テラーノベル
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みんなとはぐれてから、どれくらい経ったかな。
ここはどこなんだろう?
──暗くて、ジメジメしてて……なにより、お腹が空いた。
みんなは……サクラお姉ちゃんはどこかな?
*
「……ん。辰美、お腹すいた。
サクラお姉ちゃんが言ってた『トンカツ』食べたい……
衣がサクサクで、中のお肉がジュワッてなるやつ……」
「エストちゃん? さっきも言いましたけど……
こんな奈落の底でそんな高度な揚げ物なんてありませんよ!
……ああっ! その光るキノコは食べちゃダメです!」
「『噛めばカロリー、飲み込めば筋肉』ってお姉ちゃんが言ってたよ?」
「サクラさんの教えが完全に野生動物のそれなんですよ!!
毒だったらどうするんですか!
……って、勝手に行かないでください!」
辰美が何か言ってたけど、瓦礫の山にキラキラ光るものを見つけたから、私はトコトコ歩いていった。
「あ。キラキラしてる! ……かわいい☆」
それは、銀色の髪飾りだった。
「ちょっと! 勝手に変なもの拾わないでってサクラさんに教わりませんでした!?」
「『拾い食いは自己責任。落ちてる金は私のもの』って教わったよ?」
「さすがサクラさん!! ろくでもない!!」
辰美は頭を抱えてるけど、これ可愛いからいいや。
私は自分の銀髪に、その髪飾りをぷすっと挿してみた。
すると、髪飾りがふぁ〜っと淡く光って、そこからキリッとした女の人の声が響いた。
『──魂の接続を確認。 ……魔力波長、不一致。
……ふぅ。どうやら貴女は、私の妹たちではないようね』
「……喋った!?」
辰美がバッと身構えた。
でも、私はあんまり気にならなかった。
むしろ、ピカピカ光ってて綺麗だなーって思ってた。
『警戒は不要よ。私は第五位個体・ダリア。
私の役割は「知性」と「精神」の補完。』
「喋ってる……」
辰美が警戒する。
『現在地の空間座標、大気中の魔力残量……および最適生存ルートの算出を──』
「……むずかしい言葉、わかんない」
私は秒で遮った。
『……えっ?』
髪飾りさんの声が、ちょっと戸惑ったみたいになった。
「……ねぇ、辰美?
この髪飾りさん、ずっとひとりで喋っててうるさい。捨てるね?」
私は髪飾りを外して見つめた。
「エストちゃん!! 待って待って!?
なんかナビゲーション系の重要アイテムっぽいですから!
捨てたら完全に迷子になりますよ!」
『ちょ、ちょっと待ちなさい!
思考領域への接続が拒否されているのだけれど!?
なぜ私の知性サポートを受け入れないの!?』
髪飾りさんが、焦ったように淡く点滅した。
「「知性サポート?」」
私と辰美の声が揃った。
『……ええい、仕方ないわ。
精神接続が無理なら、外部鑑定に切り替える。
【上位鑑定魔法(ハイ・アナライズ)】起動』
髪飾りから、魔法陣のような淡い光の波が広がる。
それは、私と辰美を通り抜けた。
シュイィィィン……。
『まずは銀髪の貴女から解析するわ』
ピコンッ。
【対象:エスト】
【種族:魔王(仮)】
【魔力量:測定不能】
【知力:スライム級】
【空腹度:災害指定】
【備考:思考の大半がトンカツ方面へ流出中】
『知力がスライム!?
知力だけチュートリアル会場に置き忘れているわ!!』
髪飾りさんの声が、急に素っ頓狂になった。
「えへへ」
『褒めてないわよ!?』
「でも、スライムってぷるぷるしててかわいいよ?」
『かわいさで知力の低さを補填しないで!!』
髪飾りの光が、びっくりしたみたいにチカチカした。
『……いや、待ちなさい。
魔力量が測定不能で、知力がスライム級。
つまり、巨大な魔力炉に、判断装置としてゼリーが乗っている状態……?』
「ゼリーも食べたい」
『比喩を食べ物に変換するな!!』
髪飾りさんの声が、すでに少し疲れた声になっていた。
でも、鑑定はまだ終わっていないらしい。
『……で、では隣の貴女を鑑定するわ』
ピコンッ。
【対象:辰美】
【種族:火竜】
【現在職:ツッコミ】
【副業:限界オタク】
【ストレス値:致死量寸前】
【胃:警告】
【忠誠心:恋愛感情との境界が消失】
【備考:休ませてください】
『は? 貴女、火竜なの!?』
「あ、はい。火竜のメス、辰美と言います。
今はサクラさんのツッコミ担当と、胃潰瘍予備軍と、最推し観測係をやらせてもらってます……」
辰美が胃のあたりを押さえつつ、なぜか少し誇らしげにペコリとお辞儀をした。
『……待ちなさい。
今、サクラと言った?』
「はい。サクラさんです。
最高に理不尽で、最高に美しくて、最高に倫理観が迷子の方です」
『説明だけ聞くと、かなり嫌な予感がするのだけれど!?』
「サクラさんのためなら、尊厳くらい経費です」
『経費にするな!!
貴女、上位竜族でしょう!?
なぜ自分の尊厳を業務委託しているの!?』
「尊厳といえば、竜王って尊厳の化身みたいな方なんですけど。
サクラさん、その化身をパワハラで過呼吸にして、家出させました。」
辰美が遠い目で、ちょっと幸せそうな変な顔をした。
『竜王が過呼吸で家出!?!?』
髪飾りの光が、一瞬で灰色になった。
「サクラさん最高ですよね」
『最高ではないわ!!
……竜王を精神的に追い詰めるような規格外のサクラ……。
私の妹にもサクラという者がいるけれど……』
髪飾りさんの声が、わずかに震えた。
『同一人物だったら、顔から火が出るわ!!』
「火なら私が出せますけど」
辰美がスッと手のひらに小さな炎を灯してみせる。
『そういう意味じゃないわ、火竜!!』
「この髪飾り、燃えるの?」
私は心配になって、髪飾りを覗き込んだ。
『比喩よ!!』
「トンカツ揚げられる?」
『揚げ物から離れなさい!!』
「火があるなら、油もいるね」
『料理工程を進めるな!!』
髪飾りさんは怒っている。
でも、なんとなく、怒っているだけじゃない気がした。
『ああもう、貴女たちは異常よ!
特にエスト、貴女はもっと理性的に行動しなさい!』
「理性ってなんだろ……」
私は眉間にシワを寄せた。
『そして火竜、貴女は自分の胃を労りなさい!』
「あのサクラさんからどうやって……」
辰美も眉間にシワ。
『私は知性と精神の補完を担当しているのよ!
こんな混沌の見本市に巻き込まれるために千年眠っていたわけでは──』
ピコンッ。
【対象:ダリア】
【種族:補助人格】
【担当:知性/精神】
【精神負荷:千年分】
【強がり:高濃度】
【好意否認傾向:極大】
『表示を消しなさい!!』
「好意否認ってなに?」
私は首をこてんと傾けた。
「それ、ツンデレって言うんですよ」
辰美がぼそっと言った。
『分類名を俗語に落とすな!!
これは鑑定魔法の誤作動よ!!』
ピコンッ。
【備考:誤作動ではありません】
『備考欄まで裏切った!?』
「髪飾りさん、ツンデレなの?」
『違うわ!!』
ピコンッ。
【好意否認傾向:上昇】
『上昇するな!!』
「やっぱりツンデレですね」
辰美が真顔で頷いた。
『火竜、貴女も黙りなさい!!
これは情報漏洩よ! 私の精神構造に対する不正アクセスよ!』
髪飾りさんが、恥ずかしそうに赤く光った気がした。
石なのに、顔が赤いみたいで、ちょっと面白い。
『……え、ええい! 鑑定は終了!
次は、思考傾向を確認する。』
「ほんと、よく喋るなぁ……」
私はまた眉間にシワ。
『エスト!! 今、頭に浮かんでいるものを三つ答えなさい』
「お肉」
『一つ目がお肉なのね。まあいいわ。二つ目は?』
「サクラお姉ちゃん」
『またサクラ……!
その名前……いえ、だから偶然よ。
私の知性はまだ騙されないわ。
三つ目は?』
「髪飾りさん、サクラお姉ちゃんに会いたいの?」
『…………は?』
髪飾りさんの光が、一瞬だけ揺れた。
「声が、ちょっと寂しそうだったから」
私は首をこてんと傾けて、髪飾りさんを見つめた。
『……解析不能ね。
貴女の知性パラメータはスライム級のはずなのに』
「サクラお姉ちゃんが言ってたよ。
寂しい人は、よく喋るって」
『……寂しいと、喋る……?』
「うん。そのあと、“借金取りもよく喋る”って言ってた」
『台無しよ!!』
「あと、トンカツも食べたい」
『感動の余韻を衣で包むんじゃないわ!!』
私は首をこてんと傾けた。
「衣で包んだら、おいしいよ?」
『それはトンカツの話でしょう!?』
髪飾りさんの光が、またチカチカと揺れた。
怒っているみたいで。
困っているみたいで。
でも、ちょっとだけ、うれしそうに見えた。
この時の髪飾りさんは、まだ知らなかった。
このあと自分の知性が、
血でも魔力でもなく、ココアに敗北することを。
(つづく)
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