「アイナ様っ!!」
アイーシャさんたちとの話を終えて部屋から出ると、ルークが慌てて声を掛けてきた。
ルークの後ろにはエミリアさんがいて、心配そうに私を見ている。
「お待たせ――
……って、あれ? ルークは何でいるの?」
「オリヴァーさんが緊急で戻ると聞いて、そこでアイナ様が襲われたと伺いまして……!!」
ああ、なるほど。そう言えばルークが行った会合って、そもそもはオリヴァーさんが誘ったんだっけ。
それなら一緒に戻ってくるのも不思議では無いか。
「私なら大丈夫だから、安心して?
ほらほら、それよりも何と! ジェラードさんが来てくれたんですよ!!」
「やっほー♪ ルーク君とエミリアちゃん、元気してた~?」
「「ジェラードさん!?」」
少し遅れて部屋から出てきたジェラードは、二人に明るく挨拶をした。
「いやー、何だか僕のいない間にいろいろとあったみたいで……。
まさかアイナちゃんがあんなに強くなってるだなんて……?
それに、ルーク君も神器を持っているみたいだし……?」
「あはは、確かにいろいろありましたね。
あのときには戻りたくないくらい、本当にいろいろあったんですよ」
私が明るく言うと、ルークとエミリアさんも納得するように頷いた。
散々な目には遭ったものの、私たちはようやく、何とか盛り返そうとしているところだ。
……今の状況が最善かどうかは分からないけど、それでも悪い状況からはずいぶん抜け出すことができたと思う。
「それじゃ、申し訳ないけど僕にもいろいろと教えてくれないかな?
アイナちゃんの役にまた立ちたいんだ。だから、情報を少しでも――」
「いやいや、ジェラードさん」
「え?」
私の制止に、ジェラードはきょとんとしてしまう。
「情報がどう、とかではなくて。
ジェラードさんは私たちの仲間なんですから、今までのことは単純に聞いてもらいたいです!」
「そうですよ! わたしたち、今まで大変だったんですから!!」
「まったく……。ジェラードさんがいてくれれば、もっと上手くいったかもしれないのに……」
「え? え?
……そこまで信頼してもらえると、とっても嬉しいんだけど……!?」
ジェラードは少し慌てながらも、私たちの気持ちを素直に受け取っているようだった。
裏の顔をたくさん持つ彼ではあるが、きっと私たちはそれを含めて、ジェラードのことを信頼しきっているのだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お屋敷の一室を借りて今までの話を終えると、ジェラードは深い溜息をついた。
「……『神剣アゼルラディア』に、『疫病の迷宮』、かぁ……」
特に『疫病の迷宮』については、アイーシャさんたちにも伝えていない内容だ。
それだけに重い話であり、他言しないこともお願いしておいた。
……その代わりと言っては何だけど、私はすべてのことを話すことにした。
ジェラードは私にとって、アイーシャさんにとってのフルヴィオさんのような存在だ。
情報の扱いに明るいのだから、下手に隠すのは避けた方が良い。
そもそも私が信頼する仲間なのだから、明確に隠していること以外は全部伝えたかった……というのが正直なところだった。
……明確に隠していること。
今となっては、私が『異世界転生者』であることくらいなんだけど。
「私たちの行動が、この国を大きく動かしてしまいました。
罰を受けるつもりは無いけど、できることはしていきたいんです」
「うん……。……いや、思ったよりも、凄い話ばかりだな、って。
ルーク君、エミリアちゃん。よくぞアイナちゃんをここまで支えてくれたね。ありがとう」
ジェラードの言葉に、エミリアさんは泣き出してしまった。
ルークはルークで、何やら神妙な面持ちをしている。
「……私はもっと、いろいろと上手くできたのでは無いでしょうか。
例えば今日だって、オリヴァーさんの申し出を断っていれば、アイナ様を危険な目には――」
「いやいや、ルーク?
今日は私が勝手に外に出て、勝手に巻き込まれただけだからね!?」
「そうそう、気に病むことは無いよ。
アイナちゃんが大人しく寝ていれば、僕がどうにかする予定だったんだから」
「……え? そうだったんですか?」
「うん。一人がトイレにでも行ってる間に、一人ずつ始末しようかなって」
……驚愕の事実である。
もしかして、それって――
「私、戦う必要が無かったってことですか……?」
「まさかアイナちゃんが、一人で外に出てくるだなんて思ってもいなかったからね。
弓星ですら、あれには驚いていたんだから」
「うぅ……。
最近芽生えてきた勘が、まさか無駄な戦いを生んでしまうなんて……」
「でも、僕は感動したよ。
アイナちゃんが倒した魔法使いって、かなり強い部類だったし」
「そうですよ、ジェラードさん!
アイナさんは英雄ディートヘルムを一人で倒したくらいですから!
わたしたちの中では、最強と言っても良いのではないでしょうか!!」
「あぁー……。そういえば話の流れでスルーしちゃってたけど、そのときはどうやって倒したの?」
「えっと、まわりの空気の構成を変えてですね、息を吸ったら貧血を起こすようにしたんです。
私のことを舐めてくれていたので、楽に近寄ることができたんですよ」
「へぇ、そういうことも出来るんだね……。
……でも、さっきはそうしなかったよね? 何で?」
「私、あのときは全力疾走してたじゃないですか。
息を切らせているところで、間違ってその空気を吸ったら倒れちゃうかなー、って」
「確かにそうなったら、シュールな光景になっちゃってたよね……。
それに、絶体絶命にもなっただろうし……」
「ディートヘルムと戦ったときは、風が追い風だったんですよ。
だから息を止める必要も無かったし、えいやーってやっちゃったんです」
「……そうなんだ。
でも条件付きとは言え、アイナちゃんって至近距離だと無敵だね……」
「いやいや。さっきジェラードさんと対峙しましたけど、勝てる気はしませんでしたよ?
やっぱりスピードを出されると、私にはどうしようも無いですから」
ジェラードが弓星を斬ったときなんて、正直何も見えなかったのだ。
だから、私はもっと強くなる必要がある。危険なことを自分で解決するためにも、私はもっと強くならなくては……。
「ところで、ジェラードさん。私って不老不死なんですよ」
「へー、そうなんだ♪
……って、えぇ!? 今、何かとんでもないことをするっと言った!?」
ジェラードは大きく驚きながら、私たち三人を見てまわる。
「脈絡なく言ってしまったんですけど、ルークとエミリアさんはもう知っていることなので。
一応、ジェラードさんにもお伝えしておこうかなって」
「う、うん、ありがとう……?
仲間内だけの秘密ってことだよね? 他の人には黙っておくから、安心して」
「よろしくお願いします。
でもだからと言って、痛いものは痛いし、瀕死になるときは瀕死になるんですよ」
「夢物語の不老不死とは違うんだねぇ……。
怪我をした端から、しゅるしゅるーって治りそうなイメージがあったんだけど……」
「それだったら楽だったんですけどね。
私は何回も寝込んで、何回もエミリアさんに面倒を見てもらってますもん」
「――最近思うんです。
わたしが生を受けた理由って、アイナさんの看病をするためだったのでは……と」
私の言葉に、エミリアさんは何か悟ったように、静かに言った。
「いやいや、エミリアさん!? それは達観しすぎですよ!?」
「えぇー……」
「でも、エミリアちゃんの気持ちは分かるな。
僕だってアイナちゃんに右腕を治してもらって、人生を救われたんだ。
だから、これからは一生を懸けてそれに報いたいと――」
「ちょ、ちょっとジェラードさん!?
確かにそんな話、以前に聞きましたけど……一生とか、そういう話では無かったですよね!?」
「えぇー……」
ジェラードはエミリアさんの真似をしながら、しゅんとしてしまった。
「アイナ様、私も同感です。
私は命ある限り、アイナ様にお仕えしますので」
「ルークの場合は、そういう誓いを交わしたからね。うん、よろしく」
「えー!? ルークさんばっかりずるい!!」
「そうだそうだ! 僕たちも是非、誓いをっ!!」
「却下します」
「「えぇー……」」
私としては、仲間の中で上下関係なんて付けたくない。
すでに誓いを交わしてしまったルークは置いておいて、他の人たちとは同じ立場で付き合っていきたいというか――
……まぁ、気持ちだけありがたく受け取っておけば良いよね?
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