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鷹槻れん@コノカレコミカライズ

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猫塚ルイ
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宇津Q
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#シークレットベビー
『第五話 知らない顔』
──
「お兄様、それ絶対そこじゃないです」
「いや、ここだろ」
「違います」
「絶対ここ」
「違いますっ」
「……」
「……」
二人はテーブルの上のジグソーパズルを睨んでいた。
会社の忘年会でもらって放置してた、3000ピース『青空』。
こんなのよっぽどの暇人じゃないと手をつけない。
──三分後。
「……違ったね」
「だから言ったじゃないですか!」
千夏は得意そうに笑う。
その顔を見ると少し悔しい。
「にゃあ」
ピスカがテーブルの上へ飛び乗る。
そして迷うことなくパズルを蹴散らした。
「うわっ!」
「ピスカちゃん!」
当の本人は満足そうな顔、テーブルの上で丸くなる。
「最悪だ……」
「ふふっ」
千夏が笑う。
さっきは学校の事で少し落ち込んでいたようだけど機嫌が治ったようだ。
──
その時だった。
インターホンが鳴る。
「宅配かな」
悠真は立ち上がり、玄関を開ける。
「あ」
女性が立っていた。
二十代前半くらい。
肩まで伸びた茶色い髪。
花柄のエプロン。
優しげな明るい笑顔。
「こんにちは、佐藤さん」
「花村さん」
駅前の花屋で働く女性だった。
「この前のお礼です」
そう言って小さな鉢植えを差し出す。
「お礼?」
「覚えてません?」
首を傾げる。
花村は困ったように笑った。
「ほら、先月です」
「あ」
思い出した。
店の前で倒れた高齢者を一緒に介抱したのだった。
「わざわざ?」
「ええ、わざわざです」
花村は笑う。
「恩人なんですから」
その時。
部屋の奥から声がした。
「お兄様?」
千夏だった。
花村が目を丸くする。
悠真も固まる。
しまった。
千夏が玄関までやってくる。
そして花村を見る。
花村も千夏を見る。
沈黙。
三秒。
五秒。
七秒。
「……こんにちは」
先に口を開いたのは花村だった。
「こんにちは」
千夏も答える。
どちらも笑顔。
なのに空気が妙に張り詰めている。
「妹さんですか?」
花村が聞く。
「いえ、」
「違います」
悠真が答えるより先に千夏が言った。
「向かいに住んでます」
「あら」
花村は少し驚いた顔をする。
「じゃあ幼なじみ?」
「違います」
また千夏が答える。
「最近知り合いました」
「そうなんですね」
花村は笑う。
千夏も笑う。
なのに何故だろう。
ものすごく不穏な雰囲気に胃が痛い。
──
しばらくして花村は帰っていった。
「また来ますね」
そう言い残して。
ドアが閉まる。
静寂。
ピスカだけが、のんびり毛づくろいしていた。
「綺麗な人ですね」
千夏が言った。
「そうかな」
「そうです」
即答だった。
「優しそうでした」
「うん」
「話しやすそうでした」
「うん」
「大人でした」
「……うん」
何かがおかしい。
悠真は本能的に察知する。
──
千夏は窓の外を見ていた。
少しだけ。
本当に少しだけ。
不機嫌そうに見える。
「どうした?」
「別に」
「別にじゃない顔してる」
「してません」
している。
ものすごくしている。
しばらくして千夏がぽつりと言った。
「知らなかったので」
「何を?」
「お兄様の……」
彼女は言葉を探す。
そして続けた。
「周りに私の知らない人がいるんだなって」
悠真は少し驚いた。
考えたこともなかった。
当たり前だ。
自分には仕事もある。
友人もいる。
買い物に行く店もある。
千夏の知らない時間の方が圧倒的に長い。
けれど。
彼女にとっては違ったらしい。
「変ですよね」
千夏は苦笑する。
「別に変じゃないよ」
「そうですか?」
「うん」
悠真は言った。
「俺だって千夏ちゃんの学校のこと全然知らないし」
千夏は少しだけ考える。
それから小さく笑った。
「それもそうですね」
──帰り際。
玄関で靴を履きながら千夏は振り返った。
「お兄様」
「ん?」
「今度……」
少しだけ迷って。
「学校の話、してもいいですか?」
悠真は笑った。
「もちろん」
その返事を聞いて。
千夏も少しだけ嬉しそうに笑った。
勘違いしていたのかもしれない。
嫉妬ではなく、相手にも自分の知らない世界があると気づいた、ただそれだけのことだったのかもしれない。
悠真は見送った扉を見つめながら、しばらくそんな事を考えていた。
──続く
コメント
3件
ピスカ様……パズル壊さないでください笑 可愛い🫶 花村さんの前で『お兄様』って呼んでたので、大丈夫かな?ってちょっとびっくりしました。
おお、第五話も良かったわ…。千夏ちゃんの「知らなかったので」ってセリフ、めっちゃ刺さった。嫉妬ってより、自分の知らないお兄様の世界があるって気づいた切なさがじんわりくるなあ。最後の学校の話してもいいですか?でちょっと距離が縮まった感じがして、ほっこりした。ピスカのマイペースな感じも好き。次も気になる!