テラーノベル
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9話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
タクシーの後部座席。
窓の外を流れていく街の灯りが、
規則正しく車内を照らしては消えていく。
その淡い光の中で、
レトルトはまだ少し荒い呼吸を繰り返していた。
肩で息をしながら、
キヨの腕に体重を預けている。
キヨはそんなレトルトの肩を、
壊れものに触れるみたいにそっと抱き寄せた。
「……レトさん、大丈夫?」
小さく落とした声は、
自分でも驚くほど優しかった。
返事はない。
ただ、レトルトの指がキヨの服をぎゅっと掴む。
その感触に、
胸の奥がじわりと熱くなる。
同時に——
さっきの光景が、
鮮明に蘇る。
牛沢の手がレトルトの肩に触れた瞬間。
胸の奥が一気に沸き上がったあの感覚。
怒り。
焦り。
奪われるかもしれないという、
どうしようもない衝動。
(……なんだよ、あれ)
キヨは目を伏せる。
理性なんて一瞬で吹き飛んでいた。
止める余裕なんて、どこにもなかった。
自分でも知らなかった感情。
——独占欲。
その言葉が、
ゆっくりと胸の奥に落ちてくる。
(俺、あんなに……)
ぎゅっと、レトルトを支える腕に力がこもる。
守りたい、なんて綺麗なものじゃない。
触れさせたくない。
近づけたくない。
今まで感じた事のない黒く歪んだ感情。
それに気づいた瞬間、キヨは自分にもこんな感情が湧くのかと少し戸惑った。
車内にはエンジン音だけが静かに響き、
二人の間に流れる空気は、どこか熱を帯びていた。
キヨは視線を落としたまま、
レトルトの体温を確かめるように、
そっと肩を引き寄せる。
離したくない、と
無意識に思ってしまう自分に気づきながら一
タクシーは静かに減速し、
やがてキヨの住むマンションの前で止まった。
夜の空気はひんやりとしていて、
さっきまでの熱を少しだけ冷ましていく。
キヨは料金を支払うと、
すぐにレトルトの肩を抱き寄せた。
「着いたよ、レトさん。俺の肩につかまって」
小さく声をかけると、
レトルトはかすかに頷く。
足元はまだおぼつかない。
キヨはそのまま体を支えながら、
ゆっくりとロビーを抜けていく。
部屋に入ると 暗闇のまま そっとレトルトをソファへと横たえる。
クッションが沈み、
レトルトの体がゆっくりと沈み込む。
頬はまだ赤く、
呼吸は浅く熱を帯びている。
トロンとした虚ろな目が、
まっすぐキヨを捉えた。
その視線に、
胸の奥がじわりと締め付けられる。
「……ごめん」
申し訳なさが滲む言葉がこぼれる。
けれどレトルトは何も言わず、
ただじっと見つめてくる。
まるで、
それすらも受け入れているみたいに。
キヨはゆっくりと膝をつき、
その頬にそっと手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、
じんわりとした熱が伝わってくる。
キヨは静かにレトルトを撫でながらケアを始めた。
さっきまでの衝動とは違う、
丁寧で、ゆっくりとした動き。
レトルトの呼吸に合わせるように、
少しずつ、少しずつ。
二人の距離は近いまま、キヨの 低く、優しい声が暗闇に響く。
その一言一言に、まるで身体が反応するみたいに、 レトルトは小さくびくりと震える。
触れているわけじゃない。
ただ声をかけているだけなのに。
それでも確かに届いているのが分かる。
そのか弱い反応に、
キヨの胸の奥がじわりと熱を帯びた。
(……やばい)
分かっている。
今はそんなことを考える場面じゃない。
でも——
自分の言葉ひとつで、
こんなにも素直に反応してくれる存在。
頬を染めて、
とろけるような表情を浮かべるレトルト。
その姿が、どうしようもなく愛おしくて、
同時に、抑えきれない感情が込み上げてくる。
キヨは小さく息を吐き、
その衝動を押し込めるように、
もう一度優しく声を落とした。
「もう少しだけ……」
その声に導かれるように、
レトルトの荒かった呼吸が、
少しずつ穏やかになっていく。
時間をかけて、
ゆっくりと。
やがて——
レトルトは小さく息を吐き、
体を起こした。
まだどこかぼんやりとした目で、
それでもまっすぐキヨを見つめる。
レトルトはゆっくりと体を起こし、 ソファに腰を下ろした。
まだ少しだけ力が抜けたように、 背もたれに身を預ける。
その横で、キヨは迷うように一瞬手を止めてから——
そっと腕を伸ばした。
抱き寄せる。
壊れ物に触れるみたいに、
でも離したくないとでも言うように。
「……ごめん」
耳元で落ちた声は、
ひどく弱くて、
ひどく本気だった。
レトルトは驚いたように少しだけ目を瞬かせる。
けれど何も言わず、
小さく、こくりと頷いた。
そのまま、ゆっくりと顔を上げる。
視線がぶつかる。
トロンとした瞳の奥に、
まださっきの余韻が残っている。
けれどそれだけじゃない。
ちゃんとキヨを見ている、
真っ直ぐな目。
キヨは息を呑む。
もう向き合わなきゃいけない気がして 抱きしめた腕に ほんの少しだけ力を込めた。
『ねぇ、キヨくん。どうしてプレイしちゃダメなん?』
縋るような視線。
『俺のこと、嫌いになった?』
胸の奥を探るみたいに、言葉が続く。
『….やっぱり俺じゃダメだった?
……違う子がよくな——』
レトルトが言い終わる前に、
「違う!」
キヨの声が、静かに、でもはっきりとそれを遮った。
強くはない。
けれど迷いのない声。
レトルトの言葉が止まる。
キヨはそのまま、少しだけ息を整えてから、
レトルトの目をまっすぐ見た。
「違うんだよ、レトさん」
さっきまでの焦りも、
衝動も、
全部押し込めて。
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
「嫌いになったとか、そんなんじゃなくて……」
一瞬だけ視線が揺れる。
でも、すぐに戻る。
「……大事にしたくて」
ぽつりと落ちたその一言は、
ひどく不器用で、
でも真っ直ぐだった。
レトルトの目が、わずかに揺れる。
キヨは続ける。
「俺…..色々考えてて。」
耳が赤くなっているのを隠すように、
少しだけ視線を逸らす。
キヨは言葉を詰まらせながら、
途切れ途切れに続けた。
「俺、初めてだから……」
視線は下を向いたまま。
「その……レトさんに、ちゃんと……
気持ちよくなってほしくて」
指先がわずかに震える。
「だから……その……準備、っていうか……」
言葉にするたびに、
顔の熱がどんどん上がっていくのが分かる。
「…その…解したり……とか」
最後の方は、
ほとんど聞き取れないくらい小さな声だった。
「本、とか……読んで……」
そこまで言って、
もう限界だった。
キヨは完全に俯いてしまう。
耳まで真っ赤にして、
それ以上何も言えない。
「だから、1週間待ってほしいって言った」
そして、またレトルトを見る。
「でも……」
息を吐く。
「説明もせずに避けてたら、意味ないよな」
自嘲気味に小さく笑う。
「ごめん」
部屋の中に、静かな沈黙が落ちる。
数秒。
——その沈黙を破ったのは、
小さく息を漏らす音だった。
レトルトが、
少しだけ驚いたように目を見開いている。
そして——
『……っ、ふふっ』
思わず漏れたような、小さな笑い。
けれどそれは、 からかいではなく
どこか、
嬉しさが滲んだ笑いだった。
レトルトはゆっくりと手を伸ばして、
俯いたままのキヨの頬に触れる。
『キヨくん……』
その声は、
優しくて、少しだけ震えていた。
『そんなこと考えてくれてたんや』
指先でそっと顔を上げさせる。
『俺のために?』
キヨは何も言えず、
ただ小さく頷いた。
その瞬間——
レトルトの表情が、
ふわっと崩れる。
嬉しそうに、
でも少しだけ困ったように笑って。
『……そんなん、反則やで』
ぽつりと呟いたその声には、
抑えきれないほどの愛しさが滲んでいた。
さっきまでとは違う力で、
レトルトはキヨをぎゅっと抱き寄せた。
逃がさないように、
でも包み込むように。
突然の強い抱擁に、
キヨの体がわずかに強張る。
『1人でがんばらないでよ』
耳元で落ちた声は、 少しだけ震えていた。
『2人でやることなんやからさ』
抱きしめる腕に、さらに力がこもる。
『俺、キヨくんと一緒に気持ちよくなりたい』
その言葉はまっすぐで、
迷いなんて一つもなかった。
キヨの呼吸が、ふっと揺れる。
『それに——』
レトルトはほんの少しだけ顔を離して、
キヨを見つめた。
頬は赤く、
でもその瞳はしっかりとキヨを捉えている。
『俺だって初めてやで』
静かな告白。
その一言に、
キヨの目が大きく揺れた。
驚きと、
そしてどこか安堵したような色が混ざる。
レトルトはそんなキヨを見て、
ふっと柔らかく笑った。
『だからさ』
もう一度、優しく抱きしめる。
『一緒に、ゆっくりやろ?』
その言葉は、キヨの不安や 焦りを優しく溶かしていく。
キヨはゆっくりと息を吸い、
震えそうになる声を押さえながら言った。
「ごめん、レトさん」
まっすぐに目を見つめる。
「1人にしてごめん」
その言葉には、1人置き去りにしてしまった 自分への後悔が滲んでいた。
「不安だったよな。
ずっと我慢させてたよな……本当、ごめん」
ひとつひとつ、
噛みしめるように紡がれる言葉。
レトルトはその全部を受け止めるように、
小さく頷いた。
潤んだ瞳が、 ゆっくりと揺れる。
『……もう1人にしないで』
か細い声。
『俺を…離さないで』
ぎゅっと、
キヨの服を掴む指先に力がこもる。
『キヨくんの側にいたいんだ』
その想いは、飾り気もなく、
ただまっすぐだった。
キヨの胸の奥が、
ぎゅっと締めつけられる。
レトルトはゆっくりと顔を上げ、
涙の滲む瞳でキヨを見つめた。
逃げ道なんて与えないように、
それでいて、全部を委ねるように。
そして——
小さく、囁く。
『……言って。キヨくん』
その一言に、
空気が静かに張り詰めた。
キヨは息を止めたまま、
その視線を真正面から受け止める。
もう、逃げない。
その覚悟を言霊の様に言葉に乗せて
キヨはレトルトに投げかけた。
「Come(おいで)」
続く
コメント
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コメント失礼します! 普通に泣きそうになってしまった……。なんていうんだろう、一言一言の迫力が凄い、というか…語彙力無さすぎてごめんなさい笑 続きが楽しみです!