テラーノベル
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それから、数年後。
ある青く澄み渡った日の午後。
かつて神々が統べていた荒地には、ビルダーマンの手によって建てられた、温かな木造のマイホームが建っていた。
庭には青々とした芝生。
その中央には、煙をもくもくと上げるバーベキューコンロ。
そして――そこから漂ってくる、香ばしいチキンの匂い。
「おいシェドレツキー! チキン焦げてるぞ! 何やってんだバカッ!!」
「おっと!? いかんいかん!」
カジュアルな服に身を包んだシェドレツキーが、慌ててトングを動かす。
「1xとの対戦ゲームに夢中になりすぎて、うっかりしていた!」
「ゲームとチキンを同時にやろうとすんな!!」
かつて神々を震え上がらせた男とは思えない光景だった。
神としての威厳も。
圧倒的な神力も。
世界そのものを支配していた頃の恐ろしい雰囲気も。
今のシェドレツキーには、ほとんど残っていない。
だが――。
その瞳には、神だった頃には決して持てなかった、血の通った温かな光が宿っていた。
「ったく……」
その隣で、腕を組みながらジト目を向けているのは、相変わらず半透明の緑色の身体をした1x1x1x1。
肩には、数年経った今でも大切に手入れされている赤いケープ。
体が大きくなった事で、少しだけケープは小さく見える。
使い込まれたその布が、午後の風に優しく揺れていた。
体内の黒い肋骨も、昔のように不吉な音を立てることはない。
カタ……カタ……。
まるで機嫌のいい時計のように、穏やかなリズムを刻んでいた。
「神の力を捨ててからというもの、お前は本当にマヌケになったな!」
1x1x1x1が腰に手を当てる。
「俺が隣で監視してなきゃ、今頃この家ごと燃えてるところだぞ!」
「ははは! 違いない!」
シェドレツキーは豪快に笑った。
「だが、お前が毎日こうして横で文句を言ってくれるおかげで、私は焦げたチキンを食べずに済んでいる」
そして――。
大きな手が、1x1x1x1の頭へ伸びる。
「感謝しているよ、1x」
ぐしゃぐしゃ。
「なっ……!?」
1x1x1x1のクラウンが盛大に揺れる。
「触るなバカシェドレツキーッ!! 髪型が崩れるだろ!」
「ははは!」
「撫でるならチキンの一本でも寄こせッ!」
1x1x1x1は真っ赤になってバタバタ暴れる。
だが――。
本気で手を振り払うことはしなかった。
むしろ、シェドレツキーの手のひらが離れそうになると、ほんの少しだけ頭をそちらへ寄せる。
本人は気づいていない。
……たぶん。
そんな平和な午後に――。
「やあ! シェドレツキー! 1x1x1x1!」
庭の柵の向こうから、聞き慣れた声が響いた。
「チキンの焼ける匂いに誘われて来ちゃったよ!」
巨大なハンマーを肩に担ぎ、手にはジュースの入った袋。
やってきたのはビルダーマンだった。
その後ろからは、大きな悪魔の翼を小さく折りたたんだドゥームブリンガー。
「シェドレツキー様、1x1x1x1様。本日もお邪魔いたします」
「おお、ビルダーマン! ドゥームブリンガー!」
シェドレツキーが笑顔で手を振る。
「ちょうど焼き上がったところだ! さあ、上がってくれ!」
「お邪魔しまーす!」
「失礼いたします」
庭のテーブルを囲み、賑やかなパーティが始まった。
ジュースを注ぎ。
チキンを取り分け。
ゲームの勝敗で揉め。
1x1x1x1が「俺が勝った!」と叫び。
シェドレツキーが「いや、今のは反則だ!」と抗議し。
ビルダーマンが笑い。
ドゥームブリンガーが呆れながらも微笑む。
かつて世界を揺るがした戦いの日々が、まるで遠い昔の出来事のようだった。
最高神の粛清。
Banlandsへの潜入。
憎悪と侵食。
世界を巻き込んだ壮絶な戦い。
そんなものが本当にあったのかと思うほど、今は穏やかだった。
……もっとも。
この平和な日常にも、やっぱり「異世界からの乱入者」は存在する。
「おおおおおおおおっ!?」
突然、空に小さな時空の裂け目が開いた。
全員が空を見上げる。
「……なんだ?」
次の瞬間。
ドスンッ!!
「ぐはぁっ!?」
芝生の上に、黒いマントをまとった巨大な男が豪快に落下した。
「……ハックロード!?」
そう。
あの異世界の愛妻家、ハックロードだった。
背中には相変わらず巨大な暗い棺。
しかし、かつて顔の半分を覆っていた骸骨マスクはもうない。
そして両手には――。
なぜか大量のお土産袋。
「痛たた……」
ハックロードが芝生から起き上がる。
すると、その背後から紫色の長い髪をふわりと揺らしながら、美しい女性が優雅に降り立った。
ブライトアイズである。
「ちょっとアンタ!」
彼女は腰に手を当てた。
「ポータルをくぐる時は足元を確認しなさいって、何度言えば分かるのよ!」
「ひ、ひぃぃっ!」
ハックロードが縮こまる。
「す、すまないブライトアイズ!」
「みっともないったらありゃしないわ!」
「はい……!」
「まったくもう!」
「はいっ!」
その光景を見て、ビルダーマンが吹き出す。
「相変わらず尻に敷かれてるなぁ、ハックロード!」
シェドレツキーも肩を揺らして笑った。
「元気そうで何よりだ!」
「久しぶりだな、異世界の私よ!」
ハックロードは立ち上がると、持ってきた皿をテーブルへドカンと置いた。
「皆! 我が最愛の妻が作った、至高のチキンフランクを持ってきたぞ!」
「アンタが威張ってどうすんのよ!」
ペシッ!
ブライトアイズのツッコミがハックロードの頭に炸裂した。
「ぐふっ!」
「私が作ったんでしょうが!」
「そ、それはそうだが……!」
「ったく、もう!」
ブライトアイズは呆れたようにため息をつく。
けれど、その顔には隠しきれない愛情が浮かんでいた。
そんな夫婦を横目に――。
「フン……また来たのか、あのバカ夫婦」
1x1x1x1が鼻を鳴らす。
そして。
ちゃっかりチキンフランクを一本取る。
ガブッ。
「……!」
1x1x1x1の目が少しだけ輝いた。
「……美味いか、1x?」
シェドレツキーが顔を覗き込む。
「…………」
1x1x1x1はモグモグと頬を膨らませる。
そして、ぷいっと横を向いた。
「べ、別に……!」
「そうか?」
「シェドレツキーが焼いたヘタクソな焦げチキンより、ほんの少しマシなだけだ!」
「ほんの少しか」
「そうだッ!」
「ふふ」
「勘違いするなよッ!!」
1x1x1x1は真っ赤になって叫ぶ。
だが――。
その半透明な身体の中で揺れる黒い肋骨は。
カタ、カタ、カタ。
どこか嬉しそうに、軽快なリズムを刻んでいた。
シェドレツキーはそんな1x1x1x1を見つめ、穏やかに目を細める。
神の万能な力を失った。
世界を自在に変える力もなくなった。
けれど――。
今の自分には、最高の仲間たちがいる。
喧嘩ばかりしているけれど、誰よりも自分のそばにいてくれる相棒がいる。
かつて「悪意」として生まれた影は、今では自分の大切な家族のような存在になっていた。
「なあ、1x」
「なんだよ、バカシェドレツキー」
1x1x1x1がチキンを抱えたまま振り返る。
「チキンはやらんぞ」
「いや、そうじゃない」
シェドレツキーは笑った。
「……これからも、ずっとよろしくな」
「……」
1x1x1x1の赤い瞳が、一瞬だけ大きく揺れる。
「……フン」
赤いケープを、頭からすっぽりと被る。
「言われなくたって……」
小さな声が、ケープの中から聞こえた。
「お前が死ぬまで、側にいてやるよ」
「……ありがとう」
「礼を言うな。なんか気持ち悪い」
「ははは」
「笑うなッ!」
また始まった。
その二人のやり取りを見て、ビルダーマンが笑う。
ブライトアイズも呆れながら微笑む。
ハックロードは「我々の夫婦愛には敵わないな!」と胸を張り――。
「アンタは黙ってチキン配りなさい!」
「はいっ!」
ペシッ!
今日も平和だった。
空はどこまでも青く澄み渡っている。
芝生の上には、笑い声。
テーブルの上には、たくさんのチキン。
そして、その周りには――大切な仲間たち。
神だった頃には想像すらできなかった、ごく普通の幸せ。
それは、何よりもかけがえのないものだった。
世界を救う必要もない。
誰かと戦う必要もない。
ただ、みんなで笑って。
たまに喧嘩して。
焦げたチキンを取り合って。
そして、また次の日を迎える。
神から人間へ。
憎しみから絆へ。
絶望から、ありふれた日常へ。
こうして、彼らの物語はひとまず幕を閉じる。
けれど――。
1x1x1x1の毒舌も。
シェドレツキーの笑い声も。
ハックロード夫妻の夫婦喧嘩も。
ビルダーマンとドゥームブリンガーの賑やかな訪問も。
きっと、明日も変わらない。
そして、その「変わらない日常」こそ。
彼らが命懸けで守り抜いた、最高の奇跡だった。
………END
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ゆ
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蟹溝@プロフ必読
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コメント
2件
更新お疲れ様です!ツンデレな1xや1xを肯定するtelamonも仲が良いという感じで素敵ですし,ハックロードに何かあったときにブライトアイズが立ち上がったのも夫婦仲を感じて素晴らしいと思います!重すぎる夫婦愛をエラーと感知したRobloxも面白いです!エラーを感知するということはRobloxはコンピューターのようなシステムなのでしょうか?🤔最後の「変わらない日常」のチャプターで皆が集まっているのも誰も傷つかないハッピーエンドでいいと思います!改めてリクエストを書いてくださりありがとうございます!