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花後雨

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【第五章】満月

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2022年08月07日

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祭りが始まってから数時間、帳は降りて辺りはすっかり宵の空で空には満月が浮かんでいた。櫓の周りに人々が集まって来る。

そろそろか。

僕は時間を確認し、彼女に準備をするよう伝えると、待機所を出た。ここから先は、巫女一人で行動しなければならない。少し心配になりつつも、僕は人々に紛れて、櫓の周りに行った。辺りを見渡せば、人々は無邪気に祭りを楽しんでいる。

もし、彼女が巫女として生まれていなかったなら、普通の家に生まれていたなら、彼女もあの中の一人だったのだろうか。もし、こんな家に生まれていなければ、教室で勉強して友達と遊んで恋をして、そんな青春もあったのではないだろうか。

そんなことを考えれていると、辺りが唐突に静まり返った。


周りにいる人の視線をたどると、櫓の上に一人の少女が立っていた。彼女だ。その櫓の周りには和楽器を持った者達が立っている。

神楽が始まる。

和楽器の音が鳴り始めると、彼女もそれに合わせて神楽を舞い始める。少しも間違うことなく、完璧に舞い、月明かりに照らされるその姿はまるで月の女神のようだった。

そういえばあの日もこんな夜だった。

あの日の面影が重なる。もうあの日の彼女はいないというのに…。僕は辛くなり、少し離れた所から彼女を見守ることにした。

神楽が終わった頃には会場にいるほぼ全員が彼女に魅入っていた。


神楽が終わり、彼女が櫓を降りて待機所に戻ろうとすると、人々は彼女の行く方向を妨げぬように道をつくっていた。

しかし、その道を遮る者がいた。

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