テラーノベル
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そのアパートには、**「4号室がない」**。
101、102、103……
そして階段を上がると、201、202、203、205。
204だけが、存在しない。
理由を大家に聞くと、決まって笑って言う。
「昔、縁起が悪くてね」
それ以上は、誰も話さない。
私は203号室に引っ越してきた。
古いが家賃が安い。壁は薄いが、静かな建物だった。
最初の違和感は、夜中の物音。
コン、コン、コン。
壁を叩くような音が、右側から聞こえる。
だが、203号室の右隣は——“ない”はずだ。
図面でも、そこは空白になっていた。
気のせいだと思い、イヤホンをつけて眠った。
数日後。
ポストに一枚のメモが入っていた。
> うるさいです
夜中に叩くのやめてください
204より
喉がひゅっと鳴った。
204は、存在しない。
大家に見せると、顔色が変わった。
「……悪質ないたずらだ」
そう言って、メモを奪い取る。
その夜。
コン、コン、コン。
今度は、はっきりと。
私は壁に耳を当てた。
向こうから、かすかな声。
「……そっち、いるの?」
凍りつく。
「だ、誰?」
「やっと聞こえた」
女の声だ。弱々しい。
「ここ、暗いの。ドアが開かないの」
壁を隔てて、すぐそこにいるような距離。
「あなた、何号室?」
喉が震える。
「……203」
沈黙。
やがて、小さな笑い声。
「じゃあ、そこは“空いてる”んだね」
次の瞬間、203号室の照明が一斉に消えた。
暗闇。
壁の向こうで、何かが激しくぶつかる音。
ドン! ドン! ドン!
「そっち、入れる」
壁紙が、内側から膨らむ。
人の顔の形に。
鼻、口、目が、壁越しに浮き出る。
「やっと、空いた」
壁が裂けた。
中から、真っ黒な空間が覗く。
その奥に、ドアがある。
プレートには、こう書いてある。
**204**
背後で、玄関の鍵が外れる音。
ガチャ。
振り向く。
203のドアが、ゆっくり開く。
廊下に立っているのは——
青ざめた顔の、私。
手には、メモ。
> うるさいです
夜中に叩くのやめてください
203より
「やっと、交代だね」
“私”が微笑む。
足元が崩れ、暗闇に落ちる。
気づくと、狭い部屋。
窓はない。灯りもない。
目の前の壁の向こうから、コン、コン、と音がする。
私は震える手で、壁を叩いた。
コン、コン、コン。
「……そっち、いるの?」
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