テラーノベル
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「え? 私、そんなこと言ったっけ。なんだかすっごい偉そうなこと言ってるね、ごめんね、本当に」
「どこも偉そうじゃないです。僕、それからなんか勘違いしちゃったんですよ。それから誰とも付き合わなくて。自分にふさわしい人なんて、本当にそんな人と出会えるのかな、って思ってるところがあって」
「うーん。ふさわしい人ねえ……」
栞は少しだけ空を見上げ、それから凌の目を真っ直ぐに見た。
「私も当時はさ、ふさわしい人に出会えてなかったわけでしょ? だから、これから何があるかなんて誰にも分からないよ。でも凌くん、今は好きな子がいるんでしょ? なら、その子に全力でいかないと」
凌は黙ってその言葉を噛み締める。
「でも、ただ全力なだけじゃダメだよ? 自分の気持ちを押し付けるんじゃなくて、その子のことを一番に考えられる人にならないとね」
その言葉は、凌の心にあった過去の重荷を、軽やかに解いていくようだった。
全力で、けれど相手を一番に。
「……ありがとうございます。栞さん」
栞と別れた後、夕暮れの道を歩く凌の足取りは、いつになく力強かった。
初恋を完全に「過去」のものとして整理できた彼は、今、部活の備品を抱えて待っている紗南のもとへと駆け寄る。
「……紗南ちゃん」
振り返った彼女の瞳に映るのは、もう迷いのない、一人の男としての凌だった。
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