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どうやら2週間前からクラス内でいじめが行われているらしい。いじめの標的は三上 祐太郎
俺が4年生で初めて同じクラスになった子だ。
接点がなく、三上くんはどちらかと言うと陽の存在だ。僕はあまりサッカーについては詳しくないが、どうやら彼はサッカーチームのエース的な存在らしい。このサッカーチームにはうちの学校の生徒も何人も所属していて、この前試合が行なわれた。そこでサッカーチームのエース的な存在の三上くんは不調で試合に参加、案の定チームはボロ負け。優勝候補だったチームが散々な結果だったらしい。この事もあって、いじめを受けている。正直関係ない。
「おい、三上。お前のせいで負けたんだからな。」
「何とか言えよ」
正直この程度ならほっといても構わないと思う。が、徐々にヒートアップしている。
上履きにゴミが詰められたり、トイレから出さなかったり、教科書の落書き、階段から突き落とされそうにもなっていた。もう殺人レベルなのだ。
放課後、俺から声をかけた。
「三上くん、一緒に帰らない?」
「なんだ、岡本か。お前もどうせアイツらと一緒に笑ってみてるんだろう。」
「何言ってんだよ。俺とあいつらを一緒にすんなよな。」
「一緒じゃないか、俺がいじめられてる時お前が助けてくれた事があったか?」
「それは…」
「ないだろ、あまりいい人ぶるなよ。気色悪い」
三上くんは教室を急ぎ足で出ていった。大水くんより少し短めの栗色の髪を揺らしながら。三上 祐太郎…彼はなかなかの美形で学校中の人気者なのだが、そんな彼がこんな醜い性格になってしまったことを知れば、学校中の女子は呆れるだろう。哀れだ。
ミシミシと木の床の板が鳴る。誰かまだ残っていたのか。ドアに視線を移すと、サラサラの黒髪が少し乱れていて、首に絆創膏を貼った、大水くんが立っていた。急いで教室に来たのだろうか、息が上がっている。
「大水くん?」
「あ、岡本くん…」
「大水くん、大丈夫か?息が、」
「うん、大丈夫だよ。岡本くんこそどうしたの?」
「え?」
「なんで教室に?」
「あぁ…三上くんと話そうと思って、余計怒らせちゃったみたいだけど」
「そうなんだ」
「大水くんは?」
「僕は…あ、忘れ物を取りに来てて」
そう言って大水くんは頭の後ろを掻きながら軽く笑った。
「ねぇ大水くん、三上くんは本当に不調でサッカーをしてたのかな?」
「どうして?」
「三上くんって結構真面目なんだよ。学校もちょっとした風邪とか喉が痛いとかで休むし、みんなに移したくないからって。それなのにわざわざサッカーのために来るかなって。そりゃエースだし来ないとみんな困るけど、あのチームってみんな強いらしいし1人減ったくらいでなんてことないんじゃないかなって。」
「確かにそうだよね。」
「大水くんなんかわかる?」
「少しね」
「え、ほんと?」
「なに?教えて欲しいの?」
「…うん」
「そっか」
正直、こんなことどうでもいい。三上くんがいじめられようが、好かれようがなんて。俺は大水くんと関わりたいと思った。この”華麗な花”のような大水くんに触りたいって思った。
触れたいって思った。
「じゃあ今回は何がいい?」
「え、俺が決めるの?」
「特別ね」
「…ちゅー…したい」
「ちゅーね」
そういうと、大水くんは三上くんの机の上に座った。中はゴミだらけの机の上に。ランドセルを背負ったまま、手を伸ばし微笑む。俺たちがこうして”イケナイ”ことをするのは決まって放課後か休み時間の人がいない時。ちょうど今日も、放課後。夕焼けの暑く光る太陽に照らされる大水くんはやっぱり美しかった。
「おいで」
そう言って、ふふ…と微笑む大水くん。
俺は、手を伸ばす大水くんの手を無視して大水くんが座っている三上くんの机の上に手を置き、そっと口ずけをした。大水くんの口の中は、バニラアイスの様に甘い味がした。無視していたはずの大水くんの手が俺の背中に回り込み、ぐっと自分の方へ押し倒した。そのまま大水くんは机に倒れ、俺も大水くんの上に被さった。何度も口ずけをし、息が続かなくなるくらい、息が止まるくらいの浅く、深い口ずけをした。何かの拍子に大水くんの首に貼っていた絆創膏が剥がれてしまった。
「あの、大水…くん、絆創膏」
「え、?」
大水くんは急いで首を確認し、絆創膏の傷、見た?と確認され、見てないと答えると安心したように微笑む。もう一度口を重ねようと近づくと、胸を軽く押され今日はここまで。と語る。
「今日はおしまい。それ以上続けると、岡本くんほんとに息止まっちゃうよ。それに見られてるし。」
と、笑う。俺は我を忘れていたみたいだ。見られてるって言うのは幽霊のことだろう。周りに誰もいなかったはずだ。それに、チューの後はすごく疲れた。
「そうだ、岡本くん。三上くんの事だけどちょっと着いてきてくれない?」
大水くんはそういうと俺の手を引っ張って学校を出た。
「ここだ。ここだ。」
大水くんが俺を連れてきたのはある、サッカーチームの練習場所だ。今日は練習が終わってみんな帰ったあとみたいだ。
「大水くん。ここがどうしたの?」
「ここにね、サッカーが大好きだった少年の幽霊がいるのさ」
大水くんはゴール付近を指さす。案の定俺には見えなかった。
「彼は、容姿端麗でサッカーも上手な彼が羨ましかったのさ、だから三上くんは試合でいい結果が残せなかったんだね。」
「でも、三上くんは体調不良って言っていたけど」
「そりゃそう言うしかないだろうね。」
「なんで?」
「あの子は三上くんの弟だからさ」
「弟?」
三上 祐太郎は4年2組の生徒でたしか一人っ子だったはず…。
「三上くんには昔弟がいたんだ。4歳離れたね。三上くんは弟くんとサッカーするのが好きで、よく遊んでいたみたい。けどそんなある日、サッカーボールを取りに行こうとして踏切に入っちゃった。もう、カンカン音がなっているのにね。」
「そうか。」
「それで、さっき羨ましかったと言ったけど今回の試合で悪気があったわけじゃない。ただ一緒にサッカーをしたかっただけなんだ。三上くんも気づいていたと思うよ。だからこそ自分が体調不良と嘘ついて、弟くんにサッカーをやらせたのではないかな」
「そうなんだ。」
少し重たい空気が流れた。
「んじゃ帰ろっか。」
「あの、弟くんは?」
「そのうち成仏するさ」
「そっか」
俺は大水くんの綺麗な横顔を眺めながら帰った。いつか許可なくチューやハグができるようになるのを期待して家に帰った。
そのまま、いつも通りご飯を食べて、お風呂に入って、宿題を後回しにしたら、布団に入って浅い眠りに着いた。次の日あんな、話を聞かされるなんて思いもしなかった。