テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
サクラとカエデが本当に姉妹なのか。 それを問い詰める暇もなく、超巨大な『大サソリ』が岩壁を砕いて現れた。
私は一瞬で素に戻り、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
だが、私を包み込むマント(姉のクロエ)は、そんな私に低いトーンで言い放った。
『怯えるなら、もっと気高く怯えろ!!』
「……気高く怯えるって響き、血縁を感じる!! でも今は命の方が先ぃいいいいい!!」
『いや、悲鳴自体は非常に良い。
“壊れそうなヒロイン感”が良く出ている。
だが、そのあとの姿勢がダメだ!
強敵を前にして丸くなるなど、闇の眷属として言語道断!
千年前の私は、絶望の中で嗤う最高にクールな魔眼使いだった!
貴様の「深淵」はそんなペラペラなものなのか!?』
「……へ?」
このお姉ちゃん、千年の孤独とか関係なく、根っからの『ガチの中二病』だった。
『立て! そして魔眼の角度が甘い!
前髪の隙間から世界を睨むように角度をつけろ!』
ガシャンッ!!
突然、マントが動き、私の右腕を強制的に顔の前へと固定した。
「いっ、痛い! 関節キマってる! お姉ちゃん!?」
『バカ者! 戦場(ゲヘナ)で「お姉ちゃん」などと呼ぶ奴があるか! 私のことはクロエと呼べ!』
大サソリが、隙だらけの私たちに向けて巨大なハサミを振り上げ──。
『ちょっと待ってろサソリ。今大事な話をしている!』
「ギ……?」
サソリが一歩引いた。
「言うこと聞いた!?」
『あとサソリ貴様! 登場が軽い!!』
「ギ!?」
サソリがハサミを止めた。
『“奈落の死神”なら、一歩ごとに絶望を踏みしめるように歩け!
あとハサミを広げるタイミングが早い!
“まだ本気じゃない感”を出してもう一回登場からやり直せ!』
「ギ……。」
サソリがちょっと照れたみたいにハサミを閉じ、後ろを振り返って岩陰に戻って行った。
「実はサソリと知り合いだろ!?」
『よし、ではもう一回登場だ』
ズズズズズンッ!!
今度はさっきよりゆっくり、岩壁を破壊しながらサソリが現れた。
『うむ。“世界の終わり感”が出てきたな』
「いや、たしかに迫力は増したけど!!」
『……いや、待て。今の登場、少し“湿度”が足りんな』
「ギ……」
サソリが露骨に落ち込んだ。
「メンタルにきてる!?」
『お前、“ただの巨大生物”になっているぞ。もっと“終末”を背負え』
「ギ……」
サソリが壁に向かって一人で歩き始めた。
「役作り始めた!!」
「確かに今の登場、“災厄”というより“この辺を縄張りにしてる主”感が強かったですね」
「ローザ!?」
『ほぅ……侍女よ。お前、なぜ理解できる』
「はい?」
『普通の者は“深淵”を恐れる。だが貴様、“間”を理解しているな?』
ローザが静かに頷いた。
「“強者が語りすぎない時間”には、美しさがあります」
『────!!』
「共鳴してる……」
『よし。サソリよ、咆哮前に“間”を作れ。“終わった”と思わせる空白が大事だ』
サソリが静かに俯く。
……。
…………。
「長い長い長い!!」
麗太
ギシャアアアアアアアアッ!!
『よし。“死”が近づく感じが出た』
「演出家として評価するな!!」
その時だった。
大サソリがゆっくりとハサミを開く。
先ほどまでとは違う。
静かで、重く、洞窟全体を軋ませるような殺気。
演技指導によって、ただの巨大生物が『本物の災厄』へと仕上がっていた。
「成長してる!?敵を強くしてどうするの!?
ぎゃあああああ! ハサミ来る!! 防いで、クロエ!!」
私は目をギュッと瞑った。
『断る。今防ぐとマントの美しい流れが死ぬ』
「命よりシルエット優先!!」
『フッ……だが、良い。逃走姿勢からの反撃、絵になるな』
クロエが脳内で鼻で笑った瞬間、私の体が勝手に動いた。
迫るハサミをギリギリで躱し、無駄にスタイリッシュな連続バック転をキメる。
そして最後は片膝をつき、右腕で顔を覆う完璧な着地。
『戦闘中に静止するな。今の角度だとシルエットが弱い』
バサァァァッ!!
無風の地下なのに、マントが勝手に靡き、背後に黒い羽のような影を演出した。
『……よし。今のはかなり“深淵”だった』
「何を評価されてるの!? いっだぁぁぁぁ!! 腰! 腰ひねった!! 元OLにはキツい!!」
私は着地の姿勢のまま腰を押さえて呻いた。
『我慢しろ! 絵面(ビジュアル)が最優先だ! さあ、反撃の詠唱を始めろ!』
「む、無理! 『ヤケクソ・ホーリービーム♡』ッ!!」
私はヤケクソで左目に魔力を集めた。
『却下だ!「ヤケクソ」などというダサい名を冠するなァァァ!!!』
クロエの怒声が脳内に響き、私の魔力を強制キャンセルする。
『今日から“深淵終焉殲滅砲(アビス・ラグナロク)”だ!』
「か、かっこいい!!」
『ほう。これが理解(わかる)か。さすがは我が妹。
では、言え! 「終焉を謳う堕天使の──」!
さあ! 早く言わないとあの尻尾で死ぬぞ!』
「しゅ、終焉を謳う堕天使のォォ!」
大サソリ(大俳優)の尻尾の毒針が、私の鼻先まで迫る。
死ぬ。これは言わないと物理的に死ぬ。
『「黄昏の裁きを受けよ」! ちなみに昔の私は詠唱だけで三分あった。……なお敵は待ってくれなかった』
「そりゃそうだよ!!早く撃たせて!!
詠唱待ちで死ぬ主人公なんて聞いたことない!!
……黄昏の裁きを受けよぉぉ!」
『仕方ない! ……放てェェェェ!!』
ビィィィィィィィィムッッッ!!!
【※♡はスタイリッシュじゃないとクロエによって強制的に消去されました】
「こだわり!!」
私の左目から放たれた極太のピンク光線が、大サソリを地形ごと宇宙の彼方へ消し飛ば──す、その寸前。
「ギッ。」
大サソリは光に呑まれながら、なぜかクロエに向かって深々と頭を下げた。
『うむ。最後まで見事な“災厄”だったぞ』
「なんか切ないお別れ!!」
*
大サソリを消し飛ばした奈落の惨状を見て、私は思わず息を呑んだ。
『素晴らしい!! 今のは完全に“滅び側の主人公”だ!!』
「っ……!」
滅び側。
その響きは、なぜか私の胸を妙にざわつかせた。
「……世界を救う光より、世界を拒絶する闇の方が……美しい時も、ある」
『────!!』
クロエが、ビクリと震えた。
『い、今の言い回し……! まさか貴様、“堕ちる才能”が!?』
「ふっ……我が左眼(イービル・アイ)は、光に祝福されすぎた……。だからこそ、闇に焦がれるのよ……」
『おおおおお!!』
バサァァァァッ!!
マントが歓喜するように大きく靡く。
『いいぞツバキ!! “光に選ばれながら、闇に焦がれる者”の矛盾が完璧に出ている!!』
「……ククク。どうやら我が魂(ソウル)は、まだ“終焉側”に未練があるらしいわね……」
『最高だ!! 今のは百点だツバキ!!』
「さすがです! 聖女様!!」
ローザが目を輝かせてメモをとる。シャシャシャッ!!
「“恐怖を抱えたまま立つ”……まさに光と闇を併せ持つ境地……!!」
『────!!』
クロエが息を呑む気配がした。
『侍女よ。お前……やはり才能があるな』
「恐縮です!」
「ククク……良いだろう。姉上……いや、クロエ……我は闇の中の光……」
私も完全にノッてきて、左目を押さえながら右目を光らせてみせた。
「嗚呼……聖女様の言ってる意味が分からないけど、尊い……」
ローザが気絶した。
ピコーンッ。
【称号:『滅びの聖女』を獲得しました】
【注意1:一般人はこんな称号付いてたら死にたくなります】
「じゃあ付けないで!!」
【注意2:履歴書には記載しないでください】
「するわけないでしょ!!」
『ふむ。良い称号だ』
「どこが!!」
「……滅び側……聖女様が、ついに概念の反対側へ……」
ローザが一瞬だけ起き上がり、また気絶した。
「寝てて!!」
──千年の愛は、本物だった。
そして最悪なことに。
その愛が引きずり出した私の中の“深淵”も、たぶん本物だった。
(つづく)
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!