テラーノベル
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くくく……我はツバキ。
レベル8へと至った。
両の瞳は発光し、
夜道でも本が読める。
世界は、我に配慮しすぎている。
嘘だ。
普通に怖い。助けて。
◇◇◇
──旅支度の夜、宿屋にて。
私は鏡の前で、震える手で“それ”を握りしめていた。
ローザが買ってきてくれた、真っ白な包帯だ。
(……来た。ついに来た)
私はごくりと喉を鳴らした。
“眼帯”も良かった。
だが“包帯”は格が違う。
手負いの戦士。封印されし力。
そして何より、『綾波』的な儚さ。
私(中二病)の魂が、かつてないほど燃え上がっている。
背後でローザが固唾を飲んで見守っていた。
「聖女様、その布で『光』を封じるのですね?」
私は、ゆっくりと頷いた。
そして。
ドラマチックに包帯を広げた。
「……あぁ。始めようか……儀式 (フィッティング)を」
(出るな……鼻血……今は出ないで。
ここからが一番カッコいいところだから)
私は鏡に向かい、包帯の端を額に当てる。
高まる。
血が騒ぐ。
テンションが上がりすぎて、英語が出てきた。
英語力は中学英語レベルなのに。
「Oh…… My God……」
口から、自然と英語が漏れた。
「ついに私の……Left eye (レフトアイ)に……bandage (バンデージ)を……巻くことを許されたのですね……?」
私は恍惚の表情で天井を仰いだ。
ローザがビクリと反応する。
「せ、聖女様……? 今、なんと……?」
「Ah……」
私は仰け反り、天を仰ぐ。
ローザの問いかけすら、もう耳に入らない。
包帯を一周。もう一周。
締め付けが、たまらない。
そして、片目が白に覆われていく高揚感。
私は震えながら、深いため息をついた。
「I can feel it…(アイ・キャン・フィール・イット……)」
──感じる……感じるぞ……!
私の封印されし力が……!
その瞬間。
ローザが、バッと手帳を取り出した。
目が興奮で血走っている。
「こ、これは……『古代神聖語 (エンシェント・タン)』……!?」
私は、鏡の中の自分に語りかける。
低く。
重々しく。
「The power…(ザ・パワー)……It’s growing…(イッツ・グローイング……)」
──力が……増幅していく……!
「『ザ・パワー……イッツ・グローイング』……!」
ローザが猛烈な勢いでメモを取る。
「意味はわかりませんが、とてつもない魔力を感じます!」
魔力なんか出てない。多分アドレナリンだよ?
「『力が……みなぎる』的な意味でしょうか!?」
推測で盛るな。当てるな。
「さすが聖女様! 語感がカッコ良すぎます!」
語感しか褒めてない!?
私は最後の仕上げに入った。
包帯の端を留める。
残った右目で、カッ! と虚空を睨んだ。
(右も光るけど雰囲気重視で左を隠した)
私は立ち上がり、マントをバサァッ! と翻す。
「Behold!(ビホールド!)」
見よ!
「The sealed eye of judgement! (ザ・シールド・アイ・オブ・ジャッジメント!)」
封印されし、裁きの瞳を!
──バチィンッ!!
ポーズが決まった。
完璧だ。
今、私は世界で一番カッコいい。
(当社比)
私は荒い呼吸のまま、ニヤニヤが止まらなかった。
「Fufufu…(フフフ)」
「これこそが我が真の姿……『Sealed One-Eyed Goddess(シールド・ワンアイド・ゴッデス)』……!」
自分に酔いしれ、最高のドヤ顔で振り返る。
「どうだローザ! この完璧な……」
──ドサッ。
足元で音がした。
見ると、ローザが床に崩れ落ちていた。
気絶しているのではない。
五体投地。
最上級の土下座で、震えながら泣いていた。
「……あ、あれ?」
ローザが顔を上げる。
瞳は涙でぐしゃぐしゃだ。
「……あぁ……尊い……!」
「『シールド・ワンアイド・ゴッデス』……!」
「なんと響きの良い……!」
「『封印されし隻眼の女神』……ということですね!?」
「え、あ、うん。まあ、そう」
なんで翻訳出来るの!?
ローザは私の手を取った。
「聖女様は、その身に宿る強大な光を……」
「たった一枚の布と『言霊(英語)』で封じ込められたのですね……!」
「これぞ、自己犠牲の極み……!」
「いや自己犠牲では」
聞いてない。
「この儀式、カメリア聖典・特別編『女神の封印』として記録します!」
「そしてこの『古代神聖語(英語)』……教団の必須科目としましょう!」
「全信者が『オーマイガー』と祈る未来を作ります!」
「やめて!?」
それ、ただの怪しい集団だから!
しかし、ローザの筆は止まらない。
「第一章『レフトアイ・バンデージの誓い』」
「第二章『アイ・キャン・フィール・イットの啓示』」
「……素晴らしい。神学校のテストに出します」
「出すな」
この世界の宗教は、なぜかトゥギャザーしようぜ!?みたいになろうとしている。
「……Whatever (ワットエバー)……」
(もうどうにでもなれ……)
私が小さく呟くと、ローザはそれすら逃さず書き記した。
──『ワットエバー(神の御心のままに)』と。
そして、私を見てひとこと。
「Whatever……これは舌を巻いて発音する方が良いですね!」
「私の中学英語発音より流暢!?なんで!?」
◇◇◇
──翌朝。
宿屋の前が、やけに騒がしい。
私はカーテンの隙間から、外を覗いた。
「……え」
人。
人、人、人。
村人が、やたらと集まっている。
そして──
包帯。
片目に包帯の男。
額に包帯の子供。
なぜか両目に包帯のおじいさん。
「……なに、あれ……」
思わず、素の声が出た。
(なんで!?
なんで全員包帯!?)
ローザが隣で、すでに頷いている。
その手には、昨夜より分厚くなった“聖典”を開いている。
しかも、謎の記号がびっしり。
(なにそれ……発音記号っぽい……いや、まさかね……)
「ローザ……さん? 何かやった?
いや、またやってんな?」
「はい。昨晩、言いふらして来ました」
ローザが最高の笑顔で答えた。
「……。」
慌てて、私は声を作る。
「……民が集うは必然。
我が存在が……
導いてしまったまで……」
(導いてない!!
昨日テンション上がってただけ!!)
外の村人たちが、宿の窓に向かって手を合わせ始めた。
「封印だ……」
「女神の封印……!」
「見よ……あの白き布……!」
──そして、外の村人たちが、声を揃えた。
「「「聖女様!!Oh My God」」」
──完全に怪しい集団だった。
「…………」
私は戦慄した。
(この怪しい集団のトップが私なの!?)
ローザが小さく頷く。
「昨夜、練習させました」
「何をやらせてるの!?」
次の瞬間。
包帯を巻いた子どもが、拳を振り上げて叫んだ。
「Whateverrrrr!!」
無駄に巻き舌。
無駄にネイティブ。
「やめて! その発音やめて!」
さらに前に出た村長が、胸に手を当て――
「……My God…」
低く、深く、ため息混じりの完全ネイティブ発音。
「……っ!」
背筋が凍った。
(この村、私より英語できる……)
ローザが感動したようにメモを取る。
「発音が整ってきましたね。
特に“God”の母音が美しいです」
「発音で信仰を測るな!!」
私は包帯の下で頭を抱えた。
ローザが、感極まった表情で頷く。
「やはり……!
『聖女の封印』を模倣することで、
信徒たちは光に近づこうとしているのですね……!」
(コスプレ大会かな)
私は深呼吸した。
大丈夫。
私は聖女。
聖女は、動じない。
聖女は、導く。
聖女は、逃げない。
「……よかろう」
私は窓辺で、包帯の隙間から外を睨んだ。
「汝ら……その白き布に、願いを託したか」
村人たちが、いっせいにうなずく。
私は続ける。
「ならば学べ。
封印とは、ただ巻けばよいものではない」
(勢いで言ってる。やめて。深掘りするな。詰む。)
ローザが即座に追記し始めた。
「第三章『ただ巻けばよいものではない』……!」
「待って! 章にするな!
今のただの時間稼ぎ!」
村人の一人が叫んだ。
「聖女様! 我ら、どこへ向かえばよいのです!」
……来た。
目的を求められるやつ。
私は、喉の奥で中二病をかき集める。
「東だ」
(適当だよ……)
「光は常に、東へと伸びる」
(知らないけど、そうだよね?)
ローザが、目をキラッキラにして頷いた。
「聖女様……!
ついに『布教の旅』が始まるのですね!」
(始まってしまった)
すると、村長らしき男が進み出て、必死の形相で叫んだ。
「聖女様! どうかお導きを!
実は今、この村では『命の水』が枯れ果て、困り果てているのです!」
「水?」
「はい!
伝説の水源があるはずなのですが、誰も場所がわからず……!
どうか、その『神の眼』で水源の場所を!」
無理だ。
私は地質学者じゃない。ただの令和のOLだ。
わかるわけがない。
面倒くさい。早く出発したい。
私は首を横に振り、呆れて呟いた。
「……I don’t know (アイ・ドン・ノー)……」
(知らないよ……)
拒絶。
しかし、ローザが目を輝かせて叫んだ。
「聖女様は仰いました!『アイ・ドーン・ノゥ』と!!」
村長がハッと顔を上げた。
「アイ……ドーン……ノゥ……?
イド・ノ……(井戸の)……?」
「え?」
「『井戸の……奥』!?
まさか、枯れた古井戸の底を掘れと仰るのですか!?」
「は? いや、言ってな──」
「おおお! なんという啓示!
『I don’t know (井戸の奥)』!!
皆の者、古井戸だ! 掘るぞォォォ!!」
村人たちが歓声を上げて走り出した。
(いや、井戸の奥なら水あるんじゃないの?)
*
──数分後。
ドバァァァァァッ!!
村の広場から、水柱が上がった。
温泉だ。いや、水源だ。
本当に掘り当ててしまった。
「…………」
私は立ち尽くした。
(いや、そりゃ枯れたとはいえ、
井戸だし……普通に考えて……)
ローザが感動で震えている。
「素晴らしい……!
さすが聖女様……古代語で、水源を言い当てるとは……!」
「翻訳機能が高性能すぎてバグってるよ!?」
こうして。
私の望まぬ布教の旅は、
私の英語力(中学レベル)と、ローザの超翻訳(奇跡)と共に、
カオスな加速を始めたのだった。
(つづく)
◇◇◇
──更新されたツバキのステータス──
【名前】ツバキ
【装備】
・聖なる封印布(ただの包帯)
└ 防御力+0。中二病テンション+200%。
└ 装備中、語尾に英語が混じる呪いがかかる。
【新規スキル】
・古代神聖語(中学レベルの英語)
└ 信者にとっては「神の言葉」。
└ 日本人が聞くと「あ、こいつやってんな」と共感性羞恥で死ぬ。
・英会話(奇跡)
└ ツバキが適当な英語を喋ると、ローザが「現地の正解」に誤翻訳するパッシブスキル。
└ 例:「I don’t know」→「井戸の奥」
【カメリア教団の今後】
・聖典に「英語ダジャレ集」が追加される予定。
・朝の挨拶が「Oh My God(光の目覚め)」になる予定。
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