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今は四月十五日の午後七時。『ハーフエルフの村』に向けて出発したのが午後三時十五分。
終わって帰ってきたのが午後六時十五分だから、三時間ほど外に出ていたことになる。まあ、それはいいとして。
俺は自分が今置かれている状況《じょうきょう》を整理することにした。
えっと、風呂《ふろ》から出て、色々と済《す》ませたところまでは覚えているけど……俺はいつ布団《ふとん》を敷《し》いたんだ? というか、なんで俺の周りに、みんなが寝《ね》てるんだ?
俺には、その訳《わけ》がさっぱりわからなかった。
疲労《ひろう》やストレスによる断片的な記憶障害か?
それとも過度の飲酒による断片的な記憶喪失か?
けど、俺は酒なんて飲んでない。
というか、俺は酒を飲んではいけないと、お袋《ふくろ》に言われているから飲んだことがない。
俺にはとことん甘いお袋が言うのだから、俺にとっての飲酒はとても危険なことなのだろう。
さてと、そろそろこの状況《じょうきょう》をなんとかしようかな。
うーん、どうしたものかな……。俺がそんなことを考えていると。
「ご主人、起きてる?」
「……ん? 誰《だれ》だ?」
「僕だよ、ミサキだよ」
「ん、ああ、ミサキか。どうしたんだ?」
俺がミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)にそう訊《たず》ねると。
「どうしたもこうしたもないよ。ご主人は、今日がなんの日か知ってるよね?」
「いや、まあ、モンスターチルドレンが毎月十五日の満月の夜に【暴走】するっていうのは知ってるけど、それ以上のことは何も知らないぞ?」
「そっか。なら、あと約二時間後に何が起こるのかも知らないんだね?」
「ん? それはどういう意味だ? 夜の九時にいったい何が起こるっていうんだ?」
「ご主人、これから言うことをよく聴《き》いておいてね」
「えっ? それってどういう……」
「僕に同じことを二度も言わせないでくれるとうれしいな」
「……ご、ごめんなさい」
「よし、じゃあ話すよ」
その後、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)は語り出した。
「午後九時から午前三時までの間、モンスターチルドレンは暴走する。なんで暴走するのかは分からないけど、おそらく彼女たちの本能だと僕は考えているよ。そして、その本能が解放されるのが、毎月十五日の午後九時から次の日の午前三時の間。つまり『性の六時間』というわけさ。暴走すると言っても、物を壊したり、人を襲ったりするわけじゃない。正確には『心の暴走』。普段、抑《おさ》え込んでいる気持ちが少し解放されることを言うよ。だから、ご主人がすることはただ一つ! それはここに住んでいるモンスターチルドレン全員の気持ちを受け止めてあげることさ!」
「…………」
俺はミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)の話をよーく聴《き》いた。
しかし何度、頭の中で話の内容を脳内再生しても、俺が彼女たちに性的な意味も含めた上で襲《おそ》われるかもしれないという内容にしか思えなかった。
そこで俺はミサキにこんな質問をしてみた。
「なあ、ミサキ」
「なんだい? ご主人」
「お前が言ったことを俺なりに解釈《かいしゃく》してみたんだけどさ」
「うん」
「その……俺がこいつらに性的な意味も含めた上で襲《おそ》われる気がしてならないのは、おかしいか?」
「……それは別におかしくはないよ。けど、少し考えすぎかな」
「ん? それはどういうことだ?」
「たしかに『心の暴走』の対策としては、みんなの気持ちを受け止めるのが、一番だね。ごく稀《まれ》に性行為を求めるケースもあるけど、それはあくまで可能性の話にすぎない。だから、みんながみんな、ご主人とそういうことをしたいなんてことは思ってないはずだよ。でも、それ以上のことを要求される可能性はあるから、心の準備だけはしておいてね?」
「それって、つまり……」
「朝までにご主人の体の一部が食べられているかもしれないってことだよ」
「……えーっと、なんでそうなるんだ?」
「だって、ここにいるみんなは僕も含《ふく》めて、ご主人と〇〇以上のことをしたいと思うほど大好きなんだよ? 今日はみんなにとって、その思いを伝えることができる絶好の機会なんだから、ご主人はそれなりの覚悟《かくご》をしておいた方がいいよ」
「お前のその笑顔も怖《こわ》いけど、みんなの俺に対する好意もなかなか怖《こわ》いな。もし、俺にお前たち以外の彼女ができたら、俺はどうなるんだろうな」
「そんなこと、僕たちが許さない。最悪、ご主人もご主人の彼女さんもあの世に行くことになるね」
「……そこまで、俺のことが好きなのか?」
「うん、好きだよ。一生、自分のものにしたいほどにね」
「マジか……」
「うん、マジだよ。というか、好きな人に直接、好きって言ってるのに、ご主人は嬉しくないの?」
「やめろよ。言われてるこっちが恥《は》ずかしくなる」
「……そっか、ご主人がそう言うのなら仕方ないね。でも、僕たちはご主人のお願いなら、なんでも言うことを聞くって心に決めてるから、それだけは覚えておいてね?」
「そうか。お前たちはそんなにも俺のことを……。ミサキ、みんなを代表して、そのことを俺に伝えてくれてありがとな」
「どういたしまして……あっ、そうだ。ご主人」
「ん? なんだ?」
「その……時間まで少し余裕があるから、それまで寝《ね》てていいよ」
「え? いいのか?」
「もちろんだよ。僕とご主人の仲だからね」
「そうか……そうだな。じゃあ、時間になったら起こしてくれ」
「うん、分かった。それじゃあ、おやすみ、ご主人」
「ああ、おやすみ」
俺はそう言って、目を閉じた。あと、二時間弱は眠《ねむ》れそうだな。
よし、それまで少し寝《ね》よう。俺は、そんなことを考えながら眠《ねむ》りについたのであった。
*
その頃『モンスターチルドレン育成所』にいるモンスターチルドレンたちは『アイ先生』の魔法の一つである『完全睡眠《スリープ》』をかけられていた。
この魔法は、魔法をかけた本人が魔法をかけた対象の起きる時間を設定できるため、先生は朝の六時まで起きないように設定した。
さすがに育成所にいる彼女たちの部屋にいちいち行くのは効率《こうりつ》が悪いため、先生はもう一つ魔法を使った。
『|広範囲効果拡散《ワイドスプレッド》』。
これは、通常は一人ずつにしか使用できない魔法を、より多くの人や物に使用可能にする魔法で、その範囲は使用者の魔力が尽きない限り、無限に広げることができる。
そのため、毎月十五日の夜になっても、彼女たちはぐっすりと眠《ねむ》ることができるのだ。
先生はモンスターチルドレンの生みの親であるのと同時にここの教師と所長を兼任《けんにん》している存在である。
また、ナオトたちの高校の教師をしていた人物でもある。
どうやら現実世界であろうと異世界であろうと、彼女のすごさは変わらないようだ。