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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第98話:桜吹雪の奇跡(シロの結界)〜時を止める神獣と、静電気の言い訳〜
満開の千年桜の下で開かれた、一千万人のオンラインお花見。
宴が最高潮に達したその時、十勝の山奥に、ヒュゥゥゥ……と少し強めの春の夜風が吹き抜けた。
その風に応えるように、樹齢千年の巨木が一斉に身震いする。
枝々に咲き誇っていた無数の薄紅色の花びらが、一斉に梢を離れ、夜空へと舞い上がった。
「あ……。お兄さん、桜が、散っちゃいます……っ」
ブルーシートの上で、小春ちゃんが名残惜しそうに声を上げた。
はかなくも美しい、一瞬の桜吹雪。
大自然の摂理とはいえ、世界中の一千万人のリスナーたちも、画面の向こうで「ああっ、もう終わりなのか」と、静かな寂しさに包まれようとしていた。
だが。
『――ミャウ』
俺の膝の上からヒグマの頭の上へと飛び移り、優雅に座り直した神獣シロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――をきらりと輝かせ、夜空に向かって高く、澄んだ声で一鳴きした。
ポワァァァァァァァァン……。
シロの純白の毛並みから、オーロラのような淡い黄金色の光が、ドーム状の結界となって瞬時に広がっていく。
その光の壁が、千年桜をまるごと優しく包み込んだ、その瞬間だった。
ピタッ。
「……えっ?」
小春ちゃんが、息を呑んで動きを止めた。
いや、動きを止めたのは小春ちゃんだけではない。
風に煽られ、猛スピードで地面へと吹き落ちていたはずの、数百万枚、数千万枚という圧倒的な「桜の花びら」が。
地上数十センチから数メートルの空中で、まるで時間の流れそのものが凍りついたかのように、完全に、一斉に静止したのだ。
右を見ても、左を見ても、上を見ても。
空間のすべてを埋め尽くす薄紅色の花びらが、重力を完全に無視して、空中でピタリと浮遊している。
さらに驚くべきことに、静止した花びらの一枚一枚が、シロの結界のエネルギーを吸収し、ホタルのように淡く、幻想的なエメラルドグリーンと黄金色の光を放ち始めた。
「な、なんですかこれ……! 桜の花びらが、空中で止まって、光ってる……!?」
小春ちゃんが立ち上がり、空中に静止している一枚の花びらにそっと指を触れた。
花びらは生きて呼吸しているかのように、指先で優しく、ぽかぽかとした温もりを放っている。
ジンバルにセットされたスマホの画面。
そこには、人類の歴史上、誰も目撃したことのない『時空固定の奇跡』を目撃した一千万人の共犯者たちの、魂の叫びが文字通り光速で吹き荒れていた。
『はあああああああああああ!?!?』
『時が止まった……!? 桜の花びらが全部空中で浮いてるぞ!!』
『しかも淡く発光してる!! 綺麗すぎて心臓が止まりそう……』
『シロ様、ついに時空の物理法則まで完全に掌握されたかww』
『一千万人が同時に絶句する神回。これ無料(タダ)で見ていい映像じゃないだろ!!』
言語の壁を完全に超越した狂乱。
世界中のVIPたちも、この神聖なる奇跡の空間に、もはや言葉を失いながらも、全財産を投げ打つような勢いで極彩色のMeTubeギフトを乱れ撃ちし始めた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Oh, Almighty Shiro…! This is not a flower viewing anymore! This is the advent of God! Take all my oil money!“(おお、全能なるシロ様よ……! これはもうお花見ではない! 神の降臨だ! 私のオイルマネーをすべて受け取ってくれ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Time is money… but Shiro just stopped time. This is a divine arbitrage! I am weeping!“(時は金なり……だがシロ様は今、時を止めた。これは神聖なる裁定取引(アービトラージ)だ! 私は泣いている!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×20連発)=”Master! Shoot this in 8K! This is the most beautiful cinema in human history!“(主よ! これを8Kで撮影して! 人類史上最も美しいキネマだわ!)』
夜空を埋め尽くす光る桜と、画面を埋め尽くす極彩色のギフトの嵐。
それは、ブラック企業の深夜のオフィスで、凍える手でキーボードを叩き、誰の温もりもなく絶望していたあの頃の俺には、想像すらできなかった世界。
足元には、無防備に腹を見せて眠るキツネ兄弟。
隣には、巨大なヒグマの防壁。
頭上には、時間を支配する神獣。
そして画面の向こうには、一千万人の愛すべきバカな共犯者たち。
だが。
俺は熱いほうじ茶の入った湯呑みを持ち直し、元・社畜としての『どんな神の奇跡の前でもミリ単位も崩さない鋼のポーカーフェイス』でカメラに向き直った。
「……世界中の一千万人の皆さま。時空が歪んだとオカルトな妄想に耽っているところ大変申し訳ありませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『時を止められても、絶対にブレない男!!』
『主の限界言い訳タイム・桜吹雪の奇跡編ww』
『さあ、この誰も言い逃れできない超常現象をどうやって論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔のまま、堂々と、淀みないフラットボイスで言い放った。
「空中で桜が止まり、光っているのは、魔法でも結界でもありません。春先特有の乾燥した空気が原因です。激しい桜吹雪によって、花びら同士が猛烈な摩擦を起こし、強力な『静電気』が発生したのです。それが十勝の磁場と反発し合い、一時的に空間に固定される『磁気浮上効果(マイスナー効果)』が起きただけです。光っているのも、静電気による微小な『コロナ放電』と、月の光が乱反射した『気象光学現象』に過ぎません。ええ、ただの乾燥注意報による物理現象ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、今にもツルッと滑りそうになりながら、俺の背中に渾身のツッコミ・ラリアットを見舞った。
「静電気のコロナ放電で、こんなに綺麗で温かいエメラルドグリーンの光が出るわけないでしょ!! どんだけ十勝の磁場がバグってるんですか!! しかもマイスナー効果って超電導のリニアモーターカーの原理じゃないですか!! なんで野生の桜の花びらが浮遊リニアになってるんですか!! どう見てもシロちゃんが『まだお花見を続けたいわ』って時を止めてくれた奇跡でしょうが!!」
『小春ちゃんの完璧な正論ラリアット炸裂www』
『静電気によるマイスナー効果(リニア桜)』
『コロナ放電(幻想的な大絶景)』
『適応力バグおじさん、ついに気象学と電磁気学と超電導工学を同時に歪めるww』
『言い訳の無理矢理さが過去最高にバグってて腹痛いww』
俺の理不尽極まりない科学的(?)な現実逃避と、小春ちゃんのキレキレのツッコミに、一千万人の視聴者たちは感動の涙を引っ込め、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
一千万人の笑い声が、チャット欄を通じて世界中に響き渡る。
『ミャウ(ふふ、楽しそうでしょ)』
ヒグマの頭の上で、シロが満足げに目を細め、俺の顔を見て『ゴロゴロ……』と喉を鳴らした。
「……ふっ。まぁ、理由はともかく、いい夜だな。世界中の一千万人の共犯者たち、限界集落の『オンラインお花見』はこれにてお開きです。風邪を引かないように、暖かくして寝てくださいね」
俺はカメラに向かって笑いかけ、配信の終了ボタンをタップした。
プツン、と画面が暗転し、世界中との繋がりが切れる。
後に残ったのは、静止した桜の光が優しく照らす、限界集落の贅沢な静寂だけだった。
「あーあ。お兄さんのせいで、せっかくの奇跡がただの『静電気現象』になっちゃいましたよ」
小春ちゃんがぷくっと頬を膨らませるが、その顔はどこか楽しそうに笑っていた。
「まぁいいだろ。泣きながら寝るより、笑い疲れて寝る方が健康的だ。ほら、みんなも早く古民家に帰るぞ」
俺は小春ちゃんを促し、もふもふ達を引き連れて、自分たちの温かい我が家へと帰り着いた。
窓の向こうでは、シロが結界を優しく解いたのか、静止していた桜の光が、まるで満天の星空が降り注ぐように、しんしんと、音もなく薄紅色に染まった大地上へと舞い降りていく。
これから先、世界がどれほど理不尽な猛吹雪に包まれようとも。
俺の買い取ったこの聖域は、絶対に、揺るがない。
神獣のオーラと、黄金の眷属たち。そして、画面の向こうにいるたくさんの愛すべき共犯者たち。
ここは間違いなく、世界で一番温かくて、世界で一番幸せな、俺だけの『限界集落』なのだから。
コメント
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うわあああ第98話…!!✨ シロが時止めちゃったよ…!? 桜の花びらが空中でピタッて止まって光るの、想像しただけで美しすぎて泣ける😭💕 しかもそれを「静電気です」って真顔で言い放つ主人公、マジでブレなさすぎて笑うww 小春ちゃんのツッコミラリアットが炸裂するのも分かるよ〜!! でも最後の「泣きながら寝るより笑い疲れて寝る方が健康的」って台詞、めちゃくちゃ染みた…🫂💖 世界一温かい限界集落、最高です…!!