つぼ浦の食事や運動面での支えで青井は体力を取り戻していき、青井の精神的支えでつぼ浦は持ち前の明るさを取り戻していった。今日は新しい腕時計を買いに行こうと久々に出かける事にした。
「準備できたー?」
「おー…あーアオセン…今日暑くなるって言ってたぞ、あの7分丈のシャツのほうが良いんじゃね?」
「そうなの?でも夜は冷えるだろ。」
「先月だっけ?買った黒い上着持ってけば?」
「あーあれか、じゃあちょっと着替えてくる。」
稀に流石にそれは…となるファッションセンスの青井に傷付けないよう、さり気なくアドバイスをする。つぼ浦はいつものアロハシャツにビーチサンダルを履いて玄関で待っていた。
「よし行くかー。…うっわーすごい良い天気。」
「今日は俺が運転するからな。」
「え、なんでよ。俺がするよ。」
「ダメ、アオセンまだ万全じゃねーだろ。」
「それ自分にブーメラン刺さってない?よしじゃあジャンケンしよ。」
勝ったつぼ浦が煽りながら出した車に渋々乗り、時計店に向かった。
「えーとあれは……あ、あった!!これだ!」
「前と同じので良いの?他にも何種類かあるけど。ほらこっちのとかつぼ浦好きそうな色じゃん。」
「これが良いに決まってる、アオセンが悩みに悩んで決めた逸品だぞ!」
「…そっか、ありがとね。すぐ着けるようにしてもらお。すいませーん。」
早々に会計を終わらせて外に出た途端近くのベンチに急ぎ、時計を着けた青井の腕を持ち自分の腕と並べ瞳を輝かせてニコニコ笑うつぼ浦。そうだ、と小声で呟きスマホを構えた。
「腕だけ撮るの?顔写したのも撮ろうよ。」
「自撮りムズいんだよな、こうやって…」
「もっとくっつくか、これでどう?」
「お、いい感じ…よしどうだ?」
満足いく写真が撮れたら嬉しそうに息を漏らす。同じ物だと事件の事を思い出してしまうかも、と心配していたのは杞憂に終わった。
「この後どうする?」
「んー奇肉屋やってんのかな、ガチャしてぇ。」
「じゃあ適当にぶらつくかー。」
飲食店を周ったりゆっくり散歩したり青井の運転の練習に付き合ったり。楽しんでいたが途中から青井の言動がなんとなーくぎこちない。
「ね、あのさ…」
「んーなんだ?」
「行きたい所あるんだけど…」
「おぉピンくれ。…そこ何屋だっけ?」
ちよっとね、とはぐらかされながら着いたのは宝石店だった。
「ふーん、アクセサリー買うのか?」
「えっとつぼ浦さ、ペアリングとか興味ある…?」
「ペアリング?…てなんだっけ。」
「お揃いの指輪、買わない?」
「お揃いの指輪!?めちゃくちゃ良いじゃねーか!」
青井にとっては中々の重大イベントのつもりで誘うとつぼ浦はノリノリで店内を見て周った。と思ったら品物を決めてサイズを測って、と進めていく内に今度はつぼ浦のほうが緊張したような表情に変わっていった。なんとも言えない独特の雰囲気が車内に漂っている。
「やっぱり毎日着けるってなるとシンプルなのに落ち着いたな。…つぼ浦?」
「……あ、アオセン…これって……その、結婚指輪…なのか?」
「結婚!?あー、えっと…つぼ浦はどう思う?」
「だって、左手の薬指って…そういう事じゃ…」
「…ちょっと真面目な話しようか。つぼ浦は結婚したいなとか、思ったりする?」
「え、分からん。考えた事無かった…結婚したらなんか変わんのか?」
「んー、正直この街では今とあんま変わんないと思う。あとはする理由で言われるのはより絆が深まる…とか?」
「絆が深まる?結婚したら急に?」
「まぁ気の持ちようが変わる的な?でもそういう疑問が出てくるって事は俺達には別に必要無いんじゃないかな。」
「アオセンはそれで良いのか?」
「俺はぶっちゃけどっちでも良い、どんな形でもつぼ浦と過ごせるならなんでも。」
そう言いながらある決心をした青井。暫く悩んでつぼ浦をヘリ練習に誘い、あのビルの屋上まで一直線に向かった。
「練習いるのか?全然平気じゃねーか。」
「いやー実際現場で今まで通りできるかって言われたら不安だな。…ここで写真撮ったら綺麗なんじゃない?」
これはどうだ、あれはどうだとポーズやアングルを提案する内に自然と指輪を外してケースに戻す事に成功した。ひとしきりはしゃいで落ち着くと青井が大きく深呼吸をして真剣な表情でつぼ浦のほうを向く。
「つぼ浦こっち向いて…よし…えー、これプロポーズね。ふぅ……愛してるよ、つぼ浦。これからもずっと、一生一緒にいてほしい。これからの人生をつぼ浦と一緒に歩みたい。」
言いながらつぼ浦の手を取り指輪をはめて、そこにキスをした。
「え、あ!?ぁ、えっと、その………手貸して…ぉ、俺も…あい、してる…アオセン……俺が、幸せ…に、するから…」
真っ赤になりながらカタコトで想いを告げて青井と同じように指輪をはめ、震えながら唇を押し付ける。
「ありがとう、大好き。俺今幸せの最高潮にいるんだけど、もっと幸せにしてくれるの?」
「ま、任せろ…俺が、アオセンを…世界一幸せにしてやる。」
「…それは無理かも、だって俺がつぼ浦を世界一幸せにするもん。」
「ぃ、いーや?俺がするし!残念だったな、諦めるしかねぇ。」
「それは困った、勝てないかぁ…つぼ浦。」
頬に手を添えて優しい眼差しで見つめるとつぼ浦は小さく頷いて目を閉じる。そっと、大切に口付けてから想いを全部乗せて抱き締めた。
コメント
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うぅ…いい話しすぎるよォ……私も幸せな気持ちになるぅ…泣