
コソコソする2人を尻目に、1人の女学生は状況説明を始めた。
「3年くらい前かなぁ、急に女の子が1人消えたんだ。自分から消えるような弱い子じゃなかったし、誰かに恨まれる性格や振る舞いもなくて、私は個人的に強い奴に食べられたんだと思ってる。
その後も定期的に謎の失踪があって、私達今までこの校舎の外で暮らしてたんだけど、3人目が消えてから、どうして消えたのか理由が分かるまで校舎にいた方が安全かなってことで集まって生活するようになったの。いつ何処で消えるのか原因が分からなくて」
こういう長い文章の時の文字はすぐ消えてしまうから、長年あさかの目を共有しているうちに速読スキルが身についた。
「……なるほど。じゃあその原因を突き止めろってことね」
「うん。でも全く誰も予想がつかないから、怖いんだ」
大体呼ばれた先ではデフォルトな理由だなぁと思った。
ここの連中は今まで呼ばれた中で1番、化粧も制服の着こなし方もお洒落だった。
「校舎……ってことは、やっぱりここは一応学校なんだね?」
確認の為に聞けば、3人が頷く。
「あの管理室は何?普通なら用務員とか先生がいるような部屋だと思うんだけど、生徒がいるよね?窓から見ただけでも最低3人くらい。彼等は?」
「〇〇のことだね。〇〇はこの校舎で1番頭が良いんだ。管理室は、〇〇達みたいな△△△(聞き取れないがやっぱり委員会的なものだと思う)が代表で集まってるだけだよ」
「前からずっとその子達がいる部屋なの?」
やたらと部屋についての情報を聞き出す理由は、廊下の十字路の真ん中に臨時で建てられたような様子で、異様なほど目立っていたからである。
立地の都合もあるが、何故あんな変な位置にあるのだろう、どう考えても邪魔なのに、と思う妙な建て方だったからだ。
「ううん、元々はなかったよ。3年前に大会で〇〇が優勝して、1番頭が良くて強いってなった辺りから、私達も理由は知らないけどあの場所に管理室が建ったの」
「大会……それって時々ある?」
「あるよ。10年くらいに1度必ずやるんだけど、前回は2名同格なのか1位だったっけ」
学力テストではないようだ。個人種目の体育祭のようなものか、もしくはうちの百鬼が定期的に行う武闘会みたいなものだろうか。
百鬼も暇なのか、定期的に自分達の力をぶつけ合って序列を決める武闘会を開催している。
「その2名は今何処に?」
何気ない問い掛けに、彼女達は押し黙った。
「……消えちゃった」
「3年前、1番最初に消えたのが元1位の片方の子で、2番目にもう片方の子が消えたのが、大体1ヶ月後だったかな……」
「どっちもいなくなったってこと?」
「そう。だから急遽3年前に大会を行ったの。代表がどっちもいなくなっちゃったから、次の代表を決めないといけなくて」
1番強い個体が急に理由も分からずひっそりと消えたのは、確かに恐ろしいかも。
「なるほど、とりあえず分かった。ありがとう。その代表より強い奴が紛れ込んでるってことだね」
ひとまずお礼を告げて校内を探索しつつ周囲を探る為に去ろうとしたら、女学生が引き止めてきた。
「待って、1人で行動するの?危ないよ」
「私達も一緒に行動するよ、そっちの方が安全だし」
「周りを見て。1人で行動してる子はいないでしょ?」
「…………」
正直単独の方が行動しやすい。ここの住人は空を飛べなさそうだし、逃げる必要がある時には不便そうだ。いよいよ危機が迫った時には、1人の方が周囲を気にせず暴れられる。
そう思ったが、女学生達は真剣そうだった。
まあ悪い子達ではなさそうだからいいかと了承して、一応自己紹介をするが、やはり彼女の名前が日本人の名前とはどうも異なるようで、しかも発音が日本語では上手く表せない。
仕方ないので、以下はA子とB子とC子と書く。容姿の詳細は省くが、3人共髪も綺麗に巻かれていて顔立ちも可愛い、それなりに高身長で細身かつお洒落な見た目だ。
移動しながら幾つかの質問を投げ掛けてみた。
「君達はやっぱり、何者かが代表の子達を食べてると思う?」
「噂ではそう流れてきてるよ。アンマがいるって」
アンマ(文字起こしするならこんな発音)って何だろう?と思いつつ次の質問をする。
あさかの目のデメリットは、あさかが聞いたことのない言葉は通訳されない。原文のまま文字化する。
「ここの住人の中に犯人がいるとは思っていない?」
「……多分。内部ではないと思う」
「もし内部に犯人がいた場合、遠慮なく斬っていいのかな?」
普段はこんな確認一々しない。そもそも毎回単独行動なので、守護以外の同行者がいるのはかなりイレギュラーだ。
「うん、その時は遠慮なく!」
「……ていうか、斬るってその腰につけてるヤツで?」
「そうだけど」
いつもこれで大体斬り伏せている。言うなら愛用品だ。たまに紛失して夫や百鬼に怒られている。最近は紛失しないように加工されて、自分では腰から刀の鞘を外せない。
でもきっと、彼女達からすると頼りなく見えたのだろう。半信半疑という表情だった。
世間話をしつつ、校舎内を探索する。どうにも迷子になりそうなくらい変な構造だ。
階段も複雑な形になっていて、こんな学校で移動教室なんてものがあれば即迷子で、毎度の遅刻は確実だな、なんて余計な思考が浮かんだ。
練り歩いた後、やっと1周したようで管理室が見えてきた。
随分と広かった。やっぱり自分1人で空中移動した方が早いなと思う。
管理室の窓口に、〇〇と呼ばれた最初に声を掛けてきた例の現在の代表がいた。座って頬杖をついている。
「探索は順調ですか?」
「まあ、今案内してもらって1周してきたところだけど」
そう答えながらふと、管理室の奥に明らかに小さな男の子が座ってゲーム機か何かを触っているのが見えた。
「……あの子は?」
小声で窓口から奥の子供を指さすと、一瞬〇〇の表情が固まった。
無言で立ち上がり、管理室からわざわざ出てくると、私の背中を押した。結構背が高い。S兄くらいあるなぁと思った。
「そういえば西側はもう行きましたか?」
「さっきの質問に答えてもらってないんだけど」
「……西側も是非行ってみて下さい、面白いものが見つかるかも」
飄々とした雰囲気で自然に振舞っているが、あの子供のことは触れて欲しくないのがひしひしと伝わってくる。
先程1周した方向とは別の階段の方に追いやられて振り向けば、女学生達は管理室の所で不安そうな顔をして佇んでいる。
「ここから先が西側に繋がる通路です。この階段を降りて真っ直ぐ進めば着きます」
「……あの女の子達は?」
「彼女達や僕は、この先には行けません。年齢制限があるんです」
「年齢制限……?だとしたら私はもっと行け……」
いけないのでは、と言おうとしたところで〇〇が自分の指を口に当て「しーっ!」と黙るよう遮った。
緊迫した空気を感じて押し黙ると、〇〇の背後に先程管理室の奥で見た男の子が立っていた。
「何してるの?誰?その人」
無邪気で可愛い元気な子供、という印象だった。
「えっと……」
緊迫しているのか、笑顔が貼り付けたようになっている。私をどう紹介するべきか非常に迷っているらしい。
「私もさっき見かけて気になってた!……もしかして弟くん?物騒なことになってるってあの子達が言ってたから、もしかしたら外は危ないから念の為連れて来てるのかなぁって」
助け舟のつもりはないが、私も自己紹介は避けた方がいい気がして話題を逸らす。
普段はあまりしないにっこにこ笑顔で男の子に話しかける。
彼もまた屈託のない笑顔で「うん!兄ちゃんが危ないからここにいなさいって!」と言い、しれっと「で、お姉ちゃんは?」と話題を戻された。
「さっき一緒にいたあの女の子、髪が長くてふわふわな子!あの子の友達だよ。外は危ないよーって言われて、怖いから避難して来たんだ」
これなら当たり障りもないだろう。〇〇が微かにほっとしたような顔をした。
「ふーん、そうなんだぁ」
男の子は無邪気な笑顔だ。見た感じ純粋に幼い男の子の容姿だが、中身が黒くて何も見えない。
感情や言葉を文字として読み取るのがあさかの能力だが、男の子からは珍しく内心の声が漂っていない。何か裏がありそうな子供だな、と思った。
精神年齢が大人で容姿だけは子供、という輩はこっちの空間では少なくない。
「もしかして、君は西側一緒に行けるの?」
ふと思い付きで聞けば、男の子は「西側に行きたいの?なんで?」と目をぱちくりした。
「まだ行ったことないから、何があるのかなって……」
「何もないよ」
即答だった。間髪入れず、遮るように即答されて一瞬押し黙ってしまった。
「……そうか、何もないのか。そしたらやーめよ!」
つまらなさそうに踵を返してみる。背中を向けていても、あさかの目は背後も見れる。こういう時にかなり便利だ。
〇〇は表情が非常に硬く、男の子は笑顔が掻き消えて無表情でこちらを凝視していた。
普通に落差が激しくて怖い。
今のところ2人からの敵意はないが、男の子からは探るような空気感がある。こういう時は長居はしない方が身の為だ。
「ちょっとあっち側見てくる!引き止めてごめんねー!」
もう一度振り向き、〇〇の肩をポンと叩き、そのまま去る。それとなく〇〇の肩に、百鬼が作ったあさかの目を応用したアイテムを1つ捩じ込んできた。あとで回収可能だ。
ボイスレコーダーや監視カメラのような役割ができる。壊されたらもう使えないので、使い捨てのアイテムだ。百鬼から幾つか拝借していた物である。
曲がり角を曲がって立ち止まり、〇〇の視点を確認する。あのアイテムは捩じ込んだ相手の視界と聴覚を共有できるらしい。
まだ試作品らしくある程度の距離でしか使えないが、本当に便利なアイテムだ。ちゃんと使ったことはないが、しっかり機能していた。
〇〇はまだあの西側階段の手前に立っているようだが、男の子は廊下を去って行ったようだ。管理室に戻って行くのが見える。
見送った後、なにやら〇〇の耳元で機械音が鳴った。どうやら無線機を付けていたらしい。
なんだか聞き取れない発音で男らしき声がした。少し長めに何かを話し掛けている。
〇〇が暗い声で「分かってる」みたいなニュアンスの返事をした。離れているので文字化して読めない。
絶対に何か裏がありますやんと内心思いつつ、このまま西側に行っていいものなのかと考えていると、廊下の端からA子達が走ってきた。
「良かった!まだ行ってなかったんだね!」
「……ねえ、西側って何があるの?」
単刀直入に聞けば、3人は押し黙る。
「……分からないんだ、私達にはあの階段から下が真っ暗で何も見えないの」
「見えない?」
私には普通に階段下にも廊下があるように見えた。
「階段の下が何処まで続いてるのかも見えないから、誰も近寄らないよ。なんか怖いし」
おかしい。年齢制限というのは、意外と幅がかなり狭いのか。
「あの階段からしか西側って行けないのかな?」
「ううん、裏道もあるよ」
「そしたら裏道から行こう」
「待って、私達は入れないよ?変な壁があるみたいで奥には進めないと思う」
「……とりあえず案内だけして欲しい」
結界があるのかもしれない。入れなければ先程の階段から行けばいい。
3人は渋々、裏道に案内してくれた。かなり廊下を迂回した先に、下に降りる階段がポツリとあった。階段を降りた先に両開きのドアがある。
「ここだよ。でも階段下のドアは開かないし、そもそも手前に透明な壁があるみたいでドアまで行けないよ」
あさかの目を使うと、確かに結界が張られているようだった。でもかなり薄い色で、これくらいなら私でも突破できる。
「うーん、多分行けるわ…………ほら」
手を翳して、スタスタとドアの前まで降りる。振り向けば3人が唖然としていた。
「なんで通れるの!?」
本当に驚いたようで、もはや困惑している。試しにB子が途中まで降りてきたが、何故か立ち止まって見えない壁を触る仕草をした。
「やっぱり通れないよ!?」
つられてA子もC子と降りてくるが、やはりダメだったようだ。同じ所で立ち止まっている。
「……ここから先は私1人で行くね。3人共、階段に簡易結界を張っておくから、階段から動かないで欲しい。なるべくすぐ戻るから」
ドアには1枚の板で錠がされており、それを外せばすんなりと開いた。
向こう側には廊下が続いているのかと思いきや、まさかの外に繋がっていた。
薄暗い霧のかかった寒い空間だった。でも異空間に繋がっている訳ではなさそう。
私は3人を残して外に出た。裸足だが、憑依守護のノイから小技を習得していて、幽体離脱時には地面から数ミリ浮いた状態で歩けるので屋内外関係なく基本的に足の裏は汚れない。
なんでずっと頑なに裸足かというと、これは個人的な感想だが、こういう呼ばれた立地では急に地面が抜けて水中に引きずり込まれることが多々あるせいで、靴を履いていると非常に邪魔なのだ。
服も厚着していると水中では普通に重く感じる。靴もあるのとないのでは水中の移動速度がかなり変わる。
それに陸地で何かに追われた時に飛び上がって回避したりするのだが、建造物に靴や厚着した服が引っ掛かったりする為、本当にびっくりするくらい邪魔くさい。
だから濡れても乾くのが早く、1枚で軽量なワンピースと裸足の格好が、水陸両用で動きやすいのだ。
少し浮いたまま外を見渡せば、霧の中に別館が幾つか建っていることに気付いた。1階しかない平屋というか例えるなら会館のような見た目だった。
空に向かって浮遊すると、途中で妙な壁にぶつかった。よく見ると、校舎の天井と同じだった。
つまるところ、ここはとんでもなく縦にも横にも広いが外ではなく、校舎の内部に造られた空間ということになる。
なんじゃこりゃと思いつつ、慎重に1番近くの会館のスライド式のドアを開ける。校舎に比べてかなり年季の入った建物だ。
入るとすぐに受付台があり、そこに1人の老婆がいた。
老婆はいきなり入ってきた私に驚いた様子で受付台から慌てて出てくると、私の身体を両手で触りながら「あれまぁ、怪我はないかい?」といったニュアンスで尋ねてきた。
ここも日本人の集まる空間ではなさそうだ。
「こっちにお入り」と案内されたのは、更に奥のホールのような部屋だった。真ん中がホールで左右に仕切られた部屋がある。昔私が通っていた保育園の内装と構造が似ている。
左の部屋で、ややぽっちゃりした男の子が積み木で遊んでいた。右の部屋では女の子が2人ほど、人形遊びをしているようだった。壁際には玩具の棚がある。
ここは外観こそ会館のようだが、託児所なのではないか。そんな気がした。
通されるがままホールに入ると、老婆がお茶を運んできた。湯気が立っている。
「よく逃げて来れたねぇ」
老婆は私の頭を撫でながらそう言った。
「……私外部から来てるので、まだよく分からないんですけど……ここって託児所ですか?あっちは学校……に見えたんですけど」
お茶を受け取りながら、幾つか質問を投げかけてみる。
「あれまぁ外部から……そりゃ無事な訳だ」
老婆はお茶を啜りながら頷く。見るからに危害はなさそうな人物だ。
「ここではねぇ、皆アンマの贄になるんだ。〇〇がここを安全に守れるように1部を隔離しただけで、元々は校舎と同じ空間だよ。
アンマが来たのはもう何年も前でねぇ、校舎の方に長くいるとアンマの影響を受けて、そこに住んでるような感覚になるのさ。
洗脳みたいなもんさねぇ。平和に過ごせるような感覚になって、皆麻痺しちまう。
でもアンマは1年に1度必ず贄を要求する。校舎の連中はそれを知らない。紛れ込んでるとも知らずに皆楽しく過ごしているのさ」
とりあえずそのアンマという人物がここでの脅威なのだろう。よくあるSOSだ。
「そのアンマは何処に?」
単刀直入に聞けば、老婆は手で顔を隠す。
「言えないよぉ、口に出したら食われちまう」
それじゃあ悪いが対処はできない。
眉を寄せていると、それに気付いたのか老婆は周囲を見渡して、左の部屋のややぽっちゃりした男の子を指さした。
「あの子はもう本当なら大人になっているはずなんだ。ここでは成長が止まる。あちらの校舎にいるとねぇ、成長は止まらないんだよ。
〇〇は小さな子供を逃がしたいと、最後の慈悲としてこちらにこの子達を住まわせた」
「あっちの女の子2人も、ですか?」
「そうだよ。もう校舎にいる子達と同じくらいの年頃さね」
なんだかその時、ふと脳裏に管理室の男の子が浮かんだ。
「あっちの校舎にまだ小さい子供がいるとしたら、それは普通ですか?おかしいことですか?」
その問いに、老婆は驚いた顔をした。
「まだあちらに小さい子がいるのかい?」
「……管理室に1人。〇〇(発音できないのでなんとなくのニュアンス)の弟だと聞きました」
誰のことか伝わるか怪しかったが、ニュアンスだけでも伝わったようだ。
「弟……?〇〇は兄が1人いたけれど、アンマの贄にされたよ。弟なんて聞いたこともない」
やはり先程の異様な違和感は……。
「お話ありがとうございます。私あっちに戻りますね」
そう言って立ち上がると、老婆が腕を掴んできた。
「ダメだよ、アンタも食われちまう。言っただろう、アンマは特に小さな子供が好物なんだ」
「大丈夫!!これでも中身は三十路です!」
「え」
ニコニコと振り切ると、老婆の驚いた声が聞こえたが、構ってる暇もない。
さっさと片付けて帰らないと朝になる。急いで来た道を戻って校舎に入った。
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「雪さん、最新話読ませていただきました。第65話、すごく引き込まれました…!主人公が異国の学校みたいな霊界に呼ばれて、女学生たちから聞いた失踪事件の話、そして管理室の男の子と“弟”の不気味な雰囲気…。あの小さな男の子、絶対ただの弟じゃないですよね。老婆の話で『弟なんていない』って出た時、ゾッとしました。西側の託児所のような空間も、アンマの存在も、まだ謎が多くて続きがすごく気になります。今回も主人公の行動力が頼もしかったです!