入学式から早く約1ヶ月が経った4月終わり。
「そうだ。今日の私の授業は本来の授業ではなく
5月にある球技大会のことについて話し合い、いろいろと決めますので
そのつもりでよろしくお願いします」
と言って担任の雀永(じゃくなが)先生はホームルームを終え、教室を出て行った。
「司ー助(たすけ)ー。球技大会どーするよー」
遊(ゆう)がイスの背もたれのほうを正面にくるように座りながら言う。
「オレは特に。参加してもしなくても」
助が答え
「僕も。2人が参加するなら参加したいなって感じかな」
司も答える。
「オレは参加する気満々だけどー。大丈夫なん?」
遊が心配する理由。そして助も司も言っている「参加するorしない」という話。
それはここ白樺ノ森学院の球技大会が特殊なためである。
知っての通り、白樺ノ森学院はお金持ちの子どもが通うお金持ちのための高校である。
白樺ノ森学院に通う生徒の中にはピアノ、バイオリンなどの楽器を習っていたり
書道、絵画教室に通っている生徒が少なくない。
さすがに体育祭は基本的によっぽどな理由がない限りは強制参加であるが
球技大会は競技が球技なため、突き指などのリスクが高いので
指先を大切にしなければならないピアノやバイオリンなどの楽器を習っていたり
書道、絵画教室に通っている生徒のご両親が球技はなるべくさせたくないと思っている人が多いため
球技大会の競技への参加は生徒、または両親に「参加するorしない」の決定権があるのである。
「あぁ〜…でも、ママは反対するかも」
と助が言う。
「なんかやってんの?」
「ピアノ習っててさ。全然本腰入れてやってるわけじゃないから、別にオレとしてはいいんだけど」
「あぁ、そういうことなら僕も母と父がなんて言うかはわからない…」
「遊ん家(ち)は大丈夫なん?」
「あぁ。オレん家(ち)は全然。バク転して「おぉ〜」って言ってるくらいだし
球技大会の話も「優勝してこい」って言うんじゃないかな?」
とあっけらかんに言う遊。その話は女子陣もしていた。
「2人は球技大会出る?」
栗夢(くりむ)が光、美音に聞く。
「私は出ないかなー。めんどいし」
光が答える。
「めんどいって。でも私も出ないかも。…運動…苦手だし」
だろうね
と思う光。と
そうだよね
と思う栗夢。
「私も両親がダメって言うと思う」
「そっか。栗夢はケーキ作るから」
「うん…。ま、作るのは私はそんなにしないけど、売る側も指先って大事ってお母さんが言ってたから」
「へぇ〜。じゃ、ここ3人は出ないってことで」
と女子3人は出ない方向性で固まっていた。
授業が始まり、担任の雀永先生の授業の時間となった。
「えぇ〜。これからプリントを配ります」
先生が席の各列の先頭にプリントを数えて渡す。それをどんどん後ろに回していく。
「えぇ〜。それは今年度、白樺ノ森学院の球技大会の参加、不参加のプリントです」
そのプリントには「○○年度 白樺ノ森学院球技大会について」と大きくタイトルのように書かれており
その下には「○○年度、白樺ノ森学院の球技大会について〜…」と長々と書かれており
その下、プリントの下部に氏名を書く欄、そして保護者の名前を書く欄とその横に印鑑を押す欄がある。
「特に理由とか書かなくていいんだ。ラッキー」
と呟く光。
「球技大会のことでこの授業丸々使うってのは無理があるので
球技大会のことが話し終わり次第、いつも通り授業をしようと思います」
と担任の先生、雀永先生が言うと、ピキーン!っと頭に何も閃いていないのに閃いたように感じた遊。
「まずは競技の発表から」
先生がモニターを黒板の替わりのホワイトボードの前に持ってきてパソコンを接続する。
そしてパソコンを操作しながら説明する。
「毎年、体育館ではバスケ、バレー。校庭ではサッカーが基本です。今年度も同じもので行くと思います。
よっぽど生徒がやりたいと望むものがなければ、の話ですが」
「はいはいはーい」
遊が元気があるのか元気でないのかよくわからないテンションで手を挙げる。
「どうかしましたか?遊雉(ゆうち)くん」
「他の競技も検討したいんですが」
「もちろんいいですけど…。たとえばなんでしょうか?」
「たとえばぁ〜…」
振り返り
「なにがある?」
助と司に助けを求める遊。
「知らんよ。なんであんなこと言ったんだよ」
「えぇ?だって話し合いすぐ終わったら授業になるんだぞ?目一杯引き延ばす選択肢以外になにかある?」
「あぁ…。なるほど。…じゃあクリケットとかは?」
「クリケットとか」
なんにも考えず、なんのフィルターも通さず助の行ったことを復唱する遊。
「クリケットですか…。クリケットってなんでしたっけ?
…聞いたことはありますが…。クリケットクリケット」
先生がパソコンで検索する。
「他、他」
遊が助に求める。
「他?んん〜…」
とスマホで検索してみる助。
「てか遊も調べろよ」
「あぁそっか」
遊もスマホを出し、検索しようと画面をつけると光からLIMEの通知が届いていた。
光「ナイス。引き伸ばせ引き延ばせ」
というメッセージで気合が入り直した遊。
「クリケットですかぁ〜…。道具買わないといけませんし、ルールも皆さん知らないでしょうしねぇ〜…」
と渋る先生。
「じゃあ、キックベースとか」
「なるほど、キックベースですか。ありですがぁ〜…。そうですねぇ〜…キックベースですかぁ〜…」
と渋る先生。助がスマホを見ながら呟く。
「ラグビー、テニス、セパタクロー、ポロ、ラクロス。あ、ゴルフも球技に入るのか」
と言う助の呟きを
「ラグビー、テニス、セパタクロー、ポロ、ラクロス。あ、ゴルフも球技に入るのか」
そのまま、自分の言い方にも直さず、フィルターも通さずに復唱する遊。
「ラグビーは危ないので却下します。テニスですかぁ〜…。できてダブルス。
テニスコートに移動して…ラケットはテニス部の予備があるでしょうけど…。
ま、どうしてもっていうなら通るかもしれませんけど…。あとはなんでしたっけ?」
「あとはなんでしたっけ?」
先生の言葉をそのまま復唱して助にぶつける遊。
「セパタクロー、ポロ、ラクロス。あと通るかわからんけどゴルフ」
「セパタクロー、ポロ、ラクロス。あと通るかわからんけどゴルフ」
そのまま言う遊。
「セパタクローって、なんでしたっけ?」
先生がパソコンで検索を始める。検索エンジンHoogle(ホーグル)の検索欄に
Hoogle[セパタクローとは]
と入れて検索する。するとセパタクローをしているときの画像と
その下にセパタクローについての説明が出てきた。
「はい。危ない。ダメです」
画像を見て即座に判断し
「ポロだっけ?ポロ…ポロ…」
と今度は検索欄に
Hoogle[ポロとは]
と入れて検索する。するとまたポロをしているときの画像とその下にポロについての説明が出てきた。
「乗馬して行う球技ですか…。ま、馬に関しては乗馬部の馬を借りればなんとかなる気がしますが…。
いや、そもそも乗馬の練習を行う必要がありますし、画像見る限り危険そうですし
この競技に関しては気軽にできるものではなさそうですね」
たしかに
納得するクラス内の全員。
「あとなんて言ってましたっけ?…あぁ。ラクロス。ラクロスもたしか道具使いますよね?」
と言いながらラクロスも検索する先生。
「そうそう。このネットみたいなやつ。…アメフトみたいにヘルメットとかも必要なんですね。
どの競技もおもしろそうですが、どの競技もハードルが高いですね」
と言う先生。
「ゴルフは?」
「ゴルフですか…。ゴルフ。道具に関してはゴルフ部に借りればなんとかなりますし
ルールもある程度皆さんも知ってますしね。ただコースに出向く必要がありますし
紳士のスポーツとして有名なのに、クラス全員でコースに出るというのも…」
たしかに
納得するクラス内の全員。
「万策尽きたか」
と呟く光。教室内の時計を見ると、授業開始20分ほどしか経っていなかった。
「先生はゴルフやるんですか?」
遊が引き伸ばし作戦に入る。
「お。そうきたか」
と呟く光。
「私はあまりやらないですね。付き合いでコースに出ることはありますけど」
「てかすげー疑問だったんですけど、なんで人って金持つとゴルフやるんですか?
芸能人もよくゴルフ自慢してるじゃないですか?」
「あぁ〜たしかにそうですね。でもお金を持つようになったからゴルフをするのではなく
忙しいからゴルフをするんだと私は思うんです。
光陰矢の如しという言葉があるように、時間は光のような速さで流れ過ぎてしまうものなんです。
時は金なりとはよく言いますが、たしかに時は金なりです。
これだけの時間があればこれだけ稼ぐことができる。
だからこそ、時間を無駄にすべきではない。という考えももちろんありますが
反対に1分1秒を削り、犠牲にし、日々忙しない日常を送り、お金を稼いだら
今度はゆったりとした時間が欲しくなるんです。ま、人によると思いますけどね?
その点、ゴルフというのは自然の中で、ゆっくりと静かに行う、紳士なスポーツなので
ゆっくりした時間を過ごし、自然と触れ合い、体を動かすというのでは持ってこいの競技だと思うんです」
授業みたいになる先生。
「なるほど。でもお金ないとできないスポーツでもありますよね?」
「まあ、そうですね。クラブとか全部、ピンキリではありますけど、基本的には高いですからね。
もちろん使う人の腕もありますけど、高いクラブは性能がいい…らしいので。
ま、私も高いクラブを使ったことがないので聞いた話ですけどね。
なのでお金持ちが割と有利なスポーツではあるかもしれませんね。
それによく考えるとお金があるというのは、時間にも余裕が持てるということですもんね。
コースを回るのにも時間かかりますし、練習もしなければいけない。
よく考えたら遊雉(ゆうち)くんのお金持ちもスポーツというのもあながち間違いではないのかも…」
と一人で答え、一人で疑問を芽生えさせ、一人でそれについて考えるという
良い癖なのか悪い癖なのかわからない癖を発動させる先生。
「お。先生の癖出たわ」
呟く遊。スマホの画面が光る。すると光からのLIMEの通知が来ていた。
光「ナイス」
そのメッセージを通知欄で確認し
「うっし」
と呟き、左手をグッっと握る遊。司はというと
昔こーくんにクリケットは栗を蹴って相手の背負う籠に入れて、その得点を競うスポーツって教えてもらったし
ラグビーはピスタチオをミックスナッツの中から早く選別してほうが勝ちっていう遊びだって聞いたし
テニスは家族でやったことあるから知ってたけど
セパタクローは主にお母さんがやるスポーツで、先頭をパンティー?ってものを持って走るタクロウを捕まえて
捕まえたその場からスタート地点にパンティーを投げて
どれだけ近づけさせることができるかってスポーツって教えてもらったし
ポロは水上競技で、乳首1箇所が1ポイント、下半身はお尻が2ポイント
前は3ポイントって感じで、ポロリ?ってのをさせた分だけポイントが入るスポーツって教えてもらったし
ラクロスは「Luck(ラック)」「Lost(ロスト)」の略称で
三つ葉のクローバーだらけの相手の陣地から四つ葉のクローバー以上のクローバーを探して
ポイントを競い合うスポーツだって聞いたけど…。先生が検索した結果の画像を見ると…
「なんか違う…」
と呟いていた。授業は遊のおかげ?ということもあり丸々球技大会の話
いや、半分は先生の癖によって潰れた。
お昼の時間となり、女子陣は女子陣で、男子陣は男子陣で固まり
光はお昼ご飯を買いに教室を出て、遊もお昼ご飯を買いに教室を出た。
遊が光が教室を出るのを確認してすぐに後を追う。
「いやぁ〜先生の良い癖が出て助かったっすー」
「良い癖…悪い癖…ま、私らにとっては良い癖か。とにかくナイス」
「うっす」
眠たげな目で無表情っぽいがドヤ顔をする遊。
光がいつも通りコンビニでお昼ご飯を買い、遊も光が買ったものとまったく同じものを買ってコンビニを出る。
「あ、ちょっと買い忘れ」
と言って光がコンビニに戻る。ついて来ようとする遊に
「待て」
と光が言うと
「へっ」
犬が如く従順に待つ遊。
「おまたー」
コンビニから出てきた光と一緒に教室へ帰る遊。
「遊雉(ゆうち)はバニラと抹茶どっちが好き?」
「バニラと抹茶っすかー…。うぅ〜ん。バニラ?」
教室前についた2人。光はレジ袋に手を突っ込んで手のひらサイズのなにかを遊に投げた。
「うおっと」
キャッチする遊。それは
「お。B ä again Dash(バーゲン ダッシュ)」
だった。バニラ味。
「ほい。スプーン」
スプーンはなぜか手渡しする光。アイスの蓋の上にスプーンを置く。
「でもなぜに?」
光は教室に入りながら顔だけで振り向いて
「ご褒美」
と微笑んで美音と栗夢の待つ元へ歩いて行った。遊も司と助の元へ行き、イスに座る。
「お。B ä again Dash。どしたん?」
と尋ねる助に、愁を帯びた目でB ä again Dashを見つめ
「…今日から家宝にするんだ…」
と言う遊。
「家宝?」
「そ。一生神棚に飾っとく」
と言う遊に
「いや、水浸しになってハエ集って神棚の神様が迷惑するから
神棚に飾んないで冷凍庫に入れて早めに食べたほうがいい。というか今食べよ?」
と冷静に言う助。司は
こーくんがアイスは一生腐んないって言ってたから大丈夫だと思うけど…
と思っていたが口には出さずにいた。
「ひさしぶりに食べたけど抹茶うま」
と言う光に
「あ、私も買ってこようかな」
と言う栗夢に
「はい」
とあーんの要領でB ä again Dashの抹茶味のアイスを掬い差し出す光。照れながら食べる栗夢。
「んん!私もひさしぶりに食べたけど、やっぱり美味しい」
「ん」
B ä again Dashの抹茶味のアイスを掬い、あーんの要領で美音にも差し出す光。
「へ?」
「ん。美音はいらん?なら」
と引き上げようとするスプーンに照れながら口で迎えに行く美音。
「…。ま、美味しい…わね…。ありがとう」
「そういえばここ(白樺ノ森学院)限定の味何種類かあった」
「へぇ〜!そうなんですね!」
「今度みんなで食べる?」
「食べたい!ね!美音!」
「え、…えぇ。まあ、付き合ってあげるわ」
というような感じでお昼が終わった。







