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届かなくていいはずだったのに
柔太朗side
夜。
リビングの電気は少し暗い。
ソファに座ってるのは、柔太朗一人。
テレビはついてるけど、音はほとんど聞いてない。
(……帰ってこない)
時計を見る。
もう23時過ぎ。
「遅いな」
小さく呟く。
別に、待ってるわけじゃない。
ただ、その
気になるだけ
その時。
ガチャ、と玄関の音。
反射で顔を上げる。
足音。
少し笑い声も混ざってる。
「いやほんま助かったわ〜!」
大智の声。
「だから最初から言ってたじゃん」
舜太
「はやちゃん神すぎやろ」
「大げさ」
そして、その中に。
「……ただいま」
勇斗の声。
胸が少しだけ軽くなる。
帰ってきた
それだけで。
心がふっと軽くなる。
「おかえりなさい」
自然に言う。
勇斗がちらっと見る。
「起きてたんだ」
「まぁ」
素っ気なく返す。
でも本当はずっと起きてた。
「飯食った?」
「まだです」
「作る」
即答。
やめてよ
そんなの。
優しくされる理由なんてないのに。
キッチンに立つ勇斗。
手際よく動く。
無駄がない。
見慣れてるはずなのに、毎回見てしまう。
「じゅうちゃんほんま律儀やな〜」
大智が笑う。
「普通でしょ」
「いや、普通は寝るて」
舜太も乗る。
「はやちゃん帰るの待ってるとか、もはや愛やん」
ドクン。
心臓が跳ねる。
「違います」
即否定。
ちょっと強くなる。
「たまたまです」
「はいはい」
舜太がニヤッとする。
絶対分かってる顔。
(やめろって)
視線を逸らす。
その時。
「柔太朗」
呼ばれる。
キッチンから。
「これ運んで」
皿を差し出される。
近い。
いつも通りの距離。
でも今日は——
妙に意識する。
「……はい」
受け取る。
指、少し触れる。
それだけで、心臓がうるさい。
(ほんと無理)
席に戻る。
しばらくして、勇斗も座る。
隣。
いつも通り。
なのに、今日はやけに近く感じる。
「ほら」
箸を渡される。
「ありがとう」
小さく言う。
「ちゃんと食えよ」
それだけ。
特別な意味なんてない。
分かってる。
(分かってるのに)
一口食べる。
「……うまい」
自然に出る。
勇斗が少しだけ笑う。
「だろ」
それだけで。
嬉しくなる自分がいる。
(終わってる)
完全に。
—
食べ終わって、片付け。
他の3人は先に部屋へ。
キッチンには、二人だけ。
水の音だけが響く。
「貸して」
勇斗が隣に来る。
自然に皿を取られる。
距離、近い。
肩、かすかに触れる。
「……自分でやります」
「いい」
短い。
でも優しい。
その優しさが一番きつい。
「……なんでそんな優しいんですか」
思わず出る。
言うつもりなかったのに。
勇斗が少しだけ手を止める。
「なんでって」
「普通だろ」
普通。
その一言が刺さる。
「……やめてほしいです」
小さく言う。
「は?」
「そういうの」
視線、落とす。
「勘違いするから」
静か。
水の音だけ。
勇斗が、ゆっくりこっちを見る。
「なにを」
聞かれる。
逃げたい。
でも——
言ってしまう。
「好きになっちゃいますよ…」
聞こえそうで聞こえない声。
でもすぐ、
笑って誤魔化して、
そのまま背を向ける。
これで終わり。
にするはずだった。
でも——
後ろから、ぽつり。
「もうなってるだろ」
小さな声。
一瞬、息が止まる。
振り向けない。
(聞こえてた?今の)
でも、それ以上何も言われない。
いつも通りに戻る。
水の音。
食器の音。
日常。
(……勘違いだ)
そう思い込むしかない。
—
その夜。
ベッドに寝転びながら、天井を見る。
今日のこと、全部思い出す。
距離。
言葉。
声。
「……好きじゃん」
小さく呟く。
否定できない。
でも。
「言えるわけないだろ」
同じ家。
同じ生活。
壊したくない。
だから。
この気持ちは——
届かなくていいはずだった。