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「りょうた…はよ」
「おはよ翔太、顔洗っておいで」
「んっ」
幼なじみの涼太。朝リビングにいけば必ず笑顔で俺に挨拶してくれる。でもこの幸せを手に入れたのはほんの数年前。それは俺と涼太が付き合いたての時の話…
当時、俺は会社員。涼太はカフェ兼ベーカリーショップの社員だった。2人とも実家ぐらしだったため交流はそれとなく続いていた。たまに、涼太が手作りのパンや茶菓子を持ってきてくれる。俺の母親は涼太の手作りが大好きでそのお裾分けを喜んでいた。
一方俺はと言えば玄関に少し顔を出して「よっ」って言う程度。大の大人が小っ恥ずかしいだろと考え、素っ気ない態度を取っていた。
でも、今思えば不思議すぎる。ただの幼なじみなのに月1の頻度で家に来るなんて…その時涼太が悲しい顔を浮かべているなんてちっとも思っていなかった。
「それ、涼太の?」
『ん?そうよ笑、お茶出すから一緒に食べよっか』
「うぇ~~??」
『こら、涼ちゃんの手作りに文句つけない』
「別文句じゃねーよ」
『はいはい、照れ隠しね笑』
「はぁ!?」
母親はそう言ってキッチンにと向かった。俺は不愉快だと思い拗ねながらソファに腰掛けた。何故だろう。心がざわついている。いつもこんな事はない。ドキドキしてるような…ウズウズしているような…答えが分からないまま、涼太のお菓子に手を付けた。
翌日の朝、8時すぎに家を出て会社に向かう。別にスーツを着るようなガチガチの会社じゃないため、俺はいつもパーカーだったりオーバーサイズのトレーナーを着たりとダラッとした格好をする。それに比べ幼なじみはいつもきちっとしている。何処に行こうとも頭からつま先まで全てが完璧だ。俺の親父は「お前は何で?」なんて…苦笑いで言われてのが昨日のことのようだ。
「あ」
声が聞こえ、ふと顔を上げる。そこには俺と同じ出勤前であろう幼なじみの姿があった。やっぱり朝からお洒落でかっこいい幼なじみ。俺がそんな彼を顔見していたら、彼はおかしなものを見るかのようにふふっと笑って言った。
「なに?笑」
「俺なんか変かな?」
「あぁ…いや何でもないよ。いつでも涼太はお洒落だなぁって」
「ふふ笑、お洒落は俺の心の支えだからね」
「ふ~ん…」
ちょっと納得する。自分が綺麗だと自然と自信がつく。それは涼太を見ていたらすぐ実感できる。昔はこんなに物事をハキハキ言える方ではなかった。どちらかと言えばうまく自己紹介が出来ず俺の後ろに隠れるのがオチ。
でもだんだん大人になっていくにつれて今では俺の前にも出てきそうなぐらい逞しく、かっこいい大人になった涼太。俺とはまるで大違いだ。
「じゃあ俺は先に行くね。ばいばい翔太」
「おう、またな」
別れの挨拶をしてお互い仕事へと向かった。
『翔太くん』
「うっす…ってなんだ目黒か」
「ここ教えて欲しいです」
「えぇ…っと?……あ、これ俺が引き継ぐ事になってるから貰うわ」
「え?そうなの?」
「うん、さんきゅーな」
「はーいっ」
後輩の目黒はなかなかの天然…というか随分バカ。涼太に匹敵するぐらいにおバカさん。でも結構仕事はできるから助かってる。たまにやらかすけど、自分で解決しようとする姿勢は上司たちから好評だ。おまけにそのルックスから部署内にとどまらず他部署の女子からきゃーきゃーわーわー言われる存在。いいねぇモテるって。
「俺には一生ないモテ期だ…」
小声で言ったはずなのに全然聞かれていたようで…
『なに?モテたいの?笑』
「え?聞こえてた?」
『バッチリ!』
「うわぁぁ…忘れろ阿部」
「やだよ~」
この身長が高いのにあざと可愛いのは阿部亮平。もう言うまでもないバリキャリで、俺の同期なはずなのに位が俺より高い…なんで?
それはともかく、“モテたい”と言う願望を聞かれてしまい、ちょっと焦る。別彼女はいらないけどモテるという感覚が欲しい…なんてバカなんだ
「翔太にはぁ~幼なじみって言う存在がいるでしょ?」
「いや…あのね?」
阿部には幼なじみのことは話してある。ただ何を思ったのか阿部は涼太の事を“女”だと思っている。それに何故か俺たちの話に一々敏感に反応してたまにのけぞり返って?ボソッとなんか言ってる。聞こえないけど。
阿部の妄想を壊したくないから訂正はしてないけど、こいつは俺と涼太でどんな想像をしているのだろうか…
「てか、目黒と飯食わなくていいのか?」
「え?もうそんな時間?」
「うん、もう昼休み。何ならこの隙間から目黒めっちゃ見てくるんだけど」
「え?……!な、何してるの?…笑」
「ジーッ…嫉妬」
「もぉお話してただけだよ?ほら、ご飯食べいこ?」
「はーい、いつものカフェ?」
「うん!あのパンもう1回食べたい!」
「ふふ笑…じゃあ翔太くん行ってきます」
「ほーい」
そう言って2人はオフィスから出ていった。モテる後輩×あざと先輩。一部からは「あの2人尊い」なんて言葉が聞こえてくる。まぁ…先輩後輩関係にしては距離が近いから不思議に思う人もいると思うが、俺は何も思わない。
だってあの2人付き合ってるんだもん。目黒が入社したのは2年前。付き合い始めたのはここ1年だったはずだ。話を聞けば目黒が阿部ちゃんに一目惚れして落としたと…行動力はお化けのようだ。
「楽しそう…」
「あれ…涼太?」
仕事を終え、家に帰っている時。何やら肩を落とした人が前から歩いてくると思ったら見たことがある人。何かあったのか、あまり見ない顔をした涼太に目がいった。
「涼太」
「え…?あ、翔太っ」
「どうしたの?」
「…ううん」
笑って誤魔化す涼太。涼太は嘘をつく時絶対に眉が下がるし持ってるバックの紐を両手でぎゅって握る。あぁ…やっぱりなんかあるんだな。
「…大丈夫か?」
「うん…へーき」
そう言って微笑む涼太を見て少し安堵する。涼太も涼太なりに何か考えているのだろうと、深掘りはしなかった。でも、ここで無理やりにでも聞いておけばよかったって、あとで後悔した。
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