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「他に何かやることはあるか?」

彼は手際よく、米を炊く準備を終わらせてくれた。


「お風呂の準備をお願いしてもいいですか?」


彼は淡々と準備を進めてくれたため、思っていたより、早くお風呂が沸いた。


「月城さん、先にお風呂どうぞ。私はその次に入ります」


「そんなわけにいかないだろう」


「私は今日の転倒で出血しているところがあります。もし何か病気を持っていたら、月城さんに移してしまうかもしれないし。あぁ、お風呂に入らないっていうのは無しです。清潔は保持した方が身体のためですからね、せっかくお湯も沸いているし」


月城さんは何か言いたそうにしていたが

「君は芯が強いんだな。頭の回転も早い。そして、俺に指示できるのは小夜くらいだ」


もっと丁寧に言葉を選びながら、伝えた方が良かったのだろうか。

不快な気持ちにさせてしまった?


「有難く、そうさせてもらう。じゃないと君が納得しないだろう」


「家の中の距離くらいであれば、気配は察知できると思うが、何かあったら声を出してほしい」


和やかな空気だったので、一瞬頭から離れてしまったが、私は命を狙われているんだ。


「はい、わかりました」


私の表情が曇ったのがわかったのか


「心配するな。小夜は俺が守るから」


月城さんの瞳には私がいる。


「はい……」


男性からそんなことを言われたことがない私は、ドキッとしてしまった。


月城さんがお風呂に入っているうちに、夕食の準備をした。あとはお米が炊けるのを待つだけだ。


そうだ、着替えを準備しておかなきゃ。あと布団。

縁側で寝るとか言っていたけれど、そんなわけにはいかない。

余っている部屋はあるが、調剤部屋になっていて、すぐに片づけられない。

敷居をたてれば、一緒の部屋でもいいのだろうか、そんなことを考えながら準備をする。


着替えを渡そうと風呂場へ行くと

「小夜か?」

自分が声をかける前に、問いかけられた。

人の気配でわかるんだ、そんなことに関心してしまう。


「はい。あの、着替えを渡したくて。父に買ったものなんですけど、使わないうちに亡くなってしまったので、綺麗です。月城さんより身長が低かったので、ちょっと小さいかもしれませんが」


「ありがとう。そこに置いておいてくれ。もうすぐあがる」


畳んである隊服の隣に着替えを置いた。






「気持ち良かった。ありがとう。結局俺が世話になってしまっているな」


振り返ると、着物に着替えた月城さんが立っていた。

少し長い髪は、下ろしたまま、そしてまだ濡れている。

男性なのになんて色っぽいんだろうか、そんなことを思いながら見惚れてしまった。


「小夜も先に入ってきたらどうか?米は俺が見ている」


「そうですね。じゃあ、お願いします」


月城さんを直視できなくて、急いで自分の着物を準備し、風呂場へ向かった。


お湯に入り、今日の出来事を思い出す。


転倒した時の傷が沁みた。

いつもと変らない一日になると思っていたのに、一瞬にして平穏が崩れてしまった。


どうして私なんだろう、私の何があいつにとって利益となるのだろうか。

そんなことが頭の中でグルグル回っている。


「小夜。大丈夫か?」


なかなか出てこない私を心配してか、月城さんの声がした。


「大丈夫です。今、出ます」


「それならいいが、米が炊けたから夕食にしよう。早く休まないと、明日に響くぞ」


髪の毛を急いで乾かし、台所に向かった。


「皿とか勝手に使わせてもらったが、良かったか?」


月城さんがおかずやご飯、味噌汁などを盛りつけ終わっていたところだった。


「はい、すみません。長湯しちゃったみたいで。私がやらなきゃいけないのに」


「いや、ほとんど小夜が準備していてくれていたから、俺は特にやっていない」


そう言って月城さんは、お膳を二つ軽々と持ち上げ、居間へ移動した。

こんなに手伝ってもらっていいのだろうかと思いながら、背中を追う。


「いただきます」


食べる前に一言言ってくれるのも月城さんらしい。


そういえば、誰かのためにご飯なんて作ったことがあっただろうか。

昔、母が作っているところを手伝ってはいたが、自分が作ったものを他人に食べてもらうんて経験は振り返ってみるとなかった。


味は、大丈夫だろうか。一瞬、不安が過ぎった。


彼はしばらく無言で何も言わなかった。


こちらから聞いてみるべきか、悩んでいると

「美味い」

そう言って彼は、一旦箸を置いた。


「こんなに美味い夕食は久しぶりだ。普段は外で食べているから、なんというか、こういう温まる料理を食べるのは何年かぶりだな」


笑わない月城さんが、ほほ笑んでくれている。


「良かった。お口に合って。自分の料理を人に食べてもらうことなんてなかったから、途中から不安になってしまって」


「料理は母親に習ったのか?」


「はい。よく母が料理を作る後ろ姿は見ていました。手伝ったりするだけだったんですけど、父は母が作る料理が大好きでした」


昔の楽しかった思い出が頭を過ぎる。


私も自然と表情が明るくなった。


「そうか。母親譲りなんだな。普段は仕事のことしか考えられない、食についてはあまりこだわらない方なのだが。こんな美味い料理だったら毎日帰ってきたくなるだろうな」


「父も同じことを言っていました。母さんのご飯が食べたくて帰ってくるって。ありがとうございます。なんだか嬉しいです」


今は一人になってしまったけれど、両親の記憶は私の中にしっかりと残っている。

忘れてしまっていたが、月城さんのおかげで思い出せた。


「感謝を言うのはこちらだ。こんな美味い夕食を食べさせてもらったんだ。何かお礼をしないとな」


「何を言っているんですか?守ってもらっているのは私の方です。材料だって高級な物は何も使っていなくて。昨日の残り物とか、いただいたお野菜とかで作った物なので。お礼なんていらないですから」


こんな料理でお礼だなんて、考えられない。

食べてもらって、おいしいと言ってもらえただけで嬉しかった。


「小夜は何か欲しいものとかないのか?何か求めるものはないのか?」


「特に何もないです。昔からお金のある生活ではなかったですし。欲がないというか。普通の生活ができれば、それが幸せだと思わなきゃいけません。父も母も、本当ならお金をいただけるくらいの薬師の実力はありました。でも、お金がない方からは何もいただかなかった。私より小さいのに病気で亡くなる子もいます。それを考えると、こうして自分の好きなように生きていられるだけで幸せだと思わなきゃって」


「そうか。俺の近くにいる女性とは違うので、驚いているんだ」


彼はふぅとため息をついた。

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