テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#一次創作
ruruha
257
ruruha
848
323
階段を上って、三階の忘却の間だ。
床と壁には大量の血が飛び散っている。
リズの血。
ここはリズが死んだ場所。
「…………」
ゆっくりと目を閉じた。
意識的に現実から目を背ける。
今はお母さんを探さなきゃ。
泣き喚いて悲しみに暮れるのは、その後でいい……。
窓から漏れる月明かりが部屋を照らしている。
ドアを開けて、空にかかる渡り廊下へ出た。
大きくくり抜かれた窓からは、今夜も湿った風が通り抜けていく。
北側の窓の外には、湖が広がる。
その向こう、黒い林の中に霞むように懐かしい我が家が見えた。
直線距離にしたら大して離れていないはずのに、ひどく遠く懐かしい。
もう二度とあそこには帰れないような。
「…………」
ダメダメ。
嫌な想像を振り払い、頭を振って反対側の窓へ目を向けた。
そこからは中庭が見渡せる。
中庭を見下ろした私は、その風景に目をとめた。
中庭を誰かが歩いている。
その腕に誰かを抱えて、体を揺らしながら。
「お母さん!?」
冥使の腕に抱えられていたのは、お母さんだった。
気を失っているのか、ぐったりと動かない。
「お母さんッ!!」
窓から身を乗り出して絶叫した。
でも、冥使もお母さんも反応を返す事はなく、回廊の中へ入っていく。
……追いかけなきゃ!
のんびり辺りを見渡してる場合じゃないわ。
二人が遠くに行っちゃう前に中庭へ降りなきゃ!!
階段を駆け下りて、二階の鳥籠の間に飛び込んだ瞬間息が止まった。
檻の中の『私』がーー”影”が起きている。
「レナ……!!」
影は私の姿を認めると、自分を囲む檻にかぶりついた。
思わず体を縮こませた私は、あることに気づく。
お香が消えている。
部屋に染みついた匂いは消えていないものの、さっきまでむせ返る煙は薄らいでいた。
……そのせいで目が覚めたのだろうか。
「アアッ!!」
「!」
もう一度、がしゃんと檻が揺れる。
「…………」
……大丈夫、檻があるもの。襲ってはこない。
こんな所でもたもたしていられないわ。
お母さんを見失っちゃう!
刺激せずに、速く静かに通り過ぎてしまおう。
目を合わせずに檻をかわすと、階段へ向かった。
その時だ。背後でガゴォンと重い響きが起きた。
「!?」
反射的に振り向くと、私の目の前で持ち上がっている。
そんな、どうして!!
けど、そんなこと考えている暇はなかった。
「アアァア!!」
歓喜の声と共に、鬼が解き放たれる。
下に続く階段へ飛び出した。
私は回廊の北西に飛び込む。
牢獄道へ続くドアと、開いたままの落とし戸が見えた。
「ウアアァゥ!!」
迷って足が止まった私の背後で、ドアが蹴り破られる。
迷ってる暇なんかない。
よし、渡り廊下へ逃げよう!
そう決めて駆け出そうとした瞬間、”影”の長い手が私の足首に伸びた。
「!」
ぐいっと足首を引かれ、転ぶ。
思いっきり顎を床に打ち付け、涙が滲んだ。
痛……。
床に倒れた私の頭上を、ひゅっと黒い影が横切る。
お化けが私を飛び越え、落とし戸の前に置かれている樽に飛び乗ったのだ。
昨夜落とし戸を開ける時に、使った樽だ。
樽に乗って私よりも目線が高くなったお化けは、なんだか得意げに首を揺らした。
「うあ、ぁあ」
だめ、今は渡り廊下に行けない!
身を翻して牢獄道へ道を変更した。
「レナ!!」
背後で樽を蹴飛ばし、飛び降りた音がする。
逃げなきゃ!
私は断罪の間に飛び込んだ。
そうだ、この内扉を!
急いで檻の中に入ると、ひしゃげて開いたままの内扉に飛びついた。
「う……ん……!!」
扉はちょうつがいが外れているため、歪んでいてうまく動かない。
それでもなんとか閉めようと、急いで近くにあった手錠を巻きつけ扉を固定する。
次の瞬間、お化けが部屋に飛び込んできた。
「ガアアッ!!」
閉められた内側に体当たりしてくる。
絡ませた手錠が、がちゃがちゃと音を立てた。
だ、大丈夫。
ちゃんと閉めたもの、そう簡単には開いたりしないわ。
ここにいれば安全……。
後退りながら、はっとあることを思い至る。
そうだ、ここは回廊……向こう側からも回ってこられる。
急いであっちも閉めなきゃ!
扉を開けて廊下を渡った。
落とし戸の開閉レバーを押し上げると、軽い地響きと共に戸が落ちる。
私は思わず床にへばりこんだ。
回路は切断される。
これで……とりあえずは安心……。
今のうちに東塔に避難して、それから……。
突然、叫び声が響き渡った。
ぎくっとして辺りを見回す。
違う、すぐ近くじゃない……。
ちょっとだけ離れたところ……東の方から聞こえた?
男性の声だったような、女性の声だったような気もする。
方向からして、”影”の声ではないことは確かだ。
……まさか、お母さんじゃあ!
私は立ち上がった。
落とし戸は危ないから、しばらく開けない方がいい。
それよりもさっきの悲鳴が気になる。
東塔へ行ってみなくちゃ!
断罪の間の柵の中にあるハシゴを下り、奈落の間。
水の流れを辿って上を見上げる。
水は天井の壁際に開けられた隙間から、流れ落ちてきていた。
声が聞こえてきたのは……この上あたりかしら?
大きな穴に入って聖地の東側だ。
辺りを見渡してみる。誰の姿もない。
悲鳴が上がったのはここじゃないみたい。
それなら塔の上の階かしら?
一階の泉の間へ続くドアを開けようとして、一瞬手を止めた。
物音。人の気配。
ドアの向こうに誰かいる!?
もしかしてお母さんじゃ!!
そう思った瞬間、部屋の中へ飛び込む。
「おかあさ……!」
呼びかけた声は、途中で凍りついた。
目の前にあったのは泥と血に塗れた体。
ボロボロの服から露出している肌は真っ青だ。
その体越しに、銃を構えたフレディの姿が見える。
私は彼が撃とうとした冥使の後ろで、ドアを開けてしまったのだ。
コメント
1件
うわ、この展開…! リズの血が飛び散る「忘却の間」から始まって、お母さんを冥使にさらわれる絶望感、そして檻の中の“影”が起きちゃう恐怖… 一瞬の油断が命取りになる緊迫感がやばい。最後、フレディの銃口の前に飛び出しちゃうところで「あっ!」って声出たわ。主人公の決断の速さと、その裏にあるお母さんを想う必死さが胸に刺さる。続きが気になりすぎる🔥