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桃下結衣
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竜馬は立ちすくんだまま、この見知らぬ男性がかつて誰よりも家族だと・・・そして自分が愛したあのジャスティンだという事実を飲み込もうとした
ジャスティン・アレンは竜馬が想像していた通りの男になっていた、背も伸びて・・・それはお互い様だが、相変わらずシャープな顔つき、そして大きな瞳に絵の具で塗ったような青色の美しい瞳、鮮やかな金髪の髪・・・そしてダイヤのピアス・・・口元に浮かびかけた不敵の微笑みが、竜馬の魂に驚きのさざ波を送り込む
そして圧倒的な生きて出会えた喜びに浸りながら、同時に今まで姿を現さなかったことに対しての怒りがこみあげてくる、いったいどっちの感情を吐き出せばいいのだろう、竜馬は混乱し、何も言えずただポカンと彼を見つめるしかできなかった
ジャスティンはスラックスに両手を突っ込み、ただ動かずにじっと竜馬を見つめ返していたが、その不動の外見の下に、感情の波が伝わっていくのを感じていた
―青い瞳が黒くなっている―
ジャスティンも動揺している、やがてジャスティンが顎をくいっと動かして言った
「二人っきりで話せる所に行こう」
。 .:・.。. .。.:・
竜馬はジャスティンの後ろを何も言えずただついて行った、驚いたことに彼はこういう場所にかなり慣れていた、すべての人の名前を知っているのではないかと思えるほど、そこ、ここで彼は立ち止まっては、竜馬が知らない人達と軽く会話を交わしたが話に深入りしすぎないうちに、また離れて邸宅の奥に進んだ、そしてまた誰かに声をかけられている
「最近ゴルフの調子はどうですか?」
「お宅の猟犬はどうですか?」
「今年の鳩撃ちシーズンにはぜひうちのサトランの 別荘においで下さい 」
といった風に声をかけられていた、竜馬には「サトラン」がいったいどこの地域なのかも検討もつかなかった、みんなジャスティンに関心を持ち、声をかけたがっていた、クールなカリスマ性のオーラ、とらえどころのない微笑み、冷静沈着な仕草
色んな人と軽い会話を交わしながら、キラキラした人の波の中を泳いでいくのは、ジャスティンにとって全く難しくないようだった、さらに彼はみんなにこう呼ばれていた
「アレン社長!」
「ヘッジファンドが・・・なんたらかんたら・・・」
―どういうことだ? ―
そしてジャスティンに連れられて竜馬は屋敷の裏に出た、そこには三つの木製のテントが設置されており、ヒューストン各地のごちそうが並んでいた、バイキング方式で銘々が皿に料理をとって、黄色いテーブルクロスがかかったテーブルについて食べれるようになっていた
テーブルにはイタリアングラスに生花を入れて、透明な液状パラフィンを流し込んだろうそくに火が灯り、LEDライトのように風に揺れていた、人々はまばらで・・・みんな大統領を見に行ったのだろうと竜馬は思った
「・・・なんか食うか? 」
人気のない所で、ジャスティンがバイキングテーブルを指して竜馬に言った
「・・・いらない・・・」
セドリックのマミー、ヒューストン料理を写真に撮ってきてほしいと頼まれていた、盛り付けを研究したいからと、しかし、そんなこと今の竜馬には考えられなかった、外見は平静を保っていたが、心の中は突然あらわれた彼の事でぐちゃぐちゃだった
竜馬はかつては誰よりもジャスティンをよく知ってると思っていたはずなのに・・・今は見知らぬ他人のように見える、実際そうなのだろう、これまで出会った人達の中で、以前は誰よりも近かったし、一番頼りにしていた
父親みたいで・・・兄みたいで・・・ そして時には恋人のように・・・
竜馬はジャスティンを愛していた、なのに彼は長い年月竜馬を拒絶した、何度も刑務所に会いに行った、手紙も書いた、今まで竜馬の前から行方をくらましていた、全ての理由を話さないなら殺してやる・・・・
「元気だった? 」
先に切り出したのは竜馬だった、伺うような目でジャスティンは竜馬を見つめた
「まずまずだ・・・お前はどうだった? 」
「さぁ・・・・どうだろう?今は気分が悪い 」
竜馬は正直に答えた
「ナーバスになっている、腹を立てていると言ってもいい、どうして刑務所に行った時、会ってくれなかったんだよ!今まで何をしていた!めっちゃ殴りたい!ボコボコに!! 」
ジャスティンを相手にする時に回りくどい言い方をする必要はない、すべてぶちまければ彼が後は何とかしてくれる、わかっている、最後は僕が泣いて彼が機嫌を取ってくれる、なので割合い楽に自分の口からよどみなく言葉が出てきた
「ここに来るまで、君が色んな人と話しているのを聞いてなんとなくわかった、君は今成功してるんだな?僕よりも遥かに金持ちだ!! 」
ジャスティンが肩をすくめて言った
「富の尺度はさまざまなんだよ・・・竜馬 」
ジャスティンがわざわざ答える必要がなかった、その眼を見ればあきらかだ
「君は今何をしているんだ?」
「投資と会社経営をあれこれね」
「なんとなくわかって来たぞ、ここに僕を呼ぶようにしたのも君なんだろう?」
竜馬は攻める口調になっていると思ったけど構うものかっ!もう遠慮はいらない
「君は会うのを拒んだくせに僕をずっと監視していた・・・そうだろう??」
ジャスティンは真っ青な空のような色の、穏やかな目で何も言わずにじっとこっちを見ている
「監視というほどじゃないよ・・・時々こうしてどうしているかと・・・ちょっと調べただけだ 」
竜馬は首を振った
「ジャスティン・・・僕は君がどういう人間か、よく知っているよ、君は「ちょっと調べる」だけではすませられる人間じゃないよ、絶対手を出さずにはいられない、君は・・・」
竜馬はすっと息を吸い込んだ、そしてバルコニーの壁を拳で叩いた
バンッ「グランド邸の仕事を僕の会社に斡旋したのも君だったんだっっ! 」
「お前を助けたかったんだ」
心が二つに割れそうだった、僕に少しでも宗一郎のように口汚く罵れる才能があったなら、ジャスティンにショックを与えれるような言葉を投げつけてやれるのに
離れていた歳月・・・汚い人間になったと思わせたいのに、でも相変わらず、僕は僕なんだ
「助けなんか必要なかったよ!僕たちは自分たちの手で今まで 十分やってきた!そんな裏から手を回すなんてことっっ!」
「俺の助けがあろうとなかろうと、お前がよく頑張ってきたことに変わりはない、お前は一人でよくやっている 」
「こんな仕事なんて回してほしくはなかったよ、ジャスティン!いつ僕がそんなこと頼んだ?僕がどんな思いをしていたかわかる?成功とかお金じゃないんだっ!ただ一言っ― 」
―会いたかったと―
。 .:・.。. .。.:・
まただ・・・ジャスティンといると歯がゆくて涙が出るんだ
「もういいっ!知らないっ!君とは金輪際口なんて聞かないから!もう赤の他人だ! 」
子供かっ!と竜馬は自分にツッコミを入れたかった、涙でぼやけて景色がにじむ、ジャスティンを殴ってやりたかった、本当に殴ってやろうか
「お前に嫌われるのが怖かったんだよ・・・」
ジャスティンの声はかすれていた
「俺はずっと自分がやってきた事をお前に知られるのが恐ろしかった・・・知られたら・・・お前が離れて行くと思ってたから・・・・」
竜馬はじっとジャスティンを見た、その一言で納得した、彼は自分の罪をとても悔いている
「こうでもしないとお前に面目が立たなかったんだよ・・・」
彼が小さく・・・痛ましい声をあげた
「お前にずっと会いたかったよ・・・竜馬 」
「僕も君に会いたかったよ!この横暴なでしゃばり野郎!カッコつけで、人の気も知らないで、せっかく君の事を忘れてうまく生きていこうと思っていたのに、都合が悪くなったら僕から逃げて、そんでまたいきなり現れて、君はいつもいつもいつもそうやって― 」
「寂しい思いをさせて悪かった・・・許せよ竜馬」
ジャスティンはこちらへおいでと言うように腕を広げた
「もういいだろう?いつになったら抱きしめさせてくれるんだ? 」
「ジャスティン!!」
竜馬は弾けるようにジャスティンの腕の中に飛び込んだ、この時の竜馬はどんな単距離レースの選手よりスタートダッシュが速かっただろう、しっかり強くジャスティンの胴に腕を巻き付け、彼の温かい胸に顔をうずめる
竜馬の頬を伝う涙が・・・彼の仕立ての良いシャツに染み込む、全身が激しく震え、嗚咽を漏らしながらハラハラ涙がこぼれる
あのジャスティンがここにいる、あのジャスティンが・・・息が切れ・・・体が震える、このまま死んでしまうのではないかと心臓が暴れる
「そんなに辛かった? 」
ジャスティンが竜馬の髪を優しくなでて耳元で囁く
「辛い!辛すぎるっっ!ジャスティン―」
竜馬は答えた
十一年前・・・フェンス越しの誰よりも家族だと思っていたジャスティンからの突然の別れ・・・そして彼は肩を撃たれ大事な友を失ったと思っていた、そして誰よりもこの歳月会いたくてたまらなかった
「・・・本物だ・・・ 」
両手を頬に充てて、竜馬はジャスティンをマジマジと見た
「ああ・・・・」
二人はしっかりと見つめあった
グスッ・・・「もう・・・どこにも行くなよ・・・」
「そのつもりでお前の前に現れたんだ」
ジャスティンは竜馬の好きにさせた、竜馬は隅々までジャスティンの顔を観察した、両手で頬を抑え、顔を右、左に向けさせた、 あの頃よりも少しやせている・・・顎がシャープになった、もっと食べさせないと、セドリックのマミーの所に連れて行こう
今まで何らと変わらないと思っていた、あれほど艶やかだったジャスティンの髪は・・・張りがなく・・・少し少なくなっていた、そこで何か違和感に気が付いた
なんだろう・・・瞳は竜馬の記憶のまま美しいのに・・・どことなく白目が黄色い・・・見たことがないクマがある・・・肌も・・・・ ??
日焼けをしているのだろうか?どこか土気色で血色が悪い、頬もどことなくこけている、仕事が忙しいのかな?そして額には冷や汗がにじんでいる
口元は嬉しそうに微笑んでいるが、今は息苦しそうに浅く呼吸をしている・・・竜馬は途端に心細くなった、なんだか健康そうに見えない
「ど・・・どうした? 」
竜馬がそっちに気を取られたのは、ジャスティンの少し後ろにブラックのスーツの男性が車椅子を押してこっちを見ていたからだ、東洋人だ・・・竜馬はそう思った、真っ黒な髪・・・すっきりと細い体つき・・・そして雰囲気がどことなく竜馬に似ていた
その男性は竜馬と目が合うとペコリとお辞儀した
「座ってもいいか? 」
ジャスティンは言った
「実は立っているのもやっとなんだ・・・」
ジャスティンがさりげなく手を挙げると、その男性が車椅子を押して近づいてきた、ジャスティンはその車椅子に疲れた様子でドサッと座った
途端に竜馬の心に恐怖がよぎる、竜馬はしゃがんで車椅子のジャスティンを見上げるように視線を合わせた
「ど・・・どこか悪いのか?」
どっと汗が出て、さっき飲んだシャンパンがせりあがってきそうになった、無理に笑みを浮かべているように見えるが、明らかにジャスティンはとても疲れている
「俺・・・肺癌なんだ・・・」
竜馬は今や肩で息をしながら、信じられない思いで目を見開いた、その場に根が生えたように動けなくなった
「ステージIV(末期)だ、体中に転移している・・・あと半年の命だそうだ 」
。 .:・.。. .。.:・
コメント
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わあ…第196話、ものすごい再会シーンでしたね。ずっと会いたかったジャスティンが突然現れて、竜馬の怒りと喜びが入り混じる心情描写が生々しくて胸が締め付けられました。特に「めっちゃ殴りたい!ボコボコに!!」からの涙の抱擁、感情の振れ幅がすごすぎて読みながら息を止めてました。そして最後の車椅子と癌の告白…これは本当に衝撃的でした。ここまで積み上げてきた伏線が一気に回収される感じ、たまらないですね。続きが気になりすぎます!