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「あっ、佐伯先輩!」 朝倉くんの代わりに、デートの下見でもしてやりましょうかと街に出たら、偶然ミキちゃんと出会った。
いや、正確には後藤兄妹。駆け寄ってくるミキちゃんの後ろから、彼女の兄、後藤ケンジロウが、ゆっくりとこっちに歩いてくる。
こうやって並べて見ると、ちゃんと兄妹って分かるなぁ。顔もちゃんと似てる、そう思うと、後藤ケンジロウも割とイケメンだな。
髪型次第では、ガールズサイドで攻略対象やれるんじゃないかな。それは流石に言い過ぎかな。
「おや、ご兄妹で、仲のよい事でございますね」
「ハイ! 映画を見に行きたいって言ったら、連れてってやるって言ってくれたんです」
あら、意外と家族思い。そういえば、この前はわざわざ清桜高校まで妹を迎えに来てたし、根は良い奴なのかも。
「後藤くんは、妹想いな方なのですね。素敵だと思いますよ」
私は素直に褒めたつもりだったけど、後藤ケンジロウは微妙な顔をしている。まあ、秘密を握ってる相手が、やたらと褒めてきたら、何か裏が無いかと警戒するのは無理もないか。
「お……おう、大切な家族だからな」
後藤ケンジロウは、私から目を逸らしながら、頭をガリガリ掻いた。
嬉しさ照れと警戒と、どこに感情を振ったらいいか分からないという心境が、透けて見える。
うーむ、ガッツリ脅しをかけたのは、あの場では仕方無かったけど、わだかまりが残るのは、あんまり気持ちの良いものではないなぁ。
「後藤くん、ちょっといいですか。内密にお話したいことが」
「お……、おう?」
内密と聞いて、後藤ケンジロウはますます警戒を強める。
まあ、そうだよね。自分の生き恥を握ってる人間が、内密の話なんて言い出したら、警戒しない方がおかしい。
「あ、ミキさん。少しの間、離れていてくれますか。二人だけでお話がしたいのです」
「あ、分かりました! ボク、あっちで待ってますね!」
ミキちゃんは、素直に私たちから離れて、自販機横のベンチに座って、景色を眺め始めた。別に、目線を向けるなとは言ってないんだけど、そこまで律儀に待ってくれなくてもいいのに。
「それで、話ってなんだよ……」
ミキちゃんが遠くに行くと同時に、後藤ケンジロウは早速話題を切り出した。
私は、後藤ケンジロウの肩に腕を回して、小声でも聞こえる距離まで寄せてから、ひそひそ話を始める。
「はい、その事なのですが、あの時言いかけた、中学二年の___
私がそこまで言うと、後藤ケンジロウはあからさまに動揺した。肩に回した腕に、動揺と緊張が伝わってくる。
___時の話。後藤くんがこれから、真面目に生きると約束してくれるなら、永遠に封印すると約束しようと、そういう提案をしたいのです」
全部言い終わると、後藤ケンジロウの身体から、露骨に力が抜けた。
どっちかと言うと、拍子抜けしたって言った方が、正しいかもしれない。
「ど……どういう風の吹き回しだよ」
うーむ、すんごい警戒されてる。思いっきりぶっ刺したから、怖がられるのも致し方なくはあるのだけど、あのヤンキーがここまでビビるなんて、ちょっと申し訳なくなってきちゃう。
「単純に、わだかまりを残しておきたくないと、そう思っただけでございます。
あの場でした事は、ケンカを収めるために仕方無かった事、故に、ケンカが収まれば、秘密を握っておく必要も無い。とまあ、かくの如き次第で」
「ほ……本当かよ。いや、そうしてくれるならありがてぇけどよ」
まだまだ、警戒心は解けないみたいだ。まあ、そんなすぐには無理だよね、私も急に全部忘れてくれとは言えないし。
「ミキさんと、仲良くしていく上で、そのお兄さんと険悪な関係なのは、心苦しいですしね」
「そうか………、ありがとよ」
腕に伝わる緊張感が、少しだけ緩んだ気がした。完全に緩和はしてないけど、それでも、少しだけ警戒を解いてくれたみたい。
ありがとよの言葉には、自分の秘密を守ってくれる約束に対してだけじゃなくて、妹と仲良くしてくれてありがとう、という意味合いもあるように聴こえた。
「ただし、もう不良には戻らないという条件付きですよ? また、無闇にケンカを売ったりしたら、私は容赦しませんので」
********
後藤兄妹は、清々しい顔で映画館へと向かって行った。
はー、良かった良かった。全部丸く収まったし、秘密を握っておく必要も無くなった。
しかし後藤ケンジロウ、間近で見るとますますイケメンだったな。
もったいないなー、ガールズサイドに出てくれてたなら、攻略したのに。
#R15
(株)姫神V
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