テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
この時期にしては寒すぎる風が大日本帝国陸軍の化身に仕えるドール、陸華の頬を撫でる。
此処は軍艦島の一般公開されていない場所。かつては、現代の東京より人口密度が高く、賑わっていた場所。
そこには、陸華一人しか居ない。
「悲しい声が聞こえる」
一人、ポツリと言葉を漏らす彼女。
彼女はただ、何をするでも無く、風を感じ、空を眺め、時々寂しそうに声を漏らす。
彼女は幼い頃から霊感があると聞いた。だからだろうか。此処に取り残された霊達の声が時々聞こえるそうだ。
私も、彼ら霊の声が聞こえる。見える。だが、陸華には、私の声は聞こえない。それも、当たり前と言ってしまえばそれまでだ。私はこの土地自体なのだから。
彼女は私、軍艦島が栄えていた時から度々顔を出していた。
初めて来たのは、確か、私が唯一話せる者、彼女達ドールのリーダーであり、日本国の化身に仕えるドールで、陸華達の姉である、愛華に連れられてだったか。
当時の彼女の瞳には一切の光が宿っていなかった。だが、ここの人々の賑やかさに当てられてか、少しずつ、彼女の瞳に光が宿り始めた。
本当に、あの暗い顔をしていた陸華がたった数ヶ月で楽しそうに笑うだなんて、想像もしていなかった。
あんなに栄えていた私でさえ、今はもう、人も居らず、かつての賑わいも失った。だが、相変わらず“私”は存在する。
何故、私のようなイレギュラーが存在するのかは、世間知らずの私では検討もつかない。まぁ、こんなイレギュラーは私だけでは無いらしい。確か、竹取島と言ったか?愛華が教えてくれた。私がここから動ければ良いのだが、私はこの島自体であって、化身ではないからな。
まぁ、竹取島に関しては例として挙げただけだ。話すのは勿論、一切の関わりがないのだがな。
と、私の話は今はどうでもいいのだ。
私が一人で様々なことを思考していると、陸華はまた、悲しそうに本土に帰ろうと、一般公開されている船着場に行こうと歩き出している。
これは愛華から聞いた話だが、陸華的には私が第2、第3の故郷らしい。だからだろうか?彼女はこんなに廃れた私の所に未だに顔を出してくれる。それが私は心底嬉しい。
時々観光客も来るが、それとこれとはまた話が違う。観光客は公開されている一部の場所にしか来ない。だが陸華は、特別な存在だ。ドールというね。だから陸華はこんな奥の方まで来れるんだ。
そう考えるとなぜドールはこんなにも特別なのかと私は思う。だが、そんなことを一般のものに聞いてしまえば野暮なことなのだろう。なぜかって聞かれると、それはとても簡単なことだ。
ドールというのは、この国の化身達を支える特別な存在なのだから。それに彼女たちには人間にはない超越した力がある。それゆえに余計に孤独を感じるのだろう。
ついでに陸華には普通は見えない霊というものが見える。だからだろうな。普通のドールよりも深い孤独を感じるのだろう。そんな彼女にも兄弟がいるが、その兄弟は普通に接してくれているそうだ。まぁ、これも愛華から聞いた話だがな。
と。年を重ねると、やはり自分語りが多くなってしまうようだ。いけないね。
私が1人でこんなことを考えているといや。私は島だから1つか。陸華はもう船着場についているようだ。
おや。また観光客が来たようだ。陸華は、もう少しここに留まってくれるだろうか。
「陸華!おーい」
「ダメだな。今日も陸華には、私の声が聞こえないらしい」
これが私の習慣だ。陸華が、来るたびに私に気づいてくれないかと声を出してみる。だが、私の声は陸華に届く前に消えてしまうようだ。何とも寂しく悲しいことだろうか。
おや?陸華が観光客と話している。
あの観光客、普通の人間の気配ではない。
ここ日本国の化身でもない。都道府県の化身でもない。ましていや、ここ日本国に存在するドールではない。ならば、他国のドールか化身と考えるのが一番いいのだろう。だが化身に見られる国旗の模様はない。ならばドールなのだろう。
「久しぶり、陸華」
パッと見、なかなかの好青年だ。だが、陸華はお嫁に行かせたくない。まあ、この2人を見ていると、そのような中ではないのは理解できるのだがな。
「わぁ、久しぶり典華ちゃん」
陸華は、楽しそうにそう挨拶をした。
ちゃん付けのところを聞く限り、私はすごく申し訳ないことを言ったようだ。好青年ではなくて、女性のようだ。
典華の声は、男性と間違えてしまう程低く、服装もラフな物だ。よくよく見てみると、胸の部分が開き過ぎて男性なら目のやり場に困るような状態だ。にしても、なかなかなメロンをお持ちで、、、。
「にしても、どうしてこんな所に典華ちゃんが?」
私が疑問に思っている事を代弁してくれるように陸華は典華に質問してくれる。
「半分逃走、残りの半分は会議の事をすっかり忘れてそうな陸華を迎えに来た」
苦笑いを浮かべながら典華はそう説明する。
「何から逃走したんだ?こいつ」
思わず声が漏れる。