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その日は、それっきり。
夜桜は、「またね」なんて言うけれど、私は知っている。
もう、会うことも喋ることもないだろうことは。
別れの際、私は一切振り返らなかった。
怖いから。もし、私が名残惜しげに振り返って相手がこっちを見向きもしなかったら。
夜桜は悪いやつじゃないんだろう。けど、良い奴とも限らない。
人間裏返えせば、悪意で満ちてることなんてザラだから。
期待しない、執着しない。あくまで淡白に。
相手から離れさせれば誰も傷つかない。そう、誰も。
気付けば家の前。
白線ばかり目に焼き付いている。
(あれ?私今日何してたんだっけ)
玄関を開ける。靴を脱ぐ。
手洗いうがいを済まして冷蔵庫から、ペットボトルを取り出す。
その際の冷蔵庫を開ける音、閉める音がやけに部屋に響く。
私の耳に入るのはペットボトルの蓋を開ける小さな音と、水を飲み込む喉の音。
空虚な部屋に虚しく鳴る。
夕方前なのにやたら暗い。
「まっずい」
水はやはり、なんの味もしなかった。