テラーノベル
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扉の開く音で、目が覚めた。 眠っていたというより、ただ意識が途切れていただけに近い。浅い眠りの底から引き上げられるように、ゆっくりと目を開けた。 薄暗い部屋の中、入り口に立っていたのはゴンだった。 その姿を確認した瞬間、胸の奥に張りつめていたものが一気に緩みかける。だが同時に、それを押し戻すように別の感情が浮かび上がってきた。安心と、苛立ちと、言いようのないもやつきが、同時に胸の中で絡まり合う。 体を起こしたが、すぐに何も言わなかった。 ゴンもまた、いつものように「ただいま」と軽く言うことはせず、少しだけ視線をそらして靴を脱いだ。その仕草がやけにぎこちなく見えて、余計に空気が重くなる。 部屋の中に、微妙な沈黙が落ちた。 ゴンは何も言わずに荷物を置き、少し離れたベッドに腰を下ろす。いつもなら当たり前のように隣に来る距離なのに、今はわざと間を空けているように感じられた。 その距離を見て、胸の奥が小さく軋むのを感じた。 ――なんで離れてんだよ。
そんな言葉が頭をよぎるが、口には出せない。自分が「好きにしろ」と言った結果だと分かっているからだ。 しばらくして、ゴンがぽつりと口を開いた。
「……終わったよ」
短い報告だった。
「ああ」
オレも、それだけ返す。 本当は聞きたいことはいくらでもある。無事だったのか、怪我はないのか、何があったのか。でもどれも、今さら聞くのが妙に癪で、結局簡単な相槌しか出てこなかった。 再び沈黙が落ちる。 気まずい。 息が詰まりそうなほどに。 視線を逸らし、何気ないふりで机の上のパンに手を伸ばした。包みを開ける音がやけに大きく響く。ひと口かじってみるが、味はほとんど感じなかった。 ゴンの気配が気になる。 視線を向けていなくても分かる。すぐそこにいるのに、妙に遠い。 その距離が、じわじわと神経を削ってくる。オレは パンを持ったまま、少しだけ苛立ったように息を吐いた。
「……で?」
つい声が出た。 ゴンが顔を上げる。
「なに」
「どうだったんだよ」
言い方が少し強くなる。 自分でも分かるが、抑えられない。 ゴンは一瞬だけ間を置いてから、「普通だよ」とだけ答えた。 その短さが、また引っかかる。
「普通ってなんだよ」
「そのまま」
「……怪我は」
「うん、ないよ」
淡々としたやり取り。 まるで他人同士みたいだった。 そのことに、オレの中で何かがきしむ。 言葉が続かない。 でも、このまま黙っているのも耐えられない。 何か言わなければと思うほど、うまく言葉が出てこない。 代わりに、余計な一言がこぼれた。
「……なら別に、最初からそう言えばよかったじゃん」
言ってから、空気が一気に冷えたのが分かった。 ゴンの表情が、わずかに変わる。
「どういう意味?」
静かな声だった。 でも、その静けさが逆に重い。
「そのままの意味」
キルアは視線を逸らしたまま答える。
「一人で行って、問題なかったんだろ。じゃあ最初から――」
「キルア」
途中で遮られた。 その一言に、胸がひくりと揺れる。
「それ、今言うこと?」
正論だった。 分かってる。 分かってるのに。 止められなかった。
「……別に」
またそれだ。 自分でも嫌になる。 ゴンが少しだけ息を吐いた気配がした。 その瞬間、何かが切れた。
「なんだよ」
キルアは顔を上げた。 思っていたよりも強い声が出る。
「その顔」
「どの顔?」
「ため息つくなよ」
自分でも意味が分からない。 でも止まらない。
「オレが悪いみたいじゃん」
言葉にした瞬間、空気が張り詰める。 ゴンがはっきりとこちらを見た。
「だって、キルアがそう言ったんだろ」
まっすぐな言葉だった。 逃げ場がない。 それでもオレは、引けなかった。
「だからってほんとに行くか普通」
「行くよ」
即答だった。 その迷いのなさに、胸の奥が強く痛む。
「なんで止めなかったの」
ゴンの言葉に、一瞬息が詰まる。
「……は?」
「止める気なかったでしょ」
その通りだ。 でも 違う。 そうじゃない。
「違――」
否定しようとして、言葉が途切れる。 何が違うのか、自分でもうまく説明できない。 その一瞬の沈黙が、すべてを肯定してしまったように感じられた。 ゴンが小さく息を吐く。 その音が、やけに遠く聞こえた。 その瞬間、 胸の奥に溜まっていたものが、一気に溢れた。
「……心配してたに決まってんだろ」
声が震えた。 自分でも分かるくらいに。 止めようとしても止まらない。
「言えなかっただけで」
喉が詰まる。 それでも、言葉は出てくる。
「なんで分かんねーんだよ」
視界が少し歪む。 息がうまく吸えない。
「お前が 一人で行くとか、普通に嫌に決まってんだろ」
そこまで言って、やっと気づく。 全部、言ってしまった。 言いたくなかったことまで。 隠していたはずのものまで。 部屋が静かになる。 音が消えたみたいに。オレ は視線を逸らした。 これ以上見られたくなかった。 顔も、表情も。 こんな状態を。 少し遅れて、自分の呼吸の荒さに気づく。 肩がわずかに上下している。 手も、少し震えていた。 最悪だ。 こんなの。 完全に。……依存してるみたいじゃねーか。 頭のどこかでそんな言葉が浮かぶ。 でも、それを否定する余裕はなかった。 *ただ、胸の奥が痛くて。 どうしようもなくて。 それだけだった*。
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