テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
# 第7話 突き放す言葉
抗がん剤の副作用が、
一番強く出ている時期だった。
らんらんの体は、日に日に細くなっていく。
髪も少しずつ抜けて、鏡を見るたび、
らんらんは視線を逸らした。
その日も、学校帰りに病院へ寄った。
カーテンを開けると、らんらんはベッドに横になったまま、天井を見つめていた。
「……らんらん、来たよ」
一瞬、こちらを見たけれど、
すぐに視線を外される。
「……今日は、来ないでほしかった」
その言葉に、胸が跳ねた。
「どうして?」
「……見てて、つらいでしょ」
声が、弱々しい。
でも、その裏に、何かを必死に押し殺しているのが分かった。
その直後だった。
「……っ、う……」
らんらんが急に体を起こす。
慌てて洗面器を取った。
「おぇ……っ、ぐ……」
喉の奥から、えぐられるような音。
胃がひっくり返るみたいに、体が前に折れる。
「……げほっ……ごぼ……っ」
吐しゃ物が、洗面器の底に落ちる音がする。
肩が震えて、呼吸が乱れる。
「……っ、はぁ……はぁ……」
背中に触れようとした瞬間、
らんらんが俺の手を振り払った。
「……やめて」
その声は、震えていた。
「こんなの……見せたくない」
「らんらん……」
「すちは、普通の高校生活があるでしょ」
顔を伏せたまま、続ける。
「部活も、友だちも、未来も……」
小さく、息を吸って。
「……俺のそばにいたら、全部、重くなる」
胸が、ぎゅっと締めつけられた。
「だから……もう、来ないで」
その言葉は、刃みたいだった。
一瞬、頭が真っ白になる。
でも、次の瞬間、自然と口が動いていた。
「……それは、できない」
らんらんが、驚いたように顔を上げる。
「俺が、ここに来てるのは」
震えそうになる声を、必死で抑える。
「らんらんがかわいそうだからじゃない」
一歩、近づく。
「支えたいって、思ったから」
らんらんの目が、揺れた。
「……苦しいのも、つらいのも」
「全部、らんらんの一部でしょ」
しばらく、沈黙が落ちる。
機械音だけが、規則正しく響いていた。
らんらんは、ゆっくりと目を閉じる。
「……ずるいよ、すち」
かすれた声。
「そんなこと言われたら……」
それ以上は、続かなかった。
代わりに、らんらんの目から、静かに涙がこぼれ落ちる。
俺は、そっと洗面器を片づけて、
もう一度、ベッドの横に座った。
「……そばにいさせて」
それだけ、伝える。
らんらんは、何も言わなかった。
でも、俺の手を振り払うことは、
もうしなかった。
副作用の苦しさの中で、
俺たちは、やっと本当の距離に、
触れ始めていた。
➡♡300