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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「朝ご飯、お弁当とほとんど同じおかずだけど、もう食べられるから座ってて!」

と、コンロに向かって、お味噌汁が入っている鍋に火を点けたその時だった。

突然、後ろから抱き締められた。

え、え…?

やだ…不意打ちだよ…蒼…っ。

「ごめん。俺もう、我慢の限界」

「……」

「朝会った時から…ずっとこうしたくてたまんなかった。でもおまえ、なんか緊張しているみたいだったから」

「き…緊張なんかしてない」

「うそつき」

私の強がりなんかお見通しだって感じで、蒼は小さく笑った。

「……」

大当たりだから、なんにも言えない私…。

「でもわかる。緊張するよな。俺だっておんなじ」

蒼が…?

「だってずっと抱えてた片想いが叶ったんだからな。昨日ずっとおまえに看病してもらってた時も、夢みたいだなって全然実感わかなかった。でも、さ」

ぎゅう

と抱きしめる力が強くなる。

「俺たちもうカレカノなんだよな…」

『万感の想い』って…こういう感じの時に使うのかな…。

そう吐息まじりにつぶやいた蒼の声は、本当に幸せそうにしっとりと私の胸に染み入って、ほんのりと温かさをあたえる。

そうだよ…。

私、カノジョだよ。

蒼のたったひとりのカノジョだよ…。

「昨日はほとんど話もできなかったから、ある意味、今日が交際一日目、って感じだな…」

「ん…」

「今日からよろしくな、蓮。絶対に大事にするから。絶対…」

ぎゅうと強く抱き締められて、そっと囁かれれば、

胸が、きゅうっと痛くなって、ドクドクと鼓動が早くなる…。

でも、この苦しさは、全然嫌じゃない。

だって、あまい幸せが、はちきれんばかりに胸をいっぱいにしているだけだから。

こんな気持ち、今まで感じたことなかった。

不思議だな。

人を好きになるって、なんだかとっても不思議。

けれども…

それとは別に、胸にはひとつの不安があった。

鍋の火を止めると、私は蒼に振り返っておずおずと見上げた。

「ね、もしかして学校でもカレカノでいなきゃだめ…?」

「あたりまえだろ。なにか不都合でもあるのか?」

「あ、ありまくりだよ…!」

「はぁ?」

蒼は信じられないことを聞いたとばかりに、形のいい眉をしかめさせた。

「だって、蒼は女の子にめちゃくちゃ人気あるんだよ?知らないの?校内一って言われてるんだよ??その蒼のカノジョに私がなったなんて知られたら…」

「ああ、よくある嫉妬ってやつ?くっだらね。そんなの最初の内だけだって。…てか、俺だって同じ立場なんだけ」

「え、なに?」

「独り言だ。…とにかく気にするな。もしつまんねーことされたら、大勢いる前で堂々と言ってやるよ。『俺は蓮しか見てねぇ。くだらねぇ嫉妬するやつは邪魔だ』ってな」

「そ、そんなのダメっ」

あまりのこそばゆい発言に、私は思わず声を上げた。

「だ、だって…そんなことしたら、なおさら冷やかされるじゃない…。今までただの幼なじみって言ってたのに…やっぱりそういう関係だったんじゃない、って」

「え、だから?別にいいだろ。ホントのことだし」

「でも…なんか…」

私は顔を真っ赤にさせながら、蒼の制服のネクタイをいたずらに引っ張った。

「なんか?」

「なんか…は、恥ずかしいんだもん…」

「……」

呆気にとられたように黙ると、蒼は大袈裟なくらい大きく溜息をついた。

「っとおまえって、ガキ」

「な…っ!!」

「ムカつくからクソつけてやる。クソガキ」

「ク、クソガキ…!?」

なんで同い年の蒼にそんなこと言われなきゃならないのよッ、と噛みつこうとしたけど、

憤る私をなだめるように、手が優しく頭を撫でた。

「でもま、しょうがないよな。蓮にしてみれば、俺が『初めてのカレシ』なんだし」

そして、ふっと笑う。

大人びた穏やかな表情で。

「いいよ、内緒で。でもしばらくの間だけだし、学校以外の時は別だからな」

そんな余裕ある態度に胸がこそばゆくなるのを感じながら、私はとんと蒼の肩に額をあてた。

「…ありがと…」

「ん。じゃ、キス」

「え?」

「おまえのワガママきいてやった、ご褒美のキス」

「ワ…」

ワガママじゃないもん…!

という否定は最後まで訴えることはできなかった。

掠めるようにキスされて、頭が真っ白になってしまったから。

我に返ったのは、蒼がニッと人の悪い笑みを浮かべた時だった。

「そろそろ慣れたら?もう何回も俺にキスされただろー」

「な、何回も、って、全部勝手にしてきたキスだよ…!もう…っ、勝手にキスするの禁止…っ」

「それは絶対無理。おまえ、可愛いから」

かぁあああ

と顔が熱くなる。、

「『可愛い』ってからかうのも禁止…!」

「それも無理。てか、からかってない。クールなんて勝手にいうヤツいるけど、俺けっこう思ったことはすぐに口に出したいヤツだから」

「…」

ショートしたみたいに言葉を失っている私から離れてキッチンチェアに腰かけると、蒼はにっこりと綺麗な笑顔を向けた。

「ほら、もたもたしてると遅刻するぞ。お付き合い一日目。記念すべき、初の一緒ご飯。早く食お?」

もう完璧に小さい頃と立場が逆転しちゃった感が…。

こうして。

お付き合い一日目は、蒼に完全にペースをつかまれてスタートしたのだった。

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