テラーノベル
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雨花「…………」
暗くて 何もなくて 静かで
いっそ ずっとここにいたいくらい
「お前か」
雨花「あなたが妖怪の売買主……やっぱり……」
「「天使だったんだね」」
雨花の目の前にいるのは、白い翼に幼女の姿をした天使だった。
「いつから気づいてた?」
雨花「妖怪を売買する組織を作るのは人間の手ではできない。悪魔なら妖怪を生かそうとする。何故なら妖怪も人間も「生きる」という行為に否定的な考え方を持っている。だからこそ、悪魔は生かそうとする。妖怪と人間の嫌がることだから。だから天使が行うだろうなって」
「なるほどな。お前の言う通りだ。あたしは妖怪たちを売買し、オークションに出し、人間たちの欲望を満たした。そうすれば……」
「「再び天使が全ての生き物の上に君臨できるからな」」
雨花「…………そう」
「お前は前に人間と妖怪は救い合いたいなどと言っていたな。お前は何を言っている?お前は救い合いたいなど望んでいないだろう?本当はお前にとっての「救い」は……」
「「死ぬことだろう?」」
雨花「…………」
「…………」
沈黙が続く。そして雨花は口を開く。
雨花「……もう疲れた」
「何に?」
雨花「そうだよ。わたしは本当は救い合いたいなんて思ってない。みんなが救われるとか共存とかどうでも良い。わたしはもう投げ出したい。こうしてあなたの望みを聴いても何も思えない。勝手にすれば良いって思ってしまう」
「でも」
雨花「そんなわたしにも大切なものができてしまった」
雨花は胸を手を置き、震える手を抑え込んだ。
雨花「共存とか救い合いたいとかそんなものよりももっと大切な……ただただ大切にしたいと望むものができてしまった。その人たちを大切にするためにわたしはただ共存や救い合いたいと言っているだけ。自分のためにやってるだけなんだよ。わたしは誰かのため、他人のために動くことなんて信用出来ないから決してやらない。それがたまたま人や妖怪のためになってるだけだよ」
雨花は生徒会発足を想い出す。
妖怪と人間の共存のためにあんなに必死になって頑張ることが出来る人たち。
自分が署名活動を始めたのは、単にこれで満足だろうと済ませようとするためだった。
あの人たちがあんなに……
あんなに何かのために動くだなんて考えなかった。
そんな人たちを愛おしいと感じる自分がいる。
あの人たちと一緒にいると普通の女の子になれてる
……ような気がするのだ。
「何だその目は……!!」
雨花「…………」
「お前は言っていたじゃないか!「人に人を幸せにする力なんてあるの?」って!お前は感じているはずだ!抱えれない絶望を!人を傷つけて苦しめた果てしない後悔を!お前とあたしは……」
雨花「同類……だね」
「し、知って……?」
雨花「そうだよ。同類だと想うならあなたも知ってるはず。あなたは温もりが欲しいんでしょ?こうやって色々なものを傷つければ周りが自分をみてくれるって想って……自分を認めてくれるって想って……あなたが欲しいものは、支配でも人を呪うことでもない。…………」
「「愛されたいんでしょ」」
「…………っ!」
天使は雨花を平手で叩く。何度も、何度も。
「分かったようなこと言うな!!今更……今更……どうやって人に愛されれば良いんだ!!!!お前みたいにあたしは仲間もいない!!!!愛するどころか好いてくれる人もいない!!!!あたしは周りを傷つけすぎた……今更こんな世界でどうやって生きていけば……」
雨花「なら」
雨花は天使の手を握る。
雨花「ここから始めれば良い」
「!」
雨花「ここから一緒に出逢って、一緒に話して、一緒に関わっていこう。愛されたいと気づいたならこれから愛されるように生きるんじゃなくて、愛そうと想えるように生きていけば良い。必要としてくれる誰かのために生きていけば良い。もし贖いたいなら、これから自分が気づいたものをみつけて拾って抱えてあげれば良い。そうやって生きていけば良い。わたしは……手伝う。必ず」
「そんなこと……お前は望んでいないんだろう……?どうして……どうして……そんなこと言うんだ?」
雨花「それは……」
「「悪者扱いされる辛さをまがいなりにも知ってるからさ?」」
雨花は暖かい笑みで微笑む。
「うぅ……もうどうしたら……良いか分からないの……分からないの……うぅ……うわぁぁぁぁん!!!!」
天使は雨花の腕の中で泣き続けた。
雨花「傷つけるのも……それで独りになるのも……恐いよね……自業自得なら尚更」
「この近くにいるはずなんだが……」
橙「あっ!いましたよ!」
瑠璃人「何か抱えてね……?」
兎白「あれ天使じゃないか?」
桃時「まさか売買主って……?」
「あぁ、天使だ」
「ひゃは!ボクらの前では偉そうにふんぞり返ってたガキの癖にめちゃギャン泣きじゃん」
「何であいつを泣かせてるんだ?」
「変な奴らの変なメンバーの一人だからね〜」
橙「あ、朝日が登りますよ」
建物の隙間から太陽の日が差し込んでくる。
それを照らすようにして、天使は雨花の腕の中で泣き続けた。
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その後、天使とあの四人組はしばらく雫の監視下の元、暮らすことになった。天使は親が亡くなり、甘えたい欲があったが、周りの天使たちが人間と妖怪の共存に向けて活動するおかげで構ってもらうことができず、妖怪を誘拐をしたりして、恨んでいた模様。四人組は、天使に雇われたスラム街の出身だということが再確認された。将来についてはこれから雫と考えるらしい。
瑠璃人「やれやれ、とんだ話だぜ。構って欲しいなんて言う子供っぽい理由でこんな大それたことしたんだもんよ〜」
兎白「淋しさに誰かが気づいてあげればこんなことにはならなかったということだな」
桃時「……瑠璃人あんた。子供っぽいって言うけど、淋しさは歳を重ねてもみんな感じるものよ。それに子供っぽいも大人っぽいもないわ」
橙「淋しいですか……わたしたちはそれなりに経験してますよね」
雨花「……どうか幸せになって欲しいな」
雨花たちは朝日を背にして、歩いて『トウヒガ学園』に帰っていった。雨花は寒くなってきた空気にはぁと息を吐く。
こうして、妖怪の売買やオークションは全てついに解決したのだった。
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