テラーノベル
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6月11日
◇青桃
「おつないふでした!」と元気な声がマイクにのる。
そのまま夏ツアーのティザーを流し、まだ裏で騒ぎ続ける俺に「うるせぇな」と笑いながら大声を出すないこが可愛くて仕方なかった。
ないこが配信終了ボタンを押し、椅子の背もたれに体を預ける。
「おつおつー」
「…」
「……ないこ?」
配信終わりにいつも話し始めるないこが声を出さない。
それに違和感を覚えて名前を呼ぶも、返答がない。
んー?と唸りながら、こちらの設定が悪いのかと調整しようと思った時、ディスコがピロンと音を立てた。
「……え」
何も言わずに出ていったんですけど。え?
これは…まろの設定のせいで声が聞こえなかったからか?騒ぎすぎて怒らせた?
「…なんやあいつ」
すると、再びピロンと音が鳴る。
ないこかと思い画面を見ると、そこには赤色のアイコンがひとつ。
「おつかれー…あれ、ないくんいないじゃん」
「おん、今出てったところ」
「忙しいのかな、次の配信の話しようと思ったのに」
「しらね、なんか無言で出て行った」
「ふーん…まあいないならいいや。まろはまだ作業?」
どうやら仕事が無くなってつまらなさそうに言うりうらの標的は、ないこから俺に変わったらしい。
「まぁ、やろうと思ってるけど」
「じゃありうらもここでやろうかなぁ…まろにも見て欲しいやつあったし」
「お?見たるで」
「やった、今送るね」
その「見て欲しいもの」が送られてくるのと、インターホンが鳴るのはほぼ同時だった。
「…ごめん、ちょい待っとって」
椅子から立ち、インターホンの前へと向かう。りうらを待たせているから早く終わらせよう、なんて思ってボタンを押そうとすると、玄関からガチャリと音がした。
さて、ここまでは予想通り。多分開いた扉の先には……
「まろ、今から飲むぞ」
「…ふはっw」
「んな、…なんだよ、」
「飲むのは11日じゃなかったん?」
「……今日飲んだっていいじゃん…」
「…ほんまは?」
「…寂しくなっただけだよ馬鹿!!!」
思わず笑いが込み上げる。
俺はお前のそれが聞きたかったんだよ
「あ、りうら忘れてた」
「…ん?」
「あんたがディスコ無言で抜けてくから、追いかけてきたりうらと作業するとこやってん。」
「すぐ切ってくるから待ってて」なんてないこを肯定しながらドアノブに手をかける。
すると、ビニール袋を机に置いたないこがまた何も言わず近づいてきた。
なんやねん、と言いかけた時、するりと俺の腰に彼の手が回った。
「何、攻めに来たん?」
「…俺が攻められると思う?」
「やってみるかぁ」
「……やめとく」
腰に回された手に自分のそれを重ねて収録部屋へと入っていく。
立ったまま画面を見ると、青色と赤色のアイコンの他に水色のアイコンが増えていた。
「遅くなったわ」
「あ、おかえりー」
「いふくん、ないちゃん知らない?データどこに突っ込めばいいか聞きたかったんだけど」
「いや、知らんで。話す前に出てってもうたから。因みにそのデータってどれ?」
立ちながら会話をしつつ、腰に回されていたないこの手を解く。
寂しそうにこちらを見上げるないこを他所に椅子へ座り、繋がれたままの手をぐいと引っ張った。
「ぅゎッ」
「…え?ないちゃんいた?」
「何ほとけっち、幻聴?」
すとんと俺の膝に着地したないこをそのままにPCの方を向く。
ないこからすれば、バックハグをしたまま俺がキーボードを叩いている状態だ。
多分顔めっちゃ赤い。
「あー…これこれ」
ほとけから個人でリンクが送られてくる。
ないこを覗き込むと、無言でマウスを奪い取りファイルを開く。そこに先程のリンクを移動させると、やってやったと言うように満足気に俺に凭れかかってきた。
「それ入れといたから。…んでー、りうらのか」
「えー知ってるなら最初からいふくんに聞けばよかった…20分くらいないちゃん探してたのに」
「探すのに時間割きすぎでしょw」
「いや一応ね?確認しとかないとw」
「いや菊池〇磨構文っぽいのやめろww」
「あ゙はッww」
騒いでる1番と2番を流しながら、りうらの資料にメモを書き込んでいく。
項目ごとに割り振りながら、邪魔にならない程度に整理していく途中ないこが指差しで指示してくることもしばしば。
最後にりうらに送り返したら終わり。
音声をミュートにして、ないこを膝から下ろす。
「ちょっと飲み物持ってくるから待っとって」と言いながら急ぎめに部屋を出る。
帰ってきた時、既にディスコは退出されていた。
絶対ないこのせい。
「…なんや、まだ作業する気やったんに」
「この俺を差し置いてまだ仕事?」
「んふ、素直に言ったらええやん」
「…してくれてもいいのに」
「…………え??」
結局ないこが買ってきてくれた酒を飲んだのは深夜3時頃だったし、後日りうらとほとけに「ないふってそんな愛重いの?」と謎のことを聞かれたりもした。
END
まろが出ていった扉を見つめる。
足音がだんだんと遠ざかるのを確認して、まろのマウスを操作する。
このままディスコを抜けようと思っていたが、ふとある事を思いついた。
ミュートを外し、まだ騒いでいたりうらといむが「おかえり〜」と声を上げる。
それを無視して、声を出した。
「……まろは俺のだから、近づきすぎないでね」
コメント
1件
青桃最高です🫶🏻💗 配信後無言で抜けてすぐ青くん家行くのツンデレっぽくて好きだと思ってたら最後ヤンデレっぽくなってて大好きでした♡