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8.対立する思い__花音side
「うーんと、コウさんからもらった地図によると……こっちですかね?」
とある住宅街にある道を、凄腕ハッカーのコウさんからもらった地図を頼りに歩いていく。
目指している場所は、マリアさんに頼まれた人物__kくんのお父さんの家。マリアさんから、kくんのお父さんの意見も参考にしたい、と言われたのでコウさんにお願いして住所と地図を割り出してくれたのだ。
……正直他人の家を特定するのはちょっと気が引けるんだけど、これも捜査の一環だし仕方ない、のかな?
「ここの角を曲がって茶色の家……ってここだよね?」
私の目の前に映し出されたのは、まるでログハウスのような家だった。周りの洋風の家とは雰囲気が違っており、壁のほとんどが木でできていた。隙間風などが心配だが、よくみると隙間がほとんどないように巧妙に作られている。周りの庭には野菜が植えられていて季節感も__
「って勝手に人様の家を分析するのはダメですよね。仕事仕事!」
ぺちぺちと自分の頬を強くたたき、自分に渇を入れる。
車庫の横目に玄関のインターホンを押す。ピンポーンという音が辺りに響いた。
kくんによるとお父さんは、仕事の関係により、私たちの住んでいる街とは県をいくつか挟んだところに住んでいるらしい。
念のため事前に連絡しておいたけど、大丈夫だよね?
しばらくすると家の中から足音が聞こえ、ガチャと静かに扉が開いた。
中から顔を出したのはkくんのお母さん__木下真希さんとは雰囲気も見た目も何もかもが違う、一人の男性だった。
おおらかで優しそうな雰囲気を放出させており、丸メガネが余計にそれを際立たせた。
「えっと……とりあえず、中にお入りください」
「すみません。急にお邪魔しちゃいまして」
「大丈夫ですよ。飲み物を入れてきますが、コーヒーと紅茶、どちらがよろしいですか?」
「それでは、紅茶でお願いします」
この家の男性は軽く解釈をし、そのまま台所へ歩いて行った。
どうやらこの家は仕事のために借りた、いわゆるSOHO物件らしい。長期の仕事なのか、家の中には私物も結構あるように見える。
両手に二つのカップを持った男性は、それをテーブルにおき、静かに腰を下ろした。
「改めまして、僕は木下雅人。この近くの学校で教師をやっております。今回はよろしくお願いします」
「それじゃあいきなりですが、本題に入ろうと思います。雅人さん、今回お聞きしたいのはあなたの息子さんについてです。息子さんの要望により、kくんと呼んでおりますので、息子さんの本名は言わずに、kと呼んでください」
「はい、わかりました。それで聞きたいこととは?」
__花音。この質問の答えと詳細を聞ければ、それでいい。
「雅人さん。あなたは、kくんの現状を見てどう思いますか?」
「えっ……?」
この一言に、雅人さんの目が激しく動揺したのを、私は見逃さなかった。
「kくんは非常に学業に励んでおります。それは大人の私からみても称賛に値するほどです。ですが、人生で一番楽しい学生時代を勉学だけで終わらせ、しかも将来までも、両親が全て決める。あなたはこのやり方に、本当に満足しているのですか?安心してください。話の内容は絶対に公表しません。息子さんにも、奥さんにも」
「なるほど。あなたはkに依頼されてここへわざわざお越しになられたんですね。妻がこのような依頼を、するわけがありませんから。ですが、僕は現状に満足しています。kは勉学に励み、常に学年トップクラス。この世は学歴社会なのです。学歴こそが、すべてを決める世界なのです。あの子にはその社会に潰されてほしくない、僕みたいになってほしくない。ただそれだけです……」
kくんから聞いていた内容通りの人だった。子供の心を全く考えていないようなひどい父親。
でも、私にはわかる。今の話しているときの態度と目で。何となくわかってしまうのだ。
「それは、雅人さんの本心なんですか?私、自分で言うのもあれなんですけど、他人の感情とか考えていることが何となくわかるんですよ。そうだとしても、間違えることもありますけど。雅人さんの本心によって、kくんの心が救われるかもしれません。嘘というレッテルを張り続けるのと、本当の心を出す。どっちがkくん、そして今この現状のためになると思いますか?」
それからしばらくの沈黙が流れた。
雅人さんはずっと床下の一点を見つめている。
「……私は」
9.対立する思い__マリアside
とあるカフェの中で、私は新作のフレーバーを飲んでいた。
花音は今kくんのお父さんのところに行っているが、一人でここにいるわけではない。
ちらっと前のほうを見ると、きりっとした青い瞳、そして黒髪のロングヘアーの女性が一杯のコーヒーを飲んでいる。機嫌が少し悪いのか、瞳の奥に怒りのようなものが見える。
講習会が終わった後、私は真希さんに話しかけた。
花音がいたらきっとこの行動力に驚かれるだろうが、仕事なので当たり前。
最初は急いで帰ろうとしていたが、最終的にはあきらめたのか、このカフェで話をつけることができた。
「私は北条マリア。あの講習会について聞きたいことがあるから、引き止めさせてもらったわ」
「そう。私は忙しいから時間がないの。手短に済ませてね」
鋭い視線が重く突き刺さる。さっきの講習会のときとはまるで別物ね。
「それじゃあ単刀直入に言わせてもらうわ。あなた、15歳の息子さんがいるんですよね?毎日毎日8時間以上の勉学、食事や入浴以外の時間はすべて勉学、寝るときも英語のリスニング。それを毎日させているんですか?」
「当たり前でしょう。子供のために勉強する環境を整えてあげることも、親の務めですから。子供の将来のために鬼になり、風邪をひいていても、無理やりにでもやらせる。それが本当に子どものことを考え、そして愛している親なのです」
「子供のため、か……」
何回聞いてもふざけているとしか思えない。子供のため?親の務め?本当に子供を思っているのなら、なぜ本当の心を聞こうとしないのだろうか。無視するのだろうか。
自分の親としての価値とレッテルのために、子供を道具として利用する。それが当たり前だと思っているその頭脳に、私は衝撃とうの感情が顔に出るのを必死にこらえた。
だが、ここで否定してもきっと意味がない。逆上され、もしかしたらkくんにも被害が及ぶかもしれない。それだけは絶対に避けなければならない。
「そうなんですか。実は私の子供も最近わがままになってきて、勉強とかも反抗的なんですよ。もうすぐ大学受験が始まるシーズンだというのに。ですが、真希さんはすごいですね。息子さんのためにそこまで頑張って、本当に尊敬します」
「えっ?」
真希さんは信じられないものを見るかのような顔で、私の顔を覗き込んだ。
そしてその顔に笑顔を見せてきた。このような攻撃的な人間は、こうして優しい言葉をかけてあげることで警戒心が解けることが多い。今回真希さんのところに花音じゃなく、私が行ったのも、これが要因でもある。
「ふふっ、マリアさんは話が分かるのね。今まであってきた人たちは何故か皆さん、口をそろえて非難の言葉を言ってくるんです。子供のことを本気で思っていないのよ、あのような人たちは」
得意げな顔で目の前にあったコーヒーを一気に飲み干す。
「それでは私はこれで失礼するわ。そうだ、よかったら連絡先を交換しませんか?あなたのような人だったら、きっといい親になれるわ」
この人といつでも連絡できるのは、依頼上都合がいい。ここは素直に好感しておくのがベストな考えね。
「ふぅ……私のほうはだいぶ情報が集まったわね。さてと、花音のほうはどうなったかしら?」
カフェから出た後、私は花音に電話を掛けた。
さっきまで飲んでいたフレーバーの冷気が、そとの熱気によって溶かされていくのを感じる。
3、4回目のコール音でプツッという音と共に、花音の声が耳に通る。
「もしもし花音。こっちはもう終わったわ。そっちはどう?」
その時の花音の声は、なぜか少々、影が入ったかのように感じられたのはきっと……気のせいではない。
コメント
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うぉぉ……新作……! これからどうなるんだ……!続きが楽しみだ……✨