もっと早く気づけば良かった。先輩から零れる本音に、もっと早く気づけていれば。
いや、
まだ間に合う。
「やっっっばい入学早々遅刻は笑えん」
明日から華のDK!!
しぬ気で勉強してなんとか入れたこの憧れの高校で、青春謳歌しまくろ!!!!!
・・・なんて思っていたのが昨晩の俺。
まさか受かるなんて思っていなかったので、合否発表の日から高校生活への期待に胸が膨らみろくに寝れていなかった。そのつけが今日きた。見事に寝坊。
さすがに入学式に遅れて参加は免れたい、、。
大事な第一印象が散々なものになってしまう。それにそんな姿、あの人にも見られたくない。
「おいそっちは遅刻するぞ!こっち来い!」
ダッシュで正門に向かう俺に、絶賛遅刻しそうな先輩が声をかけてくれた。
「えっそっから入るんすか!?」
「入学早々いい体験できたな!!はよこい!」
俺は先輩と共に、校庭のネットをくぐり抜け校舎へと駆けた。
うぅ、こんなはずじゃなかったのに、、。
俺のばか、、。
「まぁそんな辛気臭い顔すんな!式典朝早くて困るよな!でもこの時間ならギリ間に合うから元気だせよ!」
さっきから思ってたけどこの人めっちゃ優しい。俺大好き。この人。
「本当にありがとうございます…。」
「律儀だなぁ!そんなことよりほら、1年フロア寄らなきゃだろ、最上階なんだから走れ!」
「は、はい!!行ってきます!」
「おう!入学おめでとう!!」
何度も言うが、大好きだ。あの人。
…ん?
「名前もクラスも聞いてねえ!!」
こんなんじゃお礼もできない。
うちの高校は学年ごとに 赤・黄・緑 と校章の色が分かれていて循環する。俺が黄色なので、緑の校章をつけていたあの人は2年生だろう。
…明日から2年生の全クラス回るか。
なんとか入学式には間に合い、出席番号が前後だった男子が式典中に話しかけてきた。
「お前イケメンだなぁ。さっきから女子にチラチラ見られてんぞ?」
唐突とはいえ、褒められるのは素直に嬉しい。
「えぇ、そうか?ありがとう。それより名前教えてほしいな」
「あぁごめん!西垣 光!よろしくな!」
光。健康的に焼けた肌と元気な笑顔に良く似合う名前だ。
「俺は凪谷 想。よろしくな、光!」
入学早々遅刻スレスレで滑り込んだので、変な目で見られないか不安だったが、光の人懐っこい笑顔とコミュ力に救われた。光と友達になれてよかった。
「なあなあ、俺ずっと思ってたんだけどさ、あの人可愛くね?」
「どの?」
「俺たちの後ろに並んでる2年のさ!あのちっちゃいボブの人!ふわふわしてて可愛い!」
…..え。