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桃下結衣
138
46
こあたん
6,671
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ウィラード空港は、十字の滑走路で定期便もチャーター便も、全ての飛行機がここの滑走路を使っていた
飛行場の横には、すぐに大きなカフェがあり、待つことを余儀なくされた搭乗や出迎えの人達は、たいていそこで時間をつぶしていた
長いフライトを抜けて、入国審査を終えた竜馬は、一郎さんに教えてもらった「カルロス」という男性を探した、そしてしばらくすると、カウボーイハットをかぶった男性がこちらを見ているのに気づいた
そして、その男性が持っているウェルカムボードに、自分の名前が書かれていた
―あっ・・・あの人だ―
そう認識した時、ウェルカムボードを持った彼は、大股で竜馬に歩み寄り、竜馬のあたまをくしゃくしゃにした
「よう!お前が竜馬かい?ひょろひょろだな!!」
そう言うと彼はくるりと踵を返し、出入り口にズンズン歩いて行った、竜馬は慌ててボストンバッグを肩に引っ掛け後をついて行った
カルロスは、身なりはそれなりによかったが、太り気味で、団子鼻の頭には陶器の皿のひび割れのように毛細血管が広がっていた、酒の飲みすぎで出来たものだ
髪は赤褐色で、カウボーイハットからあちこち飛び出ているロン毛だ、グレーの瞳は、なぜかいつもこずるい事を考えているように思えた
―一郎さんの紹介だから、ヘンな人じゃないよね?・・・人は見かけによらないと言うし・・・むやみに疑うのは良くないよ―
カルロスを見た竜馬の第一印象から来る考えが、打ち砕かれるのは時間の問題だった、ターミナルビルのすぐそばに止めていたピックアップトラックの運転席にカルロスは無言で乗り込んで、エンジンをかけた
慌てて竜馬も助手席に乗り込んだ、さっきの感じではモタモタしていると置いて行かれると感じたからだ、横の飛行場からセスナ機のタービンエンジンの爆音が、辺りに響いている
まったく知らない土地に来てしまった心細さは・・・今まで体験したことなどない恐ろしさだった・・・街並みも道も、日本と程遠かった、街から離れれば離れるほど、赤い土埃が舞う舗装されていないデコボコの道ばかりだった
カルロスのピックアップトラックは、デコボコ道を猛スピードで走るので、ずっとガタガタ揺れ、大人しく乗っているだけなのに竜馬の奥歯もカタカタ鳴った
「あれがお前が行くキャンバスだ!」
カルロスが指さした場所を見ると、夕日に照らされた巨大なお城みたいな、校舎がそびえ建っていた
―でかっっお城じゃなくて、あれが学校?―
「いい所ですね・・・」
竜馬は話しかけてみた
「そうか?クソみたいな所だぞ?」
カルロスの英語は、なまりがキツく、ほとんど子音が聞き取れなかった、でも人間不思議なもので、今の言葉が肯定的ではないことは感じ取れた
カルロスは座っていると、突き出た腹がキツイのか、運転しながらベルトを緩めた、竜馬はそれを横目で見て思った、いったい何を飲み食いしたらこんな腹だけ突き出ている体型になるんだろうと・・・そしてこれから一緒に暮らすことで、その謎も解き明かされることになる
。 .:・.。. .。.:・
カルロスの家は、キャンパスからは自転車で通える距離で、彼は独身らしく、死んだ親から譲り受けた一軒家に一人で住んでいた
そこは白い柱と、水色の木の壁の木造一軒屋で、独立した赤い郵便ポストといった、どこか昔のアメリカ映画に出てくるような家で、庭は広く、雑草だらけで何年も手入れされていない状態だった
大きな二重ドアに、網戸をきちんと閉めていても、そこら中から虫が入ってくるような隙間だらけの家は、二階に3部屋、一階に1部屋と、バカ広いリビングがあった、竜馬は二階のバスルーム付きの部屋を割り当てられ、住む間のルールなども、何も聞かされずに「メシは朝夕の二回だ、分からないことがあったら聞け!」とカルロスは言い放ち、さっさと1階のテレビがあるリビングに去って行った
ここで竜馬は悟った、どうやらパンフレットに書かれているような、優しいホストファミリーとの充実した海外ホームステイ生活は望めないみたいだと・・・
その日の夜・・・竜馬はバスタブに湯を溜めている時に、どうしようもなくジェニの事を思い・・・涙が溢れてきて止まらなくなった
それから竜馬は何年もこの場面を数えきれないぐらい心の中で再現することになった・・・その度にこうすればよかった、ああ言えばよかったと、思いながら涙した、しかし実際に竜馬がしたことは、彼女に手紙を送ったり、国際電話をすることではなく、ただ振り返りもせず・・・前へ進むことだった
しかし・・・それからの人生でも、竜馬はよく考えもせずに、自分の行った行動を悔やむ経験を何度もすることになるが、あの少女に何も言わずに去ったことほど、後悔したことはなかった
しばらく無言で涙を流し続けているうちに、激しく声をあげて泣き出してしまいそうなので、とうとうバスタブに潜って、子供みたいに膝を抱えて、その中にうずくまった
湯の中に涙を落としながら泣いていると・・・ひどくだるくなって心が次第に落ち着いて来た
明日はキャンバスへ行ってみよう・・・
何か楽しい事があるかもしれない・・・
少しだけ前向きになり・・・
その夜は眠りについた
コメント
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異国に一人、頼れるのは一郎さん紹介のカルロスだけ…という不安が、赤土のデコボコ道の描写からひしひし伝わってきました。カルロス、見た目はアレですが憎めない雰囲気で、これからの共同生活が楽しみです。湯船でジェニを思い出し涙を流すシーンは切なくて…。「あの少女に何も言わず去ったことほど後悔はなかった」の一文が刺さりました。前向きになれたラスト、次も気になります!