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藤田は金属を集めるのをほどほどで済ませると、集めた金属を一つに固め始める。牧原が最後の金属を集め終わる頃には、大きな金属の球体になっていた。
「たぶん。これで全部だと思います」
牧原が言った。
「この金属の塊を粗大ごみで廃棄するのを頼めますか?」
藤田が言った。
「ごみの回収なんて来ないよ」
実際、土曜日が燃えるゴミの回収日だが、ご近所の収集場所に置かれたままになっている。ゴミ回収車が来ていない証拠である。
「この金属の塊から手斧とか作れませんか?」
「そんなの、もちろん余裕だ」
藤田は、金属の塊から細かく三センチぐらいの玉にして千切る。あたかも粘土の塊から小さい玉を千切るように。千切った玉は手にもっている塊に付け足していく。
そして徐々に手斧の形になって行く。パッと見た目は、大沢が持っていた手斧と同じような形のモノが完成する。
「こんな感じでどうだ?」
牧原に完成した手斧を渡す。
「大沢さんの手斧そっくりだなぁ」
牧原は手斧をマジマジと見ながら言った。
「大沢ってプラモデル部の大沢の事か?」
「え。大沢さんを知っているの? その通りだけど」
「クラスメイトだからな」
「なんだって!」
「ちなみに大沢が持っている手斧は俺が作ったんだ」
「二度ビックリだよ」
牧原は近くに転がっていたモンスターの死体の腕を切ってみる。スパッとモンスターの死体の腕を綺麗に切断する。
「切れ味も同じだ。すごいな」
切れ味を確かめている間に、藤田はもう一本作ってしまう。
「もう一本あげよう」
二本ももらっても、とは思ったが、断りづらくいただくことにする。
藤田はさらに三本目を作ろうとしていた。
「今度は剣を作ってくれませんか?」
「剣の形をしたモノを作るのは可能だが、斬撃を飛ばせないぞ」
「斬撃飛ばしは、剣の魔法少女のサブスキルですから」
牧原は苦笑いを浮かべる。
藤田は会話をしながらでも、剣をあっさり仕上げた。
牧原は、剣を受け取る。刃渡り一メートルほどの長剣でスタイリッシュなデザインな割には、手にはズッシリする。モンスターの死体で試し斬りをすると良く切れた。
「ついでに鞘も作ってくれますか?」
牧原は、ニコニコしながら言った。
「構わんよ。その剣を貸してくれるか」
藤田は剣を受け取ると、金属の塊に剣を突き刺す。すると粘土に棒を突き刺すときのようにズブズブと突き刺さる。手を止めると、金属の塊の端が、ドロドロした感じに剣に沿って登って行く。刃の部分を覆うように纏わりつくと徐々に形が整っていく。いつの間にか鞘もできていた。
鞘の先を金属の塊から引き抜くと、今度は鞘から剣を抜く。剣を鞘に戻すと牧原に返す。
牧原は鞘ごと受け取ると、剣を抜く。
「こんなあっさりと、すごい」
「ありがとう。廃棄するしかなかった金属片の新たな処理方法ができた」
藤田が言った。
「あ、そうだ。ボコボコに凹んだ金属バットがあるんだけど、直せますか?」
牧原は自宅の敷地に戻り、玄関の横に置いておいた豊島第十高校から借りたボコボコの金属バットを持って戻って来る。そして、金属バットを藤田に渡す。
「これは酷い凹みようだけど、我が校のバットの様だな」
藤田がバットに書かれた高校名を見ながら言った。
「武器を持っていないと言ったら、豊島第十高校の霧島さんが貸してくれたんだよ。ちなみに借りた時点で元からボコボコだったんだけどね」
「直すのは簡単だ」
藤田は、ボコ、ボコと音をさせながらあっさり直って行く。
「原因は、このバットを使った歴代の魔法少女が戦闘した結果、ボコボコになったんだろ。直しても戦闘で使えば、すぐにボコボコになるんじゃないのか?」
「たしかに。その通りですね」
牧原も元から気付いていたが、まったく興味なかった。藤田に作ってもらった剣があり、剣を使う予定で、金属バットを使う予定はない。大して威力がないからだ。
金属の塊はだいぶ小さくなっていた。手斧や剣や鞘の材料にしたからだ。金属バットを金属の塊につける。金属の塊はドロドロした感じになり、バットの表面をコーティングするように伸びていく。そしてところどころスパイク状の突起が出来た。さながら、童話に出てくる鬼が持ってそうな金棒へバットの姿が変わていく。
「うむ。これで戦闘で作った金属片はなくなった。それでは、また会おう!」
藤田は、自転車に乗って行ってしまう。
「この金棒に成り果てたバット。魔法少女が武器として持っていても良いのだろうか?」
元からボコボコに凹んだ金属バットだったのだ。弁償しろとは言われないだろうが、返す時勇気がいるなぁ、と思いながら苦笑した。この時やっと、三体のモンスターが近づいていることに気付く。
やぱい。モンスターがこんな近くに来るまで気が付かないなんて!
牧原の黒髪の魔法少女は、三百六十度全体を見通せるので、モンスターが近づいているのは、視界に捉えていた。しかし、藤田と一緒に居たことによる安心感が原因で、脅威に対する感覚が鈍っていたのだ。
三体のモンスターを見ると、両手が鎌の形のモンスターである。飛び道具はない。自分ちの敷地に逃げ込めるか考えたが、現在は微妙な距離だ。
ヒットアンドアウェで戦い、自宅の敷地に上手く逃げ込む方法を考える。一番左、自宅側の方の方のモンスターを元バットの金棒で殴って、モンスターが怯んだところへ金棒を投げつける。その隙を突いて自宅の木戸を通って中へ逃げ、木戸を閉める。
そのように作戦をたてると、藤田からもらった剣を鞘ごと腰に差す。そして、向かって左側にいるモンスターの方へ走り、モンスターが反応するより先に頭を金棒で殴る。
金棒に付いているスパイクがモンスターの頭に刺さり、金棒の本体の打撃に加えてスパイクによる刺し攻撃を加わり、大ダメージを与えた。
ダメージを受けたモンスターは、ドシャッと地面に倒れる。
え! 一撃で倒せた?
牧原が一撃を加えたモンスターは、死んだ。残りの二体のモンスターは、牧原へ迫る。
この金棒があれば、あと二体も倒せるかも。