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6 - 第6話 こたえ探し

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2025年09月29日

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野沢と飲んだ翌日、かなでは吹き荒ぶ木枯らしで、すっかり葉の落ちた銀杏並木を歩いていた。住宅地にあるこの道を、凛子はどんな想いで歩いたのだろう? 愛する息子と夫と一緒に最期に訪れた土地は、彼女にとってどんな場所なのだろうか?

かなではそれを知りたかった。

さいたま市南区にある別所沼公園は、凛子の生活圏内にあって、保育園やスーパーの行き帰りに必ず通る場所だった。

銀杏並木もその一角あった。

沼の周囲には、メタセコイアなどの高木が生い茂っていて、そこを抜けるように造られたジョギングコースを市民ランナーが走っている。

他にも、釣りを楽しんだり、広場で寛ぐ親子や笑い合う学生達の姿があった。

憩いの空間で、最期の家族の時間を過ごした凛子は、死とは無縁であろう人々を、どう見ていたのだろうか? 瞳にかかるフィルターは、何色だったのだろう?

そして私は、木山凛子を演じきることが出来るのだろうか?

かなでは、胸にそっと手をあてて、想像以上のプレッシャーに潰されそうな自分を不甲斐なく思った。


「声ってのはな。バレやすいんだぞ!」


と、言っていた野沢の声も頭から離れないでいる。

かなでは、憂鬱な気分を振り払おうと、公園近くのレンタルウェアショップへ向かい、ジャージとスニーカーを借りてジョギングコースへ向かった。

重たいコートと、慣れないヒールの取れた身体は身軽で、しばらく走り続けると、気持ちも次第に落ち着いていった。

これまでに、様々なこともわかっていた。

木山凛子というひとりの女性は、今でもこの世界に存在していて、多くのモノを残している。想い出や言葉や息子や家族。

容姿や仕草、そして声。


「この役は、自分にしか出来ない」


かなでは、歩幅に合わせながらリズミカルに呟いて、凛子の人生を心の中で追いかけた。

都内の女子高校では陸上部。

ポップカルチャーに詳しく、趣味はイラストと神社仏閣巡り。

短大を卒業後に、イタリアンレストランでアルバイトをしながら、レイヤーとして活動。好きなアニメのキャラクターに扮し、撮り溜めた画像はスマホに保存されてある。


「黒歴史だよ」


と、恥ずかしそうにこぼしていたと言うが、友人曰く、満更でもないらしい。

ハープティーや温泉も好きで、江國香織や三浦綾子の小説を愛していた。

幼い頃に飼っていた猫の名前は鈴吉。

普段着ではスカートは履かない。

ジーンズにこだわりがあって、特にボブソンがお気に入り。

GRMブランドを好んで、行きつけのショップは浦和のバルコ。

酒に弱くて、絶叫マシンが嫌い。

お化け屋敷は大嫌い。

家族写真はいつでも笑顔。

息子は翔太君。

夫婦は名前で呼びあっている。

写真を撮るのはパパの役目。

だから、家族写真はいつもふたり。

かなでは、ふと思った。

凛子に会ってみたかったなと。



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