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「俺は、組では隊長を務める立場、齢も今年二十歳を過ぎたため、そろそろ結婚だの見合いだのという話がたまにあるんだ。上層の指示ともなれば、断ることができない時もあって、見合いは何度かしたことがあるが、彼女たちが求めているのは、俺ではない。俺の肩書きや収入、出世。そればかりだ。初めて会ったにも関わらず、何か買って欲しいと強請ってくる女性もいた。そのためか、実はあまり女性が得意ではないんだ」
自分のことをあまり話そうとしなかったので、彼のことを知ることができてなんだか嬉しい。
「月城さんとお見合いとかできる女性って、どこかの令嬢とかじゃないんですか?私はただの田舎の娘ですし、身分も良くありません。なので、価値観が違うのかもしれません。ただ、女性が得意じゃない月城さんがこうやって自分のことを話してくれて嬉しいです」
「小夜と出会ったのは、今日が初めてだが。初めてじゃないような感覚なんだ。うまく言えないが」
実は私も感じていた。
初めてである感じがしない。
懐かしい気持ちがどこかするのだ。
だが、思い出せない。
確実に過去に会っているとは断言ができない。
「昔、どこかで会っているのかもしれないですね。小さい頃とかに」
「そうだな。どこかで会っているのかもしれないな」
夕食の片づけも、私の足の傷を心配してくれ手伝ってくれた。
そうしているうちに、もう夜更けだ。
月城さんから紙と筆を貸してほしいと言われ、渡した。本部に連絡をするということだった。
「小夜、ちょっと来てほしい」
家の縁側に呼ばれた。外はもう真っ暗だ。
月城さんの手には、本部に送るはずの手紙が丸めて筒状になっている。
「もし俺がいない時、何かあったらこいつを呼んでくれ」
「こいつって?」
「俺の相棒だ」
そういうと、月城さんは外に向かって一言
「青龍《せいりゅう》」と声をかけた。
すると、森からバサッという音がしたかと思うと、月城さんの肩に大きな鳥が止まっていた。
「うわぁ、大きい鳥さんですね」
近くで見ると、鋭い爪や嘴に圧倒された。
鳥の種類で言うのであれば、鷹らしい。
「青龍は訓練されている鳥で、本部との連絡役だ。基本的には俺の近くにいる。敵以外の人間を襲うことはない」
青龍は私を見ている。
「青龍、この子は小夜だ。守るべき人。力になってほしい。挨拶は?」
月城さんがそういうと、青龍は私の肩に飛び乗った。
「結構重いんですね」
青龍がうまく乗っていてくれているからか、爪は痛くない。
「こんばんは。よろしくお願いします」
私も声をかけてみる。
しばらく見つめられていたが、月城さんの手紙を咥えて、飛び立ってしまった。
「手紙を届けたら帰ってくる。俺が小夜の近くを離れる時、青龍をおいて行くから何かあったらあいつに伝えてほしい」
「はい。わかりました」
「そろそろ今日は、休むか?疲れただろう。俺は、この辺りで寝るから、小夜は安心して休むといい」
月城さんは縁側を指差した。
「いいえ。そんなわけにはいきません。もう、お布団も準備してあります」
月城さんの袖をひっぱり寝室へ連れて行く。
「敷居は立てました。嫌かもしれませんが、外で寝るよりは、お布団で寝た方が疲れが取れます」
月城さんは困った顔をしていた。
「配慮は嬉しいが。そういうわけにはいかないだろう」
「月城さんが、お部屋で寝ないって言うのであれば、私も縁側で寝ます」
「君は……。本当に根が強いんだな」
ふぅと息を吐いた後、月城さんが私の耳元でこう囁いた。
「俺も一応は、男なんだが。男と女が一緒の部屋で一夜を共にするっていうことはどういう意味なのか理解はしているのか?」
月城さんの低い声が耳の中に残る。
そんなことを一切考えていなかった私は赤面した。
「違います……。違わないけど……。どうしてそういうことを言うんですか……」
半べそ状態の私を見て、月城さんは少し笑った。
「小夜は表情が次々と変って面白いな。見ていて飽きない」
それは良い意味なの?
「わかった。ここで休ませてもらう」
部屋の隅と隅に布団を敷いた。
部屋が狭いため、隅と隅にと言ってもそんなに距離は離れてはいない。
誰かと同じ部屋で寝たのは、両親以来だ。
そんなことを考えていた。
しかしその日は疲れていたのか、いろいろと思い出すことなく眠ってしまったのだった。
・・・・・・・・
「お父さん、お母さん、この子を助けてあげて」
今私は、夢を見ている。
ぼんやりと認識していた。
苦しそうに男の子が倒れているのが見えた。
「小夜、離れていなさい。伝染病、移る病気かも知れないんだ」
父が私に離れていろと指示を出す。
「いやだ!この子は、私を……」
・・・・・・・・
その時、目が覚めた。
なんだろう、昔の夢を見ていたような気がする。
先ほどまでは覚えていたのに。
「おはよう」
「おはようございます」
目を擦りながら、隣を見ると月城さんがもう起きて支度をしていた。
「あっ、ごめんなさい。ゆっくり寝すぎちゃいました」
「疲れていたし、当然だろう。やることもなかったし、勝手に台所を借りて朝食を作った。顔を洗ってきなさい」
「えっ、朝ごはん作ってくれたんですか?すみません。急いで顔を洗ってきます」
パタパタと廊下を走り、準備をする。
そんなに寝ていたんだ、私。
部屋に戻ると、お膳が二つ並んでおり、温かい朝食が準備されていた。
「迷惑だったか?」
「迷惑だなんて……。そんな……。私がやるべきことなのに、ごめんなさい」
「迷惑じゃなければいいんだ。冷めてしまうから食べなさい」
「はい、いただきます」
一口、味噌汁を飲んだ。
「おいしい!」
誰かに料理を作ってもらったのなんて何年振りだろう。
たまにおすそ分けとして近所から余り物をもらう時があるが、温かい食事はずっとなかった。
「月城さん、料理お上手なんですね。おいしいです」
「良かった、口に合って。昔はよくやっていたが、最近は料理なんてすることがなかったから、少し心配だった」
味噌汁もおいしかったが、ご飯の炊き方も丁度良く、昨日の野菜で作った和え物の調味料の加減が絶妙だった。
「月城さん。なんでもできるし、良いお嫁さんにもなれそうですね」
つい、口に出して言ってしまった言葉に後悔をした。
まだあまりよくわかっていないが、隊を率いている隊長に向かって言っていい言葉ではない、失礼だ。
謝罪をしようと口を開こうとした。