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第七話:露見と嫉妬の炎

お凛の細い肢体が、僕の上で満足げに震えていた。

彼女の二股の尾は、僕の足首にだらしなく、しかし親密に絡みつき、その喉からは「ゴロゴロ」と、極上の蜜を吸い尽くした獣特有の至福の鳴き声が漏れている。僕の胸元に顔を埋め、溢れ出た霊力の残滓を惜しむように何度も舐めとる彼女の姿は、まさに禁じられた味を知ってしまった泥棒猫そのものだった。

部屋には、猫特有の甘く生々しい獣臭さと、僕の中から引きずり出された霊力の残香が、澱(よど)みのように溜まっている。

だが、その背徳的な幸福感は、音もなく開かれた障子の先にある「絶望」によって、一瞬にして凍りついた。

「……おや。随分と、楽しそうではないか」

低く、地を這うような声。

それは鈴の音のように澄んでいながら、万物を瞬時に凍らせる魔力と、すべてを無に帰す業火を同時に孕んでいた。

「ひっ……!? あ、あ、あぁ……っ!」

お凛の身体が、まるで熱湯を浴びせられたかのように跳ねた。彼女は僕の上から転げ落ちるように退くと、畳に額をこれでもかと擦りつけ、丸まった背中をガタガタと震わせ始めた。その姿は、先ほどまでの奔放な女の顔を捨て、ただ死を待つ哀れな小動物に成り下がっている。

「た、玉藻様……! これは、あの、その……若旦那の霊力が、あまりに溢れそうで、苦しそうだったので……お凛が、不浄を掃除しようと……っ!」

「……掃除、か。妾の許しなく、妾の『つがい』にその卑しい舌を這わせることが、この宿では掃除と申すか。お凛……お主、いつからそんなに偉くなったのじゃ?」

ゆっくりと、朱色の着物の裾を引いて玉藻が部屋に足を踏み入れる。

一歩。また一歩。

彼女が歩くたび、畳がミシリと悲鳴を上げ、部屋の空気が物理的な圧力となって僕たちの肺を圧迫する。

彼女の背後では、九本の白い尾が、まるで怒れる大蛇の群れのように逆立ち、天井を突き破らんばかりに広がっていた。その瞳は黄金色を通り越し、血のように、あるいは燃え盛る火山の火口のように、紅く、昏く、光っている。

「小癪な。……猫の分際で、妾の持ち物に手を出した報い、その身でじっくりと味わうがよい」

玉藻が手に持っていた扇を、一瞥もせず横にひと振りした。

その瞬間、お凛の身体が目に見えない衝撃波に打たれ、部屋の隅まで吹き飛ばされた。

「ぎゃんっ!」という短い悲鳴。お凛は壁に叩きつけられ、そのまま床に崩れ落ちる。彼女の周囲には、玉藻の妖力が青白い狐火となって渦巻き、逃げ場を完全に塞いでいた。

「玉藻……待ってくれ、彼女は僕を助けようと……」

僕が思わず、彼女を庇おうと声を上げた。

だが、玉藻の冷徹な視線が僕を射抜いた瞬間、心臓が握り潰されたような感覚に陥り、言葉が喉の奥に引っ込んだ。

「お主もじゃ、迷い子よ。……妾があれほど、他の女に触れさせるなと説いたのに。……お主のその角、その肌。もう別の女の、卑しい匂いが染み付いておるぞ。なんとも、嘆かわしいことじゃ」

玉藻は僕の元へ歩み寄ると、膝をついて僕をのぞき込んだ。

その顔は、月の光を浴びた名刀のように、恐ろしいほどに美しい。だが、その微笑みは、裏切りを何よりも忌み嫌う絶対的な捕食者のものだった。

「……お主には、少々厳しすぎるほどの『教え』が必要なようじゃな。お主の身体に染み付いた泥棒猫の匂い……妾が、骨の髄まで、魂の芯まで、焼き払って進ぜよう」

彼女は僕の顎を、指が食い込むほどの強さで掬い上げた。

そして、逃げ場のない僕の唇を、激しく、貪り食うように奪った。

「あ、……っ、あぁああ……!」

先ほどのお凛のそれとは比較にならない、圧倒的なまでの妖力の奔流。

彼女は僕の角を、まるで根元から引き抜かんばかりの力で掴む。

角から脳へと、焼火箸を突き立てられたような激しい熱と、それ以上の、魂が消滅しかけるほどの狂おしい快感が押し寄せる。

玉藻は荒々しく自らの衣を剥ぎ取ると、僕の上に跨った。

彼女の白い肌は怒りと興奮で微かに赤らみ、九本の尾が部屋全体を檻のように包囲する。

「泥棒猫に汚された場所に、妾の印を上書きしてやる。……お主の中に一滴たりとも、あのような端女の気配を残してなるものか」

彼女は僕を強引に自分の中へと迎え入れた。

その瞬間、身体の芯まで突き抜けるような、昨夜以上の強烈な熱。

玉藻の奥底は、怒りに呼応するかのように激しく僕を締め上げ、内側に溜まった霊力を文字通り「搾り取る」ように吸い上げていく。

「あ、ぐ……っ、玉藻……っ!」

「声を上げよ! 妾の名を呼べ! お主を愛で、生かし、壊してやれるのは妾だけなのじゃ。……お主のすべては、妾が注いだ精と、妾へ捧げる霊力だけで満たされていればよい!」

玉藻の腰使いは、慈しむような昨夜とは一変し、僕の自我を破壊せんばかりに激しく、執拗だった。

結合部から火花が散るような感覚。僕の中の霊力は、彼女の強大な妖力に引きずり出され、渦を巻いて彼女の中へと消えていく。

それはもはや「まぐわい」というよりは、命の源を奪い合う儀式だった。

お凛が奪った霊力など、端からなかったかのように。

玉藻は僕の中に溜まった「泉」を、力ずくで、そして最後の一滴まで絞り上げようとしていた。

「逃がさぬ。一歩も、一片も、妾の外へは逃がさぬぞ。……お主が誰のものか、その魂の根源に、妾の爪跡を一生消えぬほど深く刻んでやるわ。お主は一生、この宿で、妾の愛に焼かれ続ける運命なのじゃ」

玉藻の九つの尾が、僕とお凛、そしてこの部屋全体を覆い隠すように、朱に染まった闇となって広がっていく。

それは慈悲深い愛などではない。支配と執着、あるいは永遠の独占という名の、逃げ場のない悦楽の地獄。

僕は、怒りに燃える女狐の腕の中で、自らの意識が玉藻という巨大な存在に完全に溶かされ、彼女の一部へと書き換えられていくのを、抗うこともできずに受け入れるしかなかった。

激しく揺れる視界の端で、絶頂を迎えた玉藻の瞳が、狂気と愛に満ちて爛々と輝くのを見た。

僕の身体はガクガクと震え、意識が暗転する直前まで、彼女の圧倒的な存在感に塗り潰され続けていた。

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