テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
扉の開く音で、目が覚めた。眠っていたというより、ただ意識が途切れていただけに近い。浅い眠りの底から引き上げられるようにゆっくりと目を開けた。薄暗い部屋の中、入り口に立っていたのはゴンだった。その姿を確認した瞬間、胸の奥に張りつめていたものが一気に緩みかける。だが同時に、それを押し戻すように別の感情が浮かび上がってきた。安心と、苛立ちと、言いようのないモヤつきが、同時に胸の中で絡まり合う。体を起こしたが、すぐに何も言わなかった。ゴンもまた、いつものように「ただいま」と軽く言うことはせず、少しだけ視線を逸らして靴を脱いだ。その仕草がやけにぎこちなく見えて、余計に空気が重くなる。部屋の中に、微妙な沈黙が落ちた。ゴンは何も言わずに荷物を置き、少し離れたベッドに腰を下ろす。いつもなら当たり前のように隣に来る距離なのに、今はわざと間を空けているように感じられた。その距離を見て、胸の奥が小さく軋むのを感じた。
――なんで離れてんだよ。
そんな言葉が頭をよぎるが、口には出せない。自分が「好きにしろ」と言った結果だと分かっているからだ。しばらくして、ゴンがぽつりと口を開いた。
「……終わったよ」
短い報告だった。
「ああ」
オレも、それだけ返す。 本当は聞きたいことはいくらでもある。無事だったのか、怪我はないのか、何があったのか。でもどれも、今さら聞くのが妙に癪で、結局簡単な相槌しか出てこなかった。再び沈黙が落ちる。気まずい。息が詰まりそうなほどに。視線を逸らし、何気ないフリで ベッドのすぐ近くの窓に手を伸ばした。 扉を開ける時の音がやけに大きく響く。それよりか、ゴンの気配が気になる。視線を向けていなくても分かる。すぐそこにいるのに、妙に遠い。その距離が、じわじわと神経を削ってくる。オレは立ったまま、少しだけ苛立ったように息を吐いた。
「……で?」
つい声が出た。 ゴンが顔を上げる。
「なに」
「どうだったんだよ」
言い方が少し強くなる。 自分でも分かるが、抑えられない。 ゴンは一瞬だけ間を置いてから、「普通だよ」とだけ答えた。その短さが、また引っかかる。
「普通ってなんだよ」
「そのまま」
「……怪我は」
「うん、ないよ」
淡々としたやり取り。 まるで他人同士みたいだった。そのことに、オレの中で何かが軋む。言葉が続かない。でも、このまま黙っているのも耐えられない。 何か言わなければと思うほど、うまく言葉が出てこない。 代わりに、余計な一言がこぼれた。
「……なら別に、最初からそう言えばよかっただろ」
言ってから、空気が一気に冷えたのが分かった。ゴンの表情が、わずかに変わる。
「どういう意味?」
静かな声だった。 でも、その静けさが逆に重い。
「そのままの意味」
キルアは視線を逸らしたまま答える。
「一人で行って、問題なかったんだろ。じゃあ最初から――」
「キルア」
途中で遮られた。 その一言に、胸がひくりと揺れる。
「それ、今言うこと?」
正論だった。分かってる。分かってるのに。止められなかった。
「……別に…」
またそれだ。 自分でも嫌になる。 ゴンが少しだけ息を吐いた気配がした。 その瞬間、何かが切れた。
「なんだよ」
オレは顔を上げた。 思っていたよりも強い声が出る。
「その顔」
「どの顔?」
「ため息吐くなよ」
自分でも意味が分からない。でも止まらない。
「オレが悪りぃみたいじゃん」
言葉にした瞬間、空気が張り詰める。ゴンがはっきりとこちらを見た。
「だって、キルアがそう言ったんだろ」
まっすぐな言葉だった。 逃げ場がない。 それでもオレは、引けなかった。
「だからってほんとに行くか普通」
「行くよ」
即答だった。その迷いのなさに、胸の奥が強く痛む。
「なんで止めなかったの」
ゴンの言葉に、一瞬息が詰まる。
「……は?」
「止める気なかったでしょ」
その通りだ。でも違う。そうじゃない。
「違――」
否定しようとして、言葉が途切れる。 何が違うのか、自分でもうまく説明できない。その一瞬の沈黙が、全てを肯定してしまったように感じられた。ゴンが小さく息を吐く。 その音が、やけに遠く聞こえた。その瞬間、 胸の奥に溜まっていたものが、一気に溢れた。
「……心配してたに決まってるだろ」
声が震えた。 自分でも分かるくらいに。 止めようとしても止まらない。
「言えなかっただけで」
喉が詰まる。 それでも、言葉は出てくる。
「なんで分かんねーんだよ」
視界が少し歪む。 息がうまく吸えない。
「お前が一人で行くとか、普通に嫌に決まってるっつーの……」
そこまで言って、やっと気づく。 全部、言ってしまった。言いたくなかったことまで。 隠していたはずのものまで。 部屋が静かになる。 音が消えたみたいに。オレは視線を逸らした。 これ以上見られたくなかった。 顔も、表情も。こんな状態を。少し遅れて、自分の呼吸の荒さに気づく。 肩がわずかに上下している。 手も、少し震えていた。 最悪だ。 こんなの。 完全に。……依存してるみたいじゃねーか。 頭のどこかでそんな言葉が浮かぶ。 でも、それを否定する余裕はなかった。ただ、胸の奥が痛くて。 どうしようもなくて。それだけだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#二次創作