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アニオタちゃん
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るあ
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HUNDRED NOTE ― ホークアイズ IF
第3話 「もう一度、あの場所へ」
あの夜から三日。
瑠衣を狙っている人物について、ホークアイズは調査を続けていた。
だが。
手掛かりはほとんど見つからなかった。
「……おっさん」
「何だ」
「やっぱり、何もない?」
「今のところはな」
杖道が資料を閉じる。
瑠衣はソファに座り、膝を抱えていた。
「そっか……」
いつもの瑠衣なら、ここで何か冗談を言う。
仁にちょっかいを出す。
杖道に文句を言う。
けれど今日は違った。
「瑠衣」
仁が呼ぶ。
「ん?」
「今日はもう休め」
「でも……」
「調査は俺たちがやる」
「……」
瑠衣は少し迷った。
「……分かった」
立ち上がる。
その時だった。
窓の外に、人影が見えた。
「……!」
瑠衣が振り向く。
だが、もう誰もいない。
「どうした?」
仁が尋ねる。
「……いや」
瑠衣は首を振った。
「何でもない」
そう答えた。
その日の夜。
瑠衣は一人で事務所を出た。
「ちょっとコンビニ行ってくる」
「俺も行く」
仁が言う。
「いいって!」
瑠衣が笑う。
「すぐ戻るから!」
「……」
仁は瑠衣を見る。
「分かった」
「じゃ、行ってくる!」
瑠衣は手を振った。
扉が閉じる。
仁はその扉をしばらく見ていた。
「……仁」
杖道が声をかける。
「何だ」
「どうした?」
「……いや」
仁は視線を逸らす。
「何でもない」
――それから。
一時間。
二時間。
瑠衣は戻らなかった。
「……遅いな」
杖道が時計を見る。
仁は何も言わない。
ただ、スマートフォンを握っていた。
電話をかける。
出ない。
もう一度。
出ない。
「……仁」
「分かってる」
仁が立ち上がる。
「探す」
その声には、いつもの落ち着きがなかった。
「瑠衣を探すぞ、おっさん」
「分かった」
二人はすぐに事務所を出た。
――しかし。
その頃。
瑠衣は。
暗い部屋にいた。
「……」
目を開ける。
知らない天井。
手首を動かす。
自由には動かせない。
「……ここ」
瑠衣は周囲を見る。
そして。
一番見たくなかったものを見つけた。
壁に掛けられた、古い写真。
幼い自分。
長い髪。
女の子の服。
「……」
瑠衣は目を逸らした。
「……また、ここかよ」
背後から扉が開く。
「起きたか」
聞き覚えのある声。
瑠衣の身体が強張る。
「……父さん」
男は淡々と言った。
「戻ってきてもらった」
「俺は戻ってきたんじゃない」
瑠衣は睨む。
「連れてこられただけだ」
男は答えない。
代わりに、一着の服を置いた。
女の子らしい服。
そして。
「着なさい」
「……嫌だ」
「瑠衣」
低い声。
瑠衣の肩が跳ねる。
身体が勝手に反応する。
――逆らうな。
――怒らせるな。
――いい子にしろ。
昔の記憶が蘇る。
「……」
瑠衣は拳を握った。
「……分かった」
小さく答えた。
男が部屋を出る。
扉が閉まる。
瑠衣は服を見つめた。
「……俺は」
声が震える。
「俺はもう、昔の俺じゃない」
それでも。
瑠衣は服を着た。
髪も整えられた。
鏡の中に映った自分。
昔と同じ姿。
女の子として生きていた頃の自分。
「……」
瑠衣は鏡から目を逸らした。
「……嫌だ」
けれど。
それ以上に怖かった。
逆らえば、何が起きるか。
身体が覚えている。
だから。
瑠衣は「女の子」として振る舞った。
一日。
三日。
一週間。
二週間。
三週間。
そして――
一ヶ月。
その間。
瑠衣はずっと同じ生活を強いられた。
女の子の服を着る。
髪を伸ばしたままにする。
言葉遣いを直される。
座り方を注意される。
笑い方まで。
「もっと女の子らしく」
その言葉を聞くたび。
瑠衣の胸が苦しくなる。
けれど。
瑠衣は耐えた。
「……俺は瑠衣だ」
夜になると、毎日そう呟いた。
「物怪瑠衣」
それだけは忘れないように。
「俺は……俺だ」
一方。
ホークアイズでは。
仁と杖道が瑠衣を探し続けていた。
「一ヶ月だ」
仁が呟く。
「分かっている」
杖道が答える。
「もう一ヶ月になる」
仁は机の上に資料を並べる。
「瑠衣は、自分から消えるような奴じゃない」
「そうだな」
「連れ去られた」
仁は断言した。
「そして、場所は――」
一枚の古い地図。
仁が指を置く。
「ここだ」
杖道が見る。
「瑠衣の昔の家か」
「ああ」
仁の目が鋭くなる。
「行くぞ、おっさん」
「分かった」
二人は立ち上がった。
第4話 「俺を迎えに来た」
夜。
瑠衣は窓の外を見ていた。
一ヶ月。
長かった。
けれど。
今日。
なぜか嫌な予感がする。
「……」
瑠衣は胸元を握る。
「仁……」
小さく呟いた。
会いたい。
そう思った。
仁。
杖道。
ホークアイズ。
帰りたい。
「……帰りたいな」
その時。
――ドン。
遠くで大きな音がした。
瑠衣が振り向く。
「……?」
続けて。
何かが倒れる音。
そして――
聞き慣れた声。
「瑠衣!」
「……!」
瑠衣の目が見開かれる。
「仁……?」
扉の向こう。
足音が近づく。
そして。
扉が開いた。
「瑠衣」
「……仁!」
瑠衣は立ち上がる。
けれど。
一瞬、自分の姿を見て動きを止めた。
女の子の服。
整えられた髪。
昔と同じ姿。
「……」
瑠衣は俯く。
「……見ないで」
仁は何も言わない。
ただ。
まっすぐ瑠衣のところまで歩いていく。
「帰るぞ」
「……」
「俺たちが迎えに来た」
瑠衣の目から涙が落ちた。
「……仁」
「何だ」
「俺……」
言葉が出てこない。
仁は静かに言う。
「瑠衣」
「……」
「お前は何も悪くない」
その言葉を聞いた瞬間。
瑠衣の張り詰めていたものが切れた。
「……っ」
涙が溢れる。
「俺……ずっと……」
仁は急かさない。
「一ヶ月……ずっと……」
「……ああ」
「女の子でいなきゃって……」
「もういい」
「でも……身体が勝手に……」
「もういい」
仁はもう一度言った。
「ここから出るぞ」
「……うん」
そこへ杖道が現れる。
「瑠衣」
「……おっさん」
「迎えに来た」
瑠衣は泣きながら笑った。
「……遅い」
「すまない」
「……でも」
瑠衣は涙を拭う。
「来てくれて……ありがとう」
杖道は頷く。
「帰るぞ」
「うん」
三人が部屋を出る。
その先に。
瑠衣の父親が立っていた。
「瑠衣」
瑠衣の身体が止まる。
「戻りなさい」
瑠衣は震えた。
「……」
昔なら。
ここで「はい」と答えていた。
怒らせないように。
嫌われないように。
生きるために。
でも。
今日は違った。
仁が隣にいる。
杖道が後ろにいる。
そして。
今の瑠衣には、帰る場所がある。
「……嫌だ」
男が眉をひそめる。
「何?」
瑠衣は震えながらも言った。
「俺は、もう戻らない」
「瑠衣!」
声が響く。
瑠衣の身体が一瞬硬直する。
けれど。
仁が横に立った。
「瑠衣」
「……仁」
「行くぞ」
「……うん」
瑠衣は一歩前に出た。
「俺は、物怪瑠衣だ」
男を見る。
「女の子として生きろって言われたから、そうしてきた」
「……」
「怒られたくなかったから」
瑠衣の声が震える。
「怖かったから」
そして。
「でも」
顔を上げる。
「もう、俺の生き方を決めるのは父さんじゃない」
静寂。
瑠衣は続けた。
「俺が決める」
仁が言う。
「それでいい」
杖道も頷く。
「行こう、瑠衣」
瑠衣は二人を見る。
「……うん!」
三人はその場を離れた。
帰りの車。
瑠衣は窓の外を見ていた。
一ヶ月間。
ずっと女の子として過ごした。
それは、昔の自分に戻ったような感覚だった。
けれど。
今は違う。
「……仁」
「何だ」
「俺、またあの服着せられたらどうしようって思ってた」
「もう着る必要はない」
「……そっか」
瑠衣は自分の服を見る。
いつもの服。
いつもの自分。
「なんか……変な感じ」
杖道が言う。
「何がだ」
「自由なのに、まだ怖い」
「それでいい」
「え?」
「怖さは、すぐには消えない」
杖道は前を向いたまま言う。
「一ヶ月で身についたものなら、一ヶ月で消えるとは限らない」
瑠衣は黙った。
「……おっさん」
「何だ」
「俺、しばらく変なことするかもしれない」
「例えば?」
「誰かの機嫌とか、すげぇ気にしたり」
「……」
「怒られそうになると、すぐ謝ったり」
仁が言う。
「それでもいい」
「……」
「それがお前の過去なら、無理に消す必要はない」
「でも」
「少しずつでいい」
瑠衣は窓の外を見る。
街の明かりが流れていく。
「……うん」
小さく笑う。
「俺、帰るんだな」
「そうだ」
「ホークアイズに」
「ああ」
「仁と、おっさんのところに」
「……ああ」
瑠衣は目を閉じた。
「……ただいまって言っていい?」
仁は少しだけ間を置いて答えた。
「好きにしろ」
「そこは普通に『おかえり』って言えよ!」
「帰ってからな」
「じゃあ絶対言えよ!」
「分かった」
杖道が小さく笑った。
「騒がしいな」
「おっさんも笑ってるじゃん!」
「笑っていない」
「笑ってる!」
「笑ってない」
「仁、見た!?」
「見てない」
「もう!」
久しぶりに。
車内に瑠衣の声が響いた。
その声は。
昔、誰かに「女の子らしく笑え」と言われて作った笑顔ではなかった。
誰かに怒られないための笑い方でもない。
ただ。
自分が笑いたいから笑っている。
それだけだった。
そして。
瑠衣はまだ知らない。
父親が最後に残した言葉が――
「一ヶ月だけで終わると思うな」
という意味を持っていたことを。
物怪瑠衣の過去は。
まだ、完全には終わっていなかった。
――第5話へ続く。
コメント
1件
えっと…これ、めっちゃ重い回だったね😭💦 瑠衣が父親に連れ戻されて、女の子の服着せられて、昔の自分に戻らされるの…読んでてこっちまで息苦しくなったよ… 仁と杖道が迎えに来た時、「見ないで」って言う瑠衣が切なすぎて泣きそうになった😢 それでも最後に「俺が決める」って言い切ったのは本当に強くなったんだなって思った! あと、車の中で「ただいま」って言うシーン、仁が「帰ってからな」って返すとこ好きすぎる…この二人の空気感最高だよ…! 続き、父親がまだ何か仕掛けてきそうで怖いけど、ホークアイズのみんなで乗り越えてほしいな…!次の話も楽しみにしてるね🌸