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萩原なちち
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だから、女は面倒くさいんだよ。
男勝りを気取ってどんなにかっこつけても、結局は「女」だ。ゴールが結婚しか見えていなくて、周りの評価ばかりを気にする、自分勝手な生き物。
「じゃあ、俺、いっちゃんの新恋人に立候補する!」
大きく手を挙げてふざけてみせたら、「俺はカレンちゃんがいいの」なんて、いっちゃんがカレンちゃんの顔を覗き込んでいる。
カレンちゃんに気安く触れたりしないあたり、いっちゃんは紳士だ。そういうところ、本当に好きだな。
「いっちゃん、カレンちゃんに下心があるならこっちの席!」
「えぇぇ~!!」
りゅうせいに連れられ、俺の斜め向かい側に座らされたいっちゃん。けれど「顔が見やすくなって、これはこれでいいなぁ」なんて言いながら、カレンちゃんを眺めている。
当のカレンちゃんが、あからさまに苦笑いしているのが最高にウケる。
「カレンちゃん、こっち詰めて。だいきくんにくっつきすぎ」
「あ、はい」
さっきまで俺とくっつけようとしていたくせに、カミングアウトした途端に彼氏面かよ。
「いっちゃん、そんなに焼きもち焼かないで? 俺はもう、いっちゃんのものだよぉ?」
「違いますよ。俺の『カレンちゃん』にくっつかないでって言ってるんです」
「だいきくん、さっきまでいつきくんにベタベタしてたのに、もういっちゃんなの?」
「え、いつきくんも焼きもち焼いちゃってる感じ?」
「なんでそこに俺が入ってくるんだよ」
「……もう、何角関係なん、このグループ。早めに相関図書いてもらえません?」
カレンちゃんが冷静な関西弁で突っ込みを入れ、いつきくんが大笑いする。
ほら、やっぱりカレンちゃんは「大丈夫な人」だ。ずっと前からこのグループにいたような、古くからの友人みたいな……そんな不思議な感覚。
――って、本当にいっちゃん、相関図なんて書くなよ。
俺のところから、全員に矢印が伸びてるじゃん。
「はい、カレンちゃんは自分で書いて」
「え?」
いっちゃんからメモ帳とペンを受け取り、カレンちゃんが戸惑っている。
いや、これってもう公開告白と同じじゃないか? 俺、みんなの前でカレンちゃんのことを振るのなんて嫌だよ。友達としては、仲良くしたいと思ってるんだから。
「お?」
「え?」
「それじゃ、だいきと一緒じゃん」
はじめに俺に向いた矢印は、次々と描き足され、結局全員へと伸びていった。
「今はまだ全員お友達やから。これからもっと仲良くなれたら、一本になるかもしれへん」
「ほんっと、カレンちゃんって優しいよね。みんなの前でいっちゃんを振らないんだもん」
「は?!」
「……思わせぶりな態度をとって、誰にでもいけるようにしてる。カレンちゃんって、実は小悪魔だよね?」
「だいき、それはちょっと棘があるんじゃない?」
いつきくんに窘められる。けれど、俺の心はなぜかざわついていた。
なんだよ。いつきくんまで、そんなにカレンちゃんに入れ込んでるのかよ。
「……それを言うたら、だいきさんやって! 私はまだ矢印に♡マークついてへんけど、だいきさんは♡だらけで種馬みたいになってますよ」
「あほか。まだ種なんて植えつけてねぇわ」
「うわ、なんか今のすっごいリアルで気持ち悪かったぁ。帰って、だいきくん」
「いや、言わせたのカレンちゃんだからね!?」
「えぇ~、私そんな下品なこと言えないですぅ~♡」
「おい。便利だなぁ、そのぶりっ子……」
「可愛いですよねぇ? 芳本課長ぉ」
「え? 俺? ……まあ、可愛いけど」
「帰るよ! いつきくん! 帰ってお仕置き!!」
りゅうせいが本気で焦っている。いつきくんはわざと怒らせて楽しそうに大笑いしているし、もうカオスだ。
「あ、ちょっと待って。これ間違ってるわ。だいきくんは女の子ダメだから、カレンちゃんへの矢印と♡マークはなし。よし、これで俺とカレンちゃんが一番可能性があるっしょ?」
いっちゃんが、ぐしゃぐしゃと俺からカレンちゃんへ向かう矢印をペンで消していく。そんな、絶対にありえないみたいに乱暴に消さなくたっていいじゃん。
「……この紙、記念にもらってもいいですか?」
「ん? いいよ。はい」
いっちゃんから紙を受け取って、カレンちゃんは嬉しそうに微笑んだ。こんな落書きが記念だなんて、やっぱりそういうところは女の子なんだな、と思う。
「じゃあ、全員五千円ずつね」
「待って。カレンちゃん入ってるじゃん。会計、四で割ってよ」
「待って。今日、だいきくんの奢りだと思って来たのに」
「お前が誘っておいてそれは一番ないだろ!」
まあ、それは冗談で、結局俺が払うつもりだったけどね。それがいつもの流れだし、俺にはこういう時くらいしか金の使い道がない。
「だいきくぅん、ご馳走様でしたぁ!」
「ちゃんとカレンちゃんを送り届けてね! 送り狼になっちゃダメだよ!」
「バカ。一番可能性ねぇだろ」
「俺が送りたかったのにぃ……」
「いっちゃんは一番ダメ!!」
少し酔っているいっちゃんを二人に預けて、カレンちゃんに行こうかと声をかける。
……あれ、やっぱりさっきの言葉、謝ったほうがいいかな。彼女が機転を利かせて冗談に変えてくれたから笑い話で済んだけれど。
「あのさ――」
「あの! 私、家が近いんで一人で帰れます!」
「え、そうなの?」
「今日はご馳走様でした。ほんっとうに楽しかったです。あと、これ、初詣の写真です。今日渡しそびれていたから、誘っていただけて良かったです」
なに。みんなと離れた途端、敬語?
そこは「友達」として距離を詰めるところじゃないのか?
「……ありがとう。お礼に、今度――」