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#オリジナル
蝶姫
33
第9話騎士vs王子
ブー…という、ブザー音が鳴り赤幕が上がる
このお話は、一人のお姫様から始まる恋物語
姫の婚約者である隣国の王子は姫を暗殺しようとしていた
それに気づいた姫の護衛騎士が姫を連れ出し逃げ出す
月日が経つにつれ、姫と騎士は心を通わす
__といったあらすじだ
その姫役というのが私、日比谷夕華だ
プログラムにも既に役者の名前が書かれている
そのことが嬉しくて、歓喜してしまいそうになる
私の横に書かれているのは
騎士役:早海琉生の名
やっとこの日が来た
先生にも他クラスの奴らにも無理だと言われ、折れかけた
それでもここに立っている
琉生の横で演じたかったから
心残りなんて、作りたくなかったから
〈今までの練習を思い出して、成功させよう!〉
主役の私は舞台裏で最後の鼓舞を入れる
小声でおー!というみんなの声が聞こえる
[次は3年4組の劇で、「騎士と姫」どうぞお楽しみください]
この題名は涼が考えたらしい
題名が最終日直前まで来たらなかった中、涼が『普通に騎士と姫でいいじゃねぇか』と言ったことがきっかけらしい
本当に題名になるとは本人も思いもしなかったらしい
横で照れくさそうに頭を掻いている涼を見て、くすっと笑みが溢れる
舞台の照明が消え、私は一人舞台の中心へ向かう
後ろからがんばれという声も聞こえる
(がんばってくるよ)
それだけを心の中で答えた
カッと、照明が付く
気がついた頃には、物語も終盤
今のところ何事もなく、着々と進んでいる
大道具もスムーズに変えられている
このままなにもないといいが…
「何故姫様を暗殺しようとしているのですか、!」
私の前で熱烈な演技をしている琉生
ここまで上手くなっていたとは、予想もしなかった
『ははっ、そんなの此方の国を容易に支配するためですよ』
涼は…なんというか、ねちっこそうな王子を演じている
策略とかなんとか言ってはいるが、細かいことは決めていない
それはそうと、今は逃げ出した姫と騎士が王子の軍に追い詰められている状況だ
絶体絶命、といったほうがこの劇に合っているだろうか
〈わ、わたくしを殺した所で、この国は傾いたりなどいたしません、っ!〉
果敢なお姫様口調で涼に反撃
『はっ、それはどうかな?』
『この国の財政を握っているのは貴方なのでしょう?』
姫が財政を握っているなど、無理な設定ではあるが、そこは一旦置いておいてほしい
〈っ…なぜそれを、っ!〉
『そんなもの、調べればボロが出るものですよ…』
と、にやりとこちらを見てくる
本当に演技が上手い
涼の後ろに控えている王子側の軍役の人達も感心しているように見える
『さあ、大人しく死んでくれませんかね、姫』
「そんなこと、私がさせませんっ!!」
声を荒げる琉生
こんな大きな声聞いたことない
何処から出ているのか不思議で仕方ない
呆気にとられていると、琉生が私をお嬢様抱きして、舞台袖へ逃げ込んだ
何度も練習でやってはいたが、やはり恥ずかしい
でも私が姫役でよかったと、心底思う
抱えられている数十秒
琉生の横顔がとても近くて、胸が高鳴る
本当に私は琉生に恋をしているのだと、実感させられる
「…抱えるとき、痛くなかった、?」
素に戻った琉生が、そっぽを向いて聞いてくる
〈うん、大丈夫だよ〉
そうか、と安心したような声が一つ
その時の耳が赤いことは私だけの秘密だ
始めて抱えられた時、案外琉生にも力があるのだと驚きが隠せなかった
でも今では慣れっこだ
『ほら、また出番だぞ』
これまた素に戻った涼が教えてくれる
〈はいはいっと、〉
座っていた椅子から立ち上がり、舞台上に向かう
最終場面
ここは、見事王子達から逃げ切り祖国を出て、遠く離れた国で騎士が姫に思いを告げる場面
「姫様、今まで長旅ご苦労様でした、」
「大変お辛かったでしょう、祖国を追われこんな辺境の地まで来てしまいました」
「…今、お伝えするようなことでないことはわかっております」
「それでも、聞いていただけると幸いです、」
と、堅っ苦しい騎士のセリフから始まる
「私、姫様をお慕い申しております、どうかこの辺境の地で、何もかも自由に2人で過ごしてくれはしませんか…?」
遠回しに、結婚の告白だ
今の私達からしたら遠く離れた現実かもしれないが、それでも私は劇の中だけでも琉生と結婚できることが嬉しくて堪らなかった
〈ふふっ、そんなのいいに決まってるじゃない!〉
〈それに、何もかも自由に、ならわたくしはもう姫ではありませんわ〉
〈だから貴方も、騎士ではなくわたくしの…、いえ私の人生の伴侶として生きてくださいませ〉
「…はい」
と月光の差す、花畑で誓う二人
……ここで、問題発生
本当はこの場面、次にキスシーンがあるのだが、このキスシーンは観客席の方からつよいフラッシュライトが来て影だけでキスしているように見せる演出なのだ
でも、観客席の方を見るとフラッシュライト係の人が何かあたふたしている
これはもしや…と思い、琉生側の舞台袖を見てみると、涼が手をバツにしている
琉生も私側の舞台袖を見て気づいたらしい
フラッシュライトが壊れた
前のクラスがフラッシュライトを使っていたので、その時なんらかのことが起きたのだろう
でも今更中断なんてことはできない
すぐそこに来ている琉生に耳打ち
〈____〉
私が放った言葉に少し動揺しながらも、頷く
__瞬間、一瞬だった気がする
本当に触れ合ってしまった
言った私も動揺
それでも劇は続く
焦った幕引き係がすぐに幕を下ろす
それと同時にきゃーっという歓喜の声と、パチパチという拍手喝采の音
やりきったのだ
舞台袖に入った時、みんなから焦りの声と、動揺の声が上がった
〈ま、まあまあ…!仕方ないし、大丈夫だよ、?〉
まだ赤い顔をどうにか隠そうと必死に取り繕う
[でもっ…!]
友達が心配してくれる
「…夕華、」
いつもより、真剣な眼差し、声で語りかけてくる
〈えっ、どうしたの…?〉
「こんな所で言うことじゃないと思うけど、今言わせてほしい」
「夕華が好きだ」
これだ
私がずっとずっと欲しかった言葉
やっと聞けた
「付き合って、ほしい…」
後から恥ずかしさが昇ってきたのか、顔が真っ赤だ
そんなの答えは一つしかないよ
〈はい…っ、もちろんっ!〉
周りのみんなは驚きで目を見開いている
涼はどこかさみし気な表情
こんなどきどきの雰囲気で、星嵐高校最後の文化祭は幕を閉じた
次回#if最終話⇒この先も
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