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阿部side
収録が終わったスタジオは、照明が落ちると驚くほど静かだった。
スタッフが機材を片づけ、音が遠くに消えた。
残っているのは僕と佐久間だけ。
「阿部ちゃん、今日も真面目だねぇ」
軽く笑いながら言うその背中を、僕はいつも見ている。
Snow Manの“盛り上げ役”、場をつかむ天才。
バラエティの空気も、カメラの抜き方も、全部自然で。
——自分も、ああならなきゃ。
その思いが、いつも胸を締めつける。
「佐久間みたいにはなれないから」
つい、少しだけ毒が混じる。
すると彼は振り返って、少しだけ目を丸くした。
「珍しいじゃん。阿部ちゃんがそんなこと言うの」
二人きりになると、立場はいつも少し曖昧になる。
ステージの上では“頼れる兄ちゃん”のはずの佐久間が、
なぜか僕の前では、視線を泳がせることが多い。
「……ねぇ、佐久間」
「…近い」
気づけば、距離が詰まっていた。
逃げるように視線を外す佐久間を見て、胸の奥がざわつく。
——この人は、ずるい。
僕の知らない顔を、無防備に見せてくるくせに、
大事な一線だけは、絶対に越えさせてくれない。
「佐久間」
もう一度名前を呼ぶと、彼は小さく肩を揺らした。
「俺、阿部ちゃんには弱いんだって……分かっててやってるでしょ」
困ったように笑うその表情に、
胸の奥で抑えていた感情が、静かに溢れ出す。
「……たまには、僕が教えてあげる」
そっと唇に手を伸ばすと、佐久間の目が泳いだ。
触れた温度に、心臓がうるさくなる。
いつも背中を追いかけていたはずなのに、 今は僕の方が、彼を導いている。
「あ、阿部ちゃん……?」
真っ直ぐ 逃げ場を与えない視線。
佐久間は喉を鳴らし、無意識に唇を引き結ぶ。
その仕草を、俺は見逃さない。
ゆっくりと、顔が近づく。
ほんの数センチ。
「……待っ」
制止の言葉は、最後まで形にならなかった。
指が、そっと佐久間の顎に触れる。
力はないのに、逆らえない。
「大丈夫」
囁く声が、近すぎて。
「ちゃんと、本気だよ 」
そう言った阿部の目は、揺れていなかった。
次の瞬間、
佐久間は目を見開いたまま、息を止める。
——唇が、触れる直前まで迫っていた。
時間が止まったみたいに 、
ただ、鼓動だけがうるさく響いていた
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