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今から数年前、オレには母親が “いた”
過去形なのは今はもういないから。
「お前のゴミ場荒らしはラムによく似てるな」
「母ちゃんもやってたのか?」
「ああ。忍び込んでは大量に持ち帰って直して売って、金銭を稼いでいたぞ」
オレは母ちゃんの顔をよく覚えていない。
写真でしか見たことないから。
「陽だまりのような女性《ひと》だったよ」
「陽だまり…?」
そう話すレグトの瞳は悲しそうな顔をしていた。
「似て欲しくないところも似ちまったもんだよ全く」
「……」
『ルド、これはこうやって直すんだぞ』
記憶の中にある母親の声は低音で安心できる声でそれでもって優しかった。
「ラムが死んでもう何年になるか…」
「母ちゃんは殺されたんだ…アイツらに」
「ルド…」
「何もしてねぇのに人殺しの罪を擦り付けられて奈落に落とされた…そうだろ?」
「…あぁ」
オレが5歳ぐらいの時に母ちゃんは濡れ衣を被せられて奈落に落とされた。
刑が執行されるまでの間に言っていた言葉は今でも覚えている
『2人とも悪いな迷惑かけて 』
『母ちゃん…』
『ラム…』
『お前達は…幸せに…小さくてもいい。ただ、幸せに生きてくれ。2人が幸せだと感じる時を過ごして好きに生きて欲しい…美味しい物を食べて、好きな人と好きな時間を過ごして…あと、家の引き出し、上から三段目にプレゼントがあるからそれも開けてくれ』
処刑される時、”言いたいことはあるか?” という言葉に対して母ちゃんは
『及第点ってとこだ…次はお前たちの首を持ってハイスコアになるよう努力するさ』
最後の最後までの笑っていた母ちゃんはその言葉を最後に奈落に落とされた。
泣きたいのに涙が出なかった。息が詰まって動悸が激しく冷や汗が止まらなかった。
レグトは遺品整理も手につかないほど落ち込みオレはその空気が気まずくて家を空けがちになった。
「母ちゃん…」
母ちゃんが遺していったものを身に付けてみたりしたが心の穴は埋まらずそのまま数年が経ち現在に至る。
レグトが何者かに殺された時、 レグトは言っていた。
“ラムは生きている” …って。
そんなわけあるか。母ちゃんはあの日死んだんだぞ。奈落に落とされたのをこの目でみた。
「へぇ、だから女物のネックレスつけてんだな」
「コレはこっちに持ってこれた唯一の物なんだ」
「そうか」
下界に落とされた後、助けてくれた男性に身の上話をしたルドはほんの少しだけ期待していた。
「(生きてるかもしんねぇ。オレが生きてるんだもしかしたら母ちゃんも…)」
「写真もないとなるとなぁ人探しは難しいぞ」
「でも、何もしねぇよりかはマシだろ」
「たしかに、一理あるな」
この数十分後、まさかラムレザルに会うとは知らないルドであった