コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
〜注意事項〜
私と妹と一緒に作っている為、ところどころ語彙力&文章力が変わる可能性があります。
似たようなお話が別にあるかもしれません。もしあったらすみません。
〜桐山零の設定(原作と違う物のみ)〜
身長 160cm
体重 45kg
段位 七段
クラス B1
喘息持ち。
〜スタート〜(三人称視点)
盤の向こう側、誰もいなくなった座布団に視線を落とすと、零は人知れず…少し深いため息をついた。
…パチ……パチ……
すぐ隣では、三角と松本が静かな戦いが繰り広げられている。その駒音を聞きながら窓に目を向けると、外は薄暗くなりかけていた。
昼と夜の境目。不明瞭な空の色。赤色を残しつつも姿を隠そうとしている夕日に、零は今朝見た夢を思い出す。
とても暖かい…けれどもう二度と訪れる事の無いその光景が、脳裏に残っている。ズキリ…と胸の奥が疼いた。
どうもこの時期はいけない…。世の中の雰囲気も、夏から秋に変わろうとする季節も、何もかも…何故か少し暗い影を持っている。
そろそろ帰ろう。
零は膝を立ててゆっくり立ち上がる。その途中で頭から血の気が引いて行く感覚がした。
あ…また……。
最近よく起こる立ち眩みの様なもの。しかし特に気にしなければ、それは静かに消え去っていくことを零はしっていた。
立ち上がってすぐ視界の端からジワジワと黒色が迫る。
…あれ……?
戻らない視界。黒に包まれた景色がぐにゃりと捻れた。周囲の音がフッと聞こえなくなり、ある一定の音だけが危険を知らせる警告音のように頭に響く。そこで初めて歩き出した筈の体がバランスを保てていない事に気がついた。
…あ……やば……
パチリ…と小さな駒と盤が触れ合う音が聞こえるほど静粛に包まれているその部屋で…
ドサ……
似つかわしくない音が響いた
ざわざわ…
聴覚が正常に戻り、周囲の音を拾い出す。そしてじわじわと目の前を覆っていた黒色が晴れ、視界が元に戻った。最初に目に入ったのは濃い緑の畳の縁と誰かの靴下。そして、零は自分の体が畳の上にあるのだと理解した。
「…!おい!」
「どうした…?」
「桐山?!」
「大丈夫か?桐山…」
周囲のざわめき。この空間で明らかに零は注目を集めてしまっている。
え………
………?
ヤバイ…まだ対局中の人もいるのに…
立たなきゃ…
零は畳に腕を突っ張り、なんとか体を起こした。しかし俯いたまま動くことが出来ない。起こした体が重たい。自分の鼓動がやけに大きく感じる。髪の毛に隠れた額に汗をかいているのが分かった。サラサラとした、まるで水のような汗…。ポタ…ポタ…とそれは重力に従うまま、畳へと落下していく。
…あれ……なんか…
なんかおかしい…
「桐山…汗が…」
「無理に起きない方がいいんじゃない…?」
「どしたの?貧血?」
「誰か呼んできて!早く!」
少し足がもつれただけ…
少しバランスを崩しただけ…
何か言わないと…
大丈夫だと言わないと…
いろいろな言葉が頭の中を巡るが、どれも口からは出てこない。それは荒い呼吸に変換されてしまう。
…何…コレ……
またジワリと視界がおかしくなりだしてきている。畳に突っ張っている腕がだんだんと怠くなってきた。
…ヤバイ…気持ち悪い………
「桐山、一旦ここに横になろう。な?」
誰かが近くでそう言葉を発した。落ち着いた低音の声…。そっと方を触れられると優しくその場に横になる様促される。
零は反対する気力もなく、促されるまま…その場にぐたり、と横になった。
冷や汗をびっしょとかいた額。蒼白な顔色。少し苦しそうな呼吸…
その場にいた誰もが零の体が正常では無いことが分かった。
「ヤバイ…顔が真っ青だ」
「足をあげよう。座布団持ってきて」
「汗が…誰かタオル」
零は異常な程の吐き気に襲われた。すぐ、吐いたらまずいと思い口に手を当て堪えた。が、逆に心配させてしまった
「吐きそうなのか?」
「誰か袋持ってないー?」
自分の身に起こっている事が把握できなかった。
吐き気が増してきた。ぐっ、と堪えるが堪えきれず吐いてしまった
「何?!桐山が倒れたって?」
「あ!会長…」
「対局中か?」
「いえ、対局が終わった後です。今、救護室に…。」
「さすがに1人で帰す訳には行かんな。迎えに来てもらわんと…幸田に連絡はしたか?」
「あ…いえ。まだです。」
「じゃ、連絡してこい。それまではどうすっかなぁ…」
「俺が面倒見ますよ。」
「おぉ!島田!」
「島田8段、いいんですか? 」
「桐山には獅子王戦の時世話になりましたし。」
「任せてもいいか?」
「はい。」
「でも…お前、看病疲れして自分が倒れちゃいそうだな!はっはっはっ!」
「ちょっ…会長!そんなこと言っちゃ!」
「………そこまで柔じゃないです………」
零は救護室のベッドにぐたり、と体を横たえていた。体は気怠く、頭が重たい。自分の体調不良には倒れてから気がついた。
人前で倒れただなんて…川本家の人々には知られたくない。絶対に。零は両腕で顔を覆うとはぁ、とため息をついた。
きつい…
眠りたい…
…でも、眠ってしまったら…きっとまたあの夢を見る………
零は最近、昔の夢を見ていた。まるで、幼い頃の記憶の蓋が開いてしまったみたいだ。
もう治ったと思っていた傷が、ズキリと疼いて主張する。あとを引くように余韻を残していくその痛みは…酷く寂しくて…辛い。
「きついのか?」
不意に声が聞こえた。落ち着いた低音の声…。零はハッとして顔を覆っていた腕をずらすと、島田が零の顔を覗き込んでいた。
島田がここにいる事に少々驚きつつ、、「…いえ、、大分…マシです…」と答えた。島田は「心配したぞ、全く。」と言いながらため息をついた。
「今日は俺ん家で泊まるか幸田ん所に行けよ。会長命令だから。」
「え…そんな、大丈夫です…帰れます…」
「何言ってんだお前、さっき倒れて顔が真っ青になって吐いた癖に。」
と言って呆れたような表情になった。
「体調でも崩してたのか?」
「あ…いえ、特にそういう訳では…。なんて言うか、さっき気がついた…って言うか…………」
零はごにょごにょと言葉を濁した
「もうちょいで俺の用事が終わるから、それまで少し寝てろ…」
そう言い残すと島田は救護室を出ていった
零は島田の背中を見送ると、はぁ…とため息をついた。そっと目を閉じる。
体がきつい…
少しだけ…休もう。
「桐山〜大丈夫か?」
三角が顔をのぞかせる。島田は三角の方に顔を向けると、唇に人差し指を立てた。
「あ、寝てます?」
「桐山、体調崩してたんですか?」
「本人曰く倒れてから気がついたんだとか」
そう答えた。が少し考え、「でも…」と言葉を続けた
「目の下の隈を見る限り、あんまり眠れてなかったのかもな。」
そう言うとまだ顔色の悪い零の方を見つめた。
「倒れた時はマジでビビりましたよ…」
「よく寝てるから起こしたくないんだけど……そろそろタクシー来ちゃうかな…」
「島田さん…お持ち帰りで?」
「病院経由のな」
「島田さん、看病疲れして倒れないで下さいよ?」
「俺はそこまで柔じゃねーよ」
あれ?これさっきも言わなかったっけ?と思いつつも病院経由で帰った。
夜中
島田は零の寝ている部屋をそっと覗いた。零の目から、静かに、静かに…涙が溢れては零れ落ちていく。
驚いた島田は零の顔を覗き込むが、どうやらまだ眠っているようだった。起こすかどうか少し悩むが…先に零の額に手を当てる。
掌に伝わる熱。さっきから熱が上がったまま下がらない。体が辛くて泣いているのか…それとも…泣きたくなるほどの夢を見ているのか…。どちらにしても零を起こして解熱剤を飲ませた方が良さそうだ。
「桐山。」
「………………ん…」
「大丈夫か?…きついか?」
「…ぇ……ぁ……」
涙が頬を伝っている。零は自分がないていたことに気がついた。ゴシゴシと手の甲で涙を拭い、消え入るような声で「すみません…」と呟いた。
「さっきから熱が下がってない。病院で出してもらった解熱剤飲もう。体起こせる?」
「…はい……」
キツそうな表情。緩慢な動作。島田は零が体を起こすのを手伝う。
零はなんとか起き上がると、島田から薬と水の入ったコップを受け取った。錠剤を口に入れると、水で喉の奥へと押し込む
「怖い夢でも見たか?」
島田は零に涙の理由をそれとなく聞いてみた。
「……いえ…怖くは無いです…でも……」
…と言いかけて零は口を噤んだ。先程の夢が零の脳裏に残っている。
家族で、特別でもない時間を過している夢…夢の途中で、零は「あぁ…これは夢だ…」と気がつく。そしてもう二度と、この大好きだった家族が、優しい時間が…戻らないという事に気がつくのだ。
島田はぼんやりと一点を見つめ動かなくなった零に、「桐山?」と声をかける。
零はハッとして「すみません…少し懐かしい夢だったので…」とポツリと呟いた。
「懐かしい」と言う単語と先程の涙。
それが一体何を意味するのか…島田はある程度察することが出来た。零の生い立ちはそれとなく知っている。
なんて考えていた島田だったが、その直後いきなり零の顔色が悪くなり、零は口に手を当てた。
島田はすぐに今袋持ってくるから待ってろ、と優しく言った。
数分後
「暖かい茶でも飲むか?」
島田は立ち上がりながら言う。零は島田を見上げて「ぁ……はい……」と答えた。
島田が淹れた暖かいお茶を、ゆっくり時間をかけて飲んだ零は、また布団に横になっていた。
薬も効いてきたのか、いささか体が楽になっている様な気がした。
そっと目を閉じると、すぐにまた睡魔が襲ってきた。
明け方。
島田が零の様子を見にいくと、また目尻に涙が溜まっていた。
また夢を見ているのだろうか……泣くほど辛く、悲しい夢を…。
島田はその眠りから零を引き上げようとして…やめた。「……違う。」そう思った。
もう戻る事のない時間を、景色を、その大切な人達の温もりを…夢の中で感じているのだろう。だから、こんなにも静かに泣いている。
せめて…夢の中だけでも…。
島田はそっと零の髪を撫でた。
朝。
「桐山ー!やっと起きたか!心配したぞ!」
「二階堂⁈なんで…」
「あ〜…すまん桐山。今日、坊呼んでるの忘れてた…。坊、桐山はまだ熱あんだから、あんま…」
刺激するなよ…と続けたかった言葉は、二人の大声でかき消された。
二階堂と言い合う零の姿を見て、島田は「あぁ…もう大丈夫だ…」と、そう思った。
きっと今までも、どうにかこうにか…自分の過去と、折り合いをつけて来たのだろう。しかし、人の心を救えるのは、やはり同じ人の心だ。
島田は胃のあたりを手でさすると、一人…ふっと笑みをこぼした。
終