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「陽雅を説得?」
零斗さんは不思議そうに俺を見る。
「はい。陽雅さんが恭也と恋人になるように説得して欲しいんです」
「ちょっと待て。一旦整理させろ」
「あっ、すみません。なんか色々…」
申し訳なく思いそう言うと、零斗さんは首を振る。
「別に気にすんな。えっとだから? まず陽雅は恋人を作る気が無いんだよな?」
「はい」
「でもあおは陽雅が好き」
「はい」
「で、俺に陽雅があおの恋人になるように説得して欲しいって事か?」
「はい。もうその通りです」
俺の言葉を聞き、零斗さんは不思議そうに問う。
「でも、あおは陽雅に気持ち伝えたのか?」
「伝えたみたいですよ。でも振られちゃったみたいで。それでも諦めずに今月末の夏祭りに誘ったみたいです」
「夏祭り?」
「はい。その祭りに来なければ恭也は諦めるって。でも俺、恭也が悲しむ所なんて絶対見たくないんですよ。恭也にはずっと幸せでいて欲しいから」
俺の言葉に零斗さんはフッと笑う。
「お前、ホントあおのこと大好きなんだな」
「はい。大好きです。でもちょっと妬いてますね。零斗さん」
「あ? 妬いてねぇよ」
「嘘ですね。うす〜く嫉妬のオーラが見えますから」
「まぁ、ホントちょっとだけな」
零斗さんははにかんで笑った。
そんな零斗さんに俺は微笑む。
「零斗さんが嫉妬するくらい大切な友達なんです。だから、俺の頼み聞いてくれませんか?」
様子を伺う様に零斗さんを見ると、零斗さんはニコッと笑う。
「いいぜ。あおには快の事で色々お世話んなったし。恩返しだな」
「ありがとうございます。零斗さん大好きです」
そう言いながら零斗さんにくっつくと、零斗さんは頬を赤らめながら言う。
「別にこれくらい普通だから」
そんな零斗さんを見て、俺は笑顔になる。
「零斗さん。夏祭り、一緒に行きましょう」
「いいのか?」
「はい。もちろんです。後、お風呂も一緒に入りますよ。ほら、立ってください」
「ちょっ、待てって。一緒に風呂は…」
「俺達もお風呂エッチして記憶を塗り替えちゃいましょうよ」
「いや、今ここでシたばっかだろ」
「まだまだ足りないです。お風呂エッチもしてくれますか?」
そう言って上目遣いで見ると、零斗さんはパッと目を逸らす。
「まぁ…お前の体力が持つならいいけど…」
「ホントですか? 全然余裕です。じゃあ行きましょう」
俺はそう言って零斗さんと風呂場に向かった。
_________
家のソファーに座り、テレビを見ながらぼーっとする。
もう恭也には会わないと決めたのに、恭也の事ばかり考えてしまう。
「はぁ…」
そう息を吐くと、リビングの扉がガチャっと開く。
扉の方を見ると、零斗が入ってきていた。
「零斗。おかえり」
「おう。ただいま」
零斗はそう言った後、俺の隣に座る。
俺がテレビに視線を戻すと、少しして零斗が呟く。
「快との夏祭りデート、楽しみだな〜」
「夏祭り行くの?」
「おう。陽雅も行けよ。あおと」
零斗の言葉に俺は俯く。
「行かないよ。俺、もう恭也とは会わないから」
「あー…でもアレだろ? あおの事好きだろ?」
「何。恭也から聞いたの? それともお友達から?」
「なんとなくそう思っただけだよ。最近陽雅から甘い匂いするから好きな人が居んのは知ってたし。好きな人つったらあおだろうなって思ってよ」
「そっか。たしかに俺は恭也が好きだよ。でも、付き合う気はない」
「…恋人作る気ねぇから?」
零斗が知っていても不思議じゃない。
きっと恭也が快くんに話したんだろう。
「そうだよ。だから恭也とは付き合わない」
「なんでなんだよ。恋人作る気ねぇの」
「優真の時みたいに恭也を傷つけちゃいそうで怖いの」
「あぁ…優真な。たしかにお前は良くねぇ事したかもしんねぇけどさ、そんないつまでも引きずってたら幸せになれねぇだろ?」
「幸せ?」
幸せってなんだ。
俺は幸せになんてならなくていい。
いや、なっちゃいけないんだ。
「…俺は幸せになんてなっちゃいけない。好きな人なんて作っちゃいけない。もし出来ても、恋人になろうなんて思っちゃいけないの」
「たしかにお前は悪ぃ事したけどよ、幸せになっちゃいけないなんて言うんじゃねぇよ。そんなの誰が決めたんだよ。世間か? んなお前の事なんも知らねぇ様な奴らにお前の人生決められていいのかよ」
誰が決めたかって?
世間。確かに優真の記事のコメントに”恋人を作らないで欲しい”と書いてあった。
だから俺は恋人は作らないと決めた。コメントは間違っていないし。
それに兄ちゃんだって、俺は幸せになっちゃダメだって言っていた。
そりゃあそうだ。俺は悪い事をしたから。
「…確かに世間の声も聞いたけど、これは俺自身の意見だよ。俺は恋人を作っちゃいけないし、幸せにもなっちゃいけない」
「そうか。じゃあ俺の意見も聞け。お前は幸せになっていいし、恋人も作っていいって俺は思うぜ」
「…なんで?」
「お前は悪ぃ事したけど、俺の事も助けてくれたし、泰輝の事も助けたし、商売ではあるけど、今まで色んな奴の悩み聞いて助けてやっただろ。悪ぃ事より良い事の方が多い。だからお前は幸せになっていいんだよ」
幸せになっていい…?
俺、幸せになっていいのかな。
悪い事したのに。人殺しなのに。
「でも、俺が幸せになっても恭也は幸せになれないと思う。あと…快くんの事も傷付けちゃうだろうし」
「もし陽雅があおを傷付けたらそん時は俺が止めるから安心しろ。あと快も、俺がついてるからぜってぇ傷付けさせねぇ」
「…少し考えてみる」
「おう」
零斗はそう言って満足げにその場を去っていった。
その日の夜、ベットに入って俺は考える。
俺は幸せになっていいのだろうか。
恭也と恋人になってもいいのだろうか。
「恭也…」
恭也に会いたい。もっと恭也と一緒に居たい。恭也の恋人になりたい。恭也と二人で幸せになりたい。
考えれば考えるほど、願望が出てくる。
恭也との日々が頭の中を回って、恭也の声もする。
気づけば俺は眠りについていた。
「陽雅さん」
その声で目を開けると、恭也が俺の顔を覗き込んでいた。
「恭也…」
「おはようございます。そろそろ起きてください」
そこで視界が暗転し、再び明るくなる。
俺は料理が並んだ食卓に座っていて、向かいには恭也がいた。
恭也は料理を一口食べ、こっちを見る。
「美味しいです。やっぱり陽雅さんの料理は最高ですね」
そう言って恭也はニコッと笑った。
再び視界が暗転した後、明るくなる。
目の前には恭也が立っていた。
「陽雅さん。俺と一緒に乗り越えましょう」
恭也が俺に手を差し出す。
俺はその手を見つめた。
恭也となら、乗り越えられる気がする。
大丈夫。俺には助けてくれる仲間がたくさんいるから。
俺は恭也が差し出す手を掴む。
「うん」
そう言ってニコッと笑うと、恭也も嬉しそうに笑った。
まぶたの裏に朝の光が滲む。
その眩しさで、俺は目を覚ました。
恭也の夢を見た。その夢のお陰で、なんだか俺たちなら大丈夫な気がした。
(…浴衣、買わないと)
俺はワクワクした気持ちでベットを出た。
コメント
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読み終えました。第35話「お前は幸せになっていい」、じんわり心に響く回でしたね。 零斗さんの「悪ぃ事より良い事の方が多い。だからお前は幸せになっていいんだよ」という言葉、すごく重みがありました。陽雅さんがずっと自分を許せずにいたからこそ、誰かに「幸せになっていい」と言ってもらえることの意味が大きいんだなと感じました。そして最後の「浴衣、買わないと」という一文に、陽雅さんの心の変化がぎゅっと詰まっていて、思わず微笑みました。 恭也の差し出す手を掴む夢のシーンも、とても印象的でした。灯依さん、素敵な物語をありがとうございます。夏祭り、どうなっていくのか楽しみにしています。