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その声を聞き、よやくグランツは剣をおろした。
「勝負はついているだろう。さっさと剣を鞘にもどさんか」
「…………」
その声は私の後ろから聞こえ、私は一体誰だろうと振返った。その間グランツは、黙ったまま仕方ないとでも言うように剣を鞘にしまう。
騎士達は、一斉に頭を下げ私も下げた方がいいのかと思い頭を下げた。
「貴方が聖女様ですか」
その声の主を見ると、そこには火球男より遥に大きい男が立っていた。全長、一九〇……それ以上あるのではないかと言うぐらいの大男である。
真っ白な髪を綺麗にあげたへオールバックにし、鼻の下に立派なヒゲを生やし、年を感じさせない屈強な身体の所謂イケオジがそこにはいた。おじさまは、私を見るなり深い皺の刻まれた顔を少しゆるめ突然膝をついた。
「え、えっと!」
「お前達、何をしている。聖女様の前だぞ!」
と、おじさまは騎士達に指示を出す。
しかし、騎士達はたじろぐだけで私に頭を下げようとしない。
理由は分かっているから気にしないが、おじさまが凄い見幕で騎士達を見ていたのでその迫力に圧倒された。
「し、しかし……団長……彼女は、伝説の聖女の特徴に何一つ当てはまりません」
そう、誰かが口にした。
私は、それを否定せずただ静かに聞いていた。
すると、おじさまは大きくため息をつき言った。
まるで、分かっていたとでもいうような顔で…… そして、彼はゆっくりと口を開いた。
「だからなんだ! 彼女は、我々がつかえる、守るべきお方なのだぞ! それが、容姿が違うだの、そんな事で差別するでない!」
と、一喝する。
それに驚いた騎士達が、慌てて頭を深く下げる。
私は、何が何だか分からず固まっていた。
「聖女様、申し訳ございませんでした。今後、一切貴方様に無礼がないようにきつく躾けておきますので、今回のことはどうか……」
「い、いえ。その、私気にしてませんし……私がその、伝説の聖女の特徴とかけ離れているのが悪い……から」
思ってもいない事がぽろぽろと口から出てしまった。
そんな私の様子に気づいたおじさまは、私を安心させるかのように優しい口調で続けた。
「伝説の聖女の特徴とかけ離れているからという理由で、貴方様を聖女だと思わず振る舞うことは決して許されません。貴方様は、帝国の光であり救世主……大神官から貴方様のことは聞いております。エトワール・ヴィアラッテア様」
そう言って、おじさまは私にもう一度頭を下げた。
大神官……と聞いてぴんとこなかったが、ここの神殿のあのおじいちゃん神官のことだろうと私は察し、息を吐いた。
(あのおじいちゃん神官さんって、結構凄い人だったんだ……)
そう感心しつつ、わたしはおじさまの方を見た。
そういえば、騎士達が彼のことを団長と言っていたが……
「あ、あの……顔を上げてください。私は本当に大丈夫なので」
「いいえ、これは私の責任でもあります。聖女様のことをもっと早く騎士団員に伝えていれば」
おじさまはそう言うと、不甲斐ないと険しい顔をし俯いた。
伝えていたところで、彼らが私を聖女として扱っただろうか。と私は思ってしまった。
だって、きっとこの世界の人達にとって聖女とはこうあるべきものだと先入観というか理想があり、それと私はずれていた。容姿はかなり大きく違い、中身だって……
「大神官から聞いてます。聖女様は、この帝国のために魔法の特訓をしていると。力を持つ者でありながら、さらに高みを目指すその姿……我々も見習わなければなりません」
「……え、ええ、まあ。魔法がもっと自由自在につかえたらと思って」
私はそう言いながら、おじさまから目をそらした。
そんな私の様子を見て、おじさまは再び口を開く。
おじさまは、とても真面目な人なのだろう。だから、私が本物の聖女ではないことも、この世界について何も知らない無知者であることも知らないのだろう。そう思うと、何だか申し訳なくなってくる。
「それに比べ、お前達は一体何をしていたんだ!」
と、おじさまは向きを変え後ろで萎縮していた騎士達に怒鳴った。
その声の大きさに驚いたのか、騎士達の肩がびくりと震える。
そんな中で、一人がぽつりと言葉をこぼす。
「そこの平民……グランツが、生意気な口を利いてきたので」
「そうです。彼が決闘を」
と、もう一人の騎士が同調する。
その言葉を聞いたおじさまは、呆れたように溜息をついた。
そして、グランツを見ると彼に今の彼らの言葉の真偽について問いただした。
しかし、グランツは何も言わない。言ったところで信じてもらえないとでも思っているのだろうか。
「え、えっと、グランツは私の為に……」
私は、ここで何か言わないとグランツが疑われてしまうのではないかと思い口を挟んだ。おじさまは一瞬険しい顔になったがすぐに、聖女様。と私の言葉を遮った。
「申し訳ありません。今は、彼に聞いているのです。彼もこの騎士団の一人……私が間違っていなければ、自分で話せるはずです」
そう、おじさまはにこりと微笑んだ。
確かに、そうだ。私が口を挟むことではない……グランツの口から言ってこそ、説得力も真実も分かるものだろう。今回の被害者はグランツである。
グランツは一瞬私を見たが、何も言わず、おじさまと向かい合うと呼吸を整え口を開いた。
「俺は、そこの彼に平民だと馬鹿にされていた所聖女様に助けて頂き、口論になった末決闘になりました。簡単に話すと以上です」
と、あまりにもシンプルにグランツは説明した。
私が、何を言ったのかは全て省いていたし、私と何をしていたかも省いていた。
おじさまは、少し考えるような素振りを見せてから、後ろの騎士達に視線を移した。
「う、嘘です。そこのへい……グランツが言っていることは!」
「そうだ! 彼奴が喧嘩をふっかけてきたんです!」
二人の騎士が否定の言葉を口にすると、他の騎士達も口々にグランツが悪いだの何だの言い始めた。
「えぇい! 黙らんか!」
それを見かねたおじさまは、彼らを一喝し黙らせた。
おじさまは、私をちらりと見つめると再びグランツに向き直った。
「儂は、全て見てきた。お前達がどれだけ嘘をつこうと、この目で見た事実は変わらない。お前達が、これまで彼に浴びせてきた罵倒も仕打ちも全て知っておる」
おじさまが、全て言い終わることには騎士達は完全に黙り込んでしまった。
きっと、おじさまは私達の知らない所で色々と動いてくれていたのだろうと。
そう思うと、なんだか胸の奥がきゅんと締め付けられる感覚に陥った。
そんなことを考えていると、おじさまは再び私に向き直った。
その表情はとても真剣なもので、全身に緊張が走る。
何を言われるのかとどきどきしていると、おじさまが重い口を開いた。
「聖女様は、彼を護衛騎士にしたいと仰っていましたよね」
「あ……はい……」
「そうですか。ですが、その前に彼にいくつか聞かなければならないことがあります。それから、考え直して貰ってもよろしいでしょうか」
「……はい、でも私の気持ちは変わらないと思います」
と、私は正直な気持ちをおじさまに伝えた。