テラーノベル
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澪
54
一話 マウンティングと小さな鞄
―――オフィス内の渡り廊下
サユリはヒールを鳴らしながら廊下のど真ん中を闊歩していた
彼女の名は山取サユリ
一般事務の仕事をしているごく普通の会社員
彼女は出世には興味無い
いつかいい人と結婚して家庭に入ることを夢みて今はとにかく色んな男との恋愛を楽しんでいた
ラウンジ
「わぁ〜!そのバック可愛い〜!」
紺色のジャケットを羽織った女性――佐山昭子は同僚のしおりが手に持つバッグを絶賛する。
「えへへ〜 彼氏に買って貰ったんだぁ〜」
しおりは桃色のワンピースを揺らしながら誇らしげにマゼンタピンクの小さな手持ち鞄を掲げる
昭子は興味津々で彼氏の写真もあるのかと尋ね、しおりはそれに応えるようにスマホを突き出す。
スマホには銀髪に黄色のメッシュを入れ濃い紫のニットを着た男が映っていた。
昭子は羨ましそうに両手を合わせ馴れ初めなどを聞こうとさらに踏み込もうとした。
――そのときだった。
背後からあの幸せを踏み潰すようなヒールの音が聞こえる。
「しおり 彼氏出来たの?」
サユリは卑下た笑みを浮かべながら2人の間に割り込み、しおりの顔を覗き込む
しおりは笑顔を引き攣らせながら必死に誤魔化す
「か…彼氏って言ったのは冗談よ…!母に誕生日に買って貰ったの…!」
その言葉を聞いたサユリはここぞとばかりに
「そうなんだぁ〜 確かに彼氏からの誕生日にしてはレベルが低いもんね〜」
と嘲笑う しかしその言葉は想像以上にしおりに突き刺さり しおりの呼吸がヒュッと止まる
昭子はしおりの様子を敏感に察知し
「山取さんあなた…!」
と声を荒らげかけたが サユリが耳を傾けるはずもなく
「じゃ 佐山さん 資料整理お願いね?」
と有無を言わせない傲慢な口調のまま平然と立ち去っていった
なぁんだ 次のお楽しみを見つけられたと思ったのに
つまんないの〜
コメント
1件
「ヒールの音が幸せを踏み潰す」っていう描写、すごく鮮烈でした。しおりさんの笑顔が一瞬でこわばる様子が目に浮かんで、胸がぎゅっとなりましたね。サユリさんの“次のお楽しみ”って感覚も、底意地の悪さが滲んでいて怖いです。2話目でここまでキャラの空気感を描けるのは、澪さんの視点の確かさゆえだと思います。続きを読むのがちょっと怖いけど、でも気になる…!