コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「聖女さま顔色悪―い」
「顔色わるーい。ゾンビみたい」
きゃはは、と笑うこの二つのピンク頭にげんこつを喰らわせても良いだろうかと拳を振るわせる。
予告していたとおり、ダズリング伯爵家にお邪魔させて貰うことになったのだが、まーこの双子が、相変わらず煽ってくるので、本気で殴ってしまいそうになった。子供に手を挙げたら、それも大富豪に手を挙げたらどうなるかっていうのは、分かってるんだけど、押さえられそうになかった。
後ろで、アルバが、「抑えて下さい、エトワール様」と泣きそうに言うので、一瞬冷静になったが、この2人を見ていると、妙に腹が立ってきた。普通の顔をしていれば良いのだが、煽ってくるような、こういうのをガキと言うんだろうとか、思って取り敢えずは笑みをはっつける。
顔色が悪いのは本当だし、化粧で誤魔化しても見抜かれるようだった。
(眠れていないって言うのはあるんだけど……そんなに酷いのかな……)
鏡を見てきたが、確かにそこに映っていたのは死にそうな顔をしていた私だった。何でこんなことになっているのか。眠れていないだけが原因なら良いのだけど、私の首を絞めたようなあとがあって、リュシオルにも驚かれた。こんなことが、リースの耳に入ったら、彼は仕事どころの騒ぎじゃなくなってしまうだろう。だから、私は首元まで隠れるドレスと、その上からスカーフを巻いて貰うなどして隠した。滅茶苦茶熱くて汗がたまっているのが分かった。
でもバレるよりかはマシ。
「ほんとだね、エトワール凄い病人みたいな顔してる」
「笑うぐらいしか出来ないの?少しは心配したらどう?」
何で、アンタまで同調して笑っているのよと言いたかった。いつも、ラヴァインに対しては言葉を飲み込むことが多かった。彼の沸点が分からない以上刺激するのはダメだと思ったからだ。何デラヴァインは、あの双子と一緒に笑っているのか、本当に子供だと心底思った。
今日連れてきたのは、アルバと、ラヴァイン。リュシオルはお留守番だし、トワイライトは、神殿のお手伝いをしてくると彼女も一応お留守番組だった。トワイライトは狙われることが多かったけど、今は少なくなったし(少ないというか、トワイライトが何もしていないけれど、彼女を恨んでいると言って襲い掛かってくる奴がいたり、いなかったり何だけど)、トワイライトだって聖女で強いから、彼女が聖女殿の近くにいてくれるのは安心した。トワイライトは、任せて下さい、私が護ります。と張り切っていたので、彼女に任せてきたという方が大きい。
と、まあ、そこまでは良かったのだが、ラヴァインとアルバはあまり仲がよろしくないようで馬車の仲でもかなり口論していた。アルバが一方的に煽られていたのだが、アルバもアルバで言い返すようになって、こちらも子供みたいな喧嘩をしていた。
喧嘩するほど仲がいいなんて絶対無い。喧嘩したら、しただけだ。
「別に、今日はアンタ達と話しに来たんじゃないんだから」
「知ってるよ、それぐらい」
「知ってるよ、知ってるよ」
と、いつものぶりっこを披露する二人。子供らしくしていたら、何でも許してもらえると思っているのだろうか。私は許したくない。この二人が、腹黒で、Sっけのある子供だって事は分かっているから。
(でも、仲がいいようでよかった……)
一時期は、混沌のせい……いいや、災厄のせいで、二人の関係に亀裂が入って、兄弟の危機だったけど、二人は仲直りして、互いを思うようになって距離が縮まったとか。
私と、トワイライトも一応双子なんだけど彼らと同じようにすれ違っては板だけだし、反面教師……いいや、同じ境遇の物として、仲良くしていければいいと思っているんだけど、多分、二人からして私とトワイライトは姉妹に見えていないのだろう。
「知ってるなら、話をしてくる。だから、案内して」
「わ、言い方」
「わ、わ、言い方」
「本当に、ウザいからやめてよ。アンタ達の本性分かってるんだから、そんな風に、ぶりっこしないで」
きゃー怒った。何て、騒ぎ出して、本当に拉致があかないと思った。困る私を楽しんでいるのは見て分かったし、口角が上がりまくっているし、矢っ張り来るんじゃ無かったとか思うぐらい、嫌な気持ちになった。
子供のイタズラと割り切ってしまえれば楽なんだろうけど、私には、そこまでの余裕がなかった。大人の余裕がない。
「すすっす、すみません、お坊ちゃん達が」
と、二人の肩をそっと抱いて抱き寄せたのは、メイドのヒカリだった。
「あ、大丈夫だから……久しぶり、ヒカリ」
「ご無沙汰してます。エトワール様」
ぺこりと行儀よく頭を下げたのは、双子の侍女であるヒカリだった。彼女も姉妹がいたが、ヘウンデウン教によって引き裂かれ、利用されていた。主人を裏切るという行為に走ったが、二人のことを誰よりも思っていたという事実も発覚して、ルクスの要望の元、メイドを続けているそうだ。
ヒカリは、ドジなところもあるが、演じている部分もあってかなり役者だった。全然、スパイだって見抜けないぐらいに。そして、彼女もまた魔法を扱うのに長けていた。
魔力があって、まだ扱いに慣れていないルクスなら勝てるかもってぐらいに。それぐらいには、ヒカリは出来るメイドだった。
武術に長けている私の侍女のリュシオルとどちらが強いか比べてみたいと思ったけど、互いに傷つきそうなので、そんなことはしない。
「えっと、伯爵様に用があっていらしたんですよね」
「そう。ラジエルダ王国に行くために、船を出して欲しいって……でも、私の個人的な用事というか、要望というか……だから、多分、ダメかもって、ダメ元出来て」
と、一応、ここに来た理由をもう一度説明する。手紙でも用件は伝えてあったのだが、こんな、身勝手というか、忙しい時期に船をかしてくれなんて幾ら心の広い伯爵とは言え、許してくれないんじゃ無いかと思った。
それに、皇宮の方にいけば良いといわれそうだし。
リースに頼るのもあれだし、忙しいからって理由でここに来ているわけだが、その意図をくみ取ってはくれないだろうし。
「その事でしたら、伯爵様は、船ぐらいなら出せると仰ってましたよ」
「え……ほんと!?」
「はい。息子達を助けてくれた恩があるという理由で。後は、北の洞くつの大蛇を追い払ってくれたこともあって。伯爵様は、エトワール様にかなり感謝しているそうで」
そう、ヒカリは丁寧に教えてくれた。
双子の父親、伯爵とは全く縁が無いというか話したことはなかったけれど、そんな風に思われていたんだと思うと、何だか嬉しく思った。知らないところ……ではないのだが、こうして繋がっている縁というか何というかは、これからも大切にしていかなければと思うほどに。
「日時さえ教えて貰えれば、いつでも出航できると」
「さ、さすがは、大富豪……」
そんな余裕があるなんて今ラスター帝国を探しても、ダズリング伯爵家ぐらいしか無いだろう。ブリリアント家も皇宮の方も忙しいし、後はレイ公爵家がどうなって言うかは分からないけれど、一番余裕があって、私が頼れるところと言えば、ここしかなかった訳で。
私は、いつ出発したいか聞かれて、少し悩んだ。まだこのはなしをしっかりしていない人もいるし、何より、無断で出て行ったらまた怒られそうだし。
(二日後……いや、三日後ぐらい?)
こちらも準備が必要なので、時間が欲しい。こっちから言いだしておいて何だけど。それに、誰を連れて行くかも考え物だった。
だって、まだ残党が残っているとか、ラヴァインが記憶を取り戻して、敵に回る可能性だってあるわけだし。と、ちらりとラヴァインを見る。
「何?」
「ううん、別に。お利口にしているかなって思って」
「俺の事、子供だって思ってるの?ああ、でも、エトワールの考えていることはバレバレだから。俺が、記憶を取り戻して、敵になったら……とか考えているんでしょ」
「分かってるなら、言わないで」
「大丈夫。殺すなら痛みを無く送ってあげるし、でも、エトワールは傷付けたくないかな。泣かせたくないし」
と、物騒な事を言う。何処までが本当か分からないし、本当であったら怖い。
けれど、私を泣かせたくないという言葉は優しく聞えた。此奴に限って優しい言葉とかはけるのかと失礼なことを思ってしまったが。
「そう……じゃあ、約束ね」
「いいよ、約束してあげる」
そう、ラヴァインは笑って、私の手の甲にキスをした。する必要があるのかと思ったけれど、彼なりの誠意らしい。
「え、聖女さま、ラジエルダ王国行くの?」
「いくの?」
「そうだけど、何でそんな目を輝かせてるのよ」
嫌な予感がする。
何で、二人がラジエルダ王国について興味を持ったのだとか、そういう云々よりも、これはヤバいと警告がなっている。この二人の前で話すんじゃなかったと、後悔している。
「で、でも危ないし……観光とかじゃないから――――」
「決めた!」
「決めた!」
と、二人は声を揃えて言う。
「「僕達もついて行く!」」