俺は今まで、怒りと憎しみ、絶望と共に生きてきた。
母とあかりを喪って絶望し、不甲斐ない父に怒り、怜香への憎しみを育て続けた。
人を好きになりかけた事は何回かあったが、その想いが叶った事はない。
三十二歳になってなお、俺は真の意味で人を愛する事を知らないガキのままだ。
母とあかりの死の真相を知って人生の目標を復讐に定めたが、復讐を果たしたあとはどうする?
この憎しみは、一生引きずっていくだろう。
だが怜香を断罪したあとも、あの女を憎みながら生きていくのか?
――そんなの嫌だ。
俺だって人並みの幸せが欲しい。
人を愛し、愛されて恋人になり、愛のあるセックスをして、結婚して子供を授かりたい。
母とあかりが遺せなかったものをなし得たいし、『生まれて良かった』と思えるようになりたい。
妻に愛され、子供に頼られ、理想的な家庭を築きたい。
――だから、恋をする覚悟を決めた。
一世一代の恋だ。
俺を嫌っている朱里に受け入れてもらえるかは分からない。恐らく、とても難しいだろう。
実は命の恩人である〝忍〟だった……という切り札を使えば簡単かもしれないが、俺は〝速水尊〟を好きになってほしい。
俺は朱里の思い出に残る〝格好いいお兄ちゃん〟ではない。
汚い事もするし、ずっと朱里を見守ってきたストーカーだ。
ちょっと金は持ってるが、性格は悪いし家庭環境も最悪、クソ重たい過去を持つSランクの訳ありだ。
それでも、もし朱里が俺を好きになってくれるなら、彼女にすべてを捧げたい。
俺は性経験はあっても、恋愛はど下手くそだ。
やり方を間違えるかもしれないし、今以上に嫌われるかもしれない。
でも可能な限り誠実に接し、想いを伝えていきたい。
朱里にフラれたとしても、俺はずっと彼女を想い続けるだろう。
十二年見守り続けた朱里以上、好きになれる女性なんてきっと現れない。
『……ははっ、すげぇクソデカ感情だな』
俺は乾いた声で自嘲する。
『まだ田村を想ってるあいつが俺に応えてくれるかは分からない。でも悠長に待ってたら、他の男に盗られるかもしれない。その前に俺が朱里の〝次の男〟になりたい。……正直、どう迫ればいいか分からないし、成功する確率も低いだろう。……でも、あいつを大切にしたい気持ちは誰にも負けない。……頑張ってみる。……だから、二人も見守っていてくれ』
俺は決意表明をしたあと立ち上がり、新しい道を歩む気持ちで踵を返す。
(『俺のほうがずっと大切にできる』と教えたいけど、どうやったら聞いてくれるかな)
未来への希望を抱きながら帰路についたが――、それをせせら笑うように、マンションのロビーには悪魔――怜香が待っていた。
**
『遅かったじゃない』
マンションに戻ってロビーに入った途端、聞きたくない声が耳に入り、俺はギクリとして足を止める。
十歳の頃から植え付けられたトラウマなのか、いまだに怜香の声を聞くと心臓をギュッと握られたような感覚に陥る。
怜香にはマンションに来ないでほしいと言い、コンシェルジュにも通さないでほしいと伝えているのに、こいつは篠宮ホールディングスの社長夫人である事と、俺の母である事をふりかざして中に入る。
本当は俺の顔なんて見たくもないはずなのに、気が向いていびりたくなったらわざわざ三田まで足を向けるのだ。
『……何かご用ですか?』
俺は足を止め、緊張して尋ねる。
――まさか、朱里の事がバレたわけじゃないだろうな?
恋人になれたら家族に報告するつもりだが、結果を出せていない今はまずい。
コツコツとヒールの音を響かせて近づいてきた怜香は、少し離れた所に立って冷笑した。
『世間はもうクリスマスムードなのに、いまだに独り者なの?』
俺は煽られてムッとしながらも、冷静に切り返した。
『あなたが相手を用意すると言ったんじゃないですか』
『そうね。……じゃあ、風磨の秘書の丸木さんとでも結婚したら? そうなさい』
『は?』
予想外の事を言われ、俺は声を上げる。
丸木エミリは風磨の恋人だ。
実家を出てからたまに風磨と外食するようになり、その時にエミリも同席する事があった。
コメント
3件
↓本当だね~.早くこの継母を何とかしないと.... 尊さんだけでなく実の息子まで不幸にさせようとしていて、怒りしかない!😤(怒) 風磨さん達と結束して、早くこの悪魔を退治しよう!!!
うー、ムカつく💢(。・ˇ_ˇ・。)怜香💢💢
朱里ちゃんの名前じゃなくてよかったよね。とりあえずこの鬼畜を堕とそう!その前に風磨さんと話さないとね。絶対に味方になってくれるよ!