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「どこら辺で落としたか覚えてる?」
「そーですね。あっちだったかも、知れませんし、こっちだったかも知れません」
「えっと、本気で探すきある?」
「酷いですね、先輩。ありますよ。財布、大切ですから」
いっていることが、滅茶苦茶だ……と、口にはしなかったが、ちぎり君の気のなさに驚いた。変なところで、飽き性というか、どうでもいいって放り投げてしまうちぎり君。でも、財布だし、通学用……そんなそこら辺のコンビニに行くような財布じゃないだろうし、なくなったら大変だろうと、俺の方が躍起になっていた。
それに比べて、ちぎり君は、夜の街を写真に収めている。パシャ、パシャ……と、隣でシャッター音が聞え、俺は一人で何をしているんだという気にさえなる。
(本気で、無くしたの……か……)
よく探したら、鞄に入っていましたってオチだったら、と全く努力が無駄になってしまう想像がよぎって、俺は一度買えって確かめて気貰いたい気持ちに駆られた。
「ちぎり君」
「何ですか、先輩」
「鞄に入ってるって可能性は?」
「無いですね」
「言い切れる保証とか」
「確認してなかったので、こうやって来てるんですよ。疑ってるんですか。心外ですね」
「いや、そこまで……」
酷いなあ、なんて肩をすくめられて、寂しげな瞳を向けられたので、俺はんぐっと罪悪感が胸の中を覆っていく。そんな顔されたら、キツく言えないと。
「あと、それに何か落としたような感覚がしたんですよ。ぽろっと、落ちるような。でも、摺られたっていう可能性もありますしねえ」
「もっと、大変だよ、それ。盗難届とか」
はじめからそっちの方が、良いんじゃないかとも思ってしまった。でも、まだ落としてすぐならば、どうにかなりそうだ、とちぎり君は考えたのかも知れないけれど。
「まあ、そうなった場合、父親に頼むので大丈夫です」
こう見えて、そういう仕事してるんですよ? と、ちぎり君は何か意味ありげに笑った。
そういう仕事とは、警察官のことだろうか。自分の家族のことを語らない、そもそも自分語りをしないちぎり君が、零した何気ない一言にさえ、興味を惹かれてしまった。聞きたいことは沢山あったし、それなら、先にその父親に連絡を入れれば良いんじゃないかと思ったが、ちぎり君は「父親は忙しい人ですから」と片付けてしまって、俺はそれ以上言及できなかった。
「じゃあ、地道に探すしか」
「そーですね。あ、そういえば、あそこで落としたかも知れないです」
と、ちぎり君が声を上げる。
何処で落としたんだと、いう前に、ついてきて下さい。といわれ、ちぎり君は歩き出して島。ちょっと、と声をかけたが、止る気なんて更々ないようで、ちぎり君は人の波の中に消えていってしまう。必死に追いかけて、見失わないようにしていれば、とある場所で、ちぎり君が止って待っていた。
「ここです」
「いや、何処通ってきてるの」
「こっちは、人がいないので、通りやすいんです。あと、近道です」
ちぎり君が指さしていたのは、真っ暗な路地。ド偏見だけどヤンキーとかいそうだなあ、とか思ってしまう場所で、こんな所を通っているちぎり君が恐ろしく思えた。
「ここで、落としたと思います」
「いやいや」
「紡先輩『お願い』です。ついてきて下さい」
と、ちぎり君は不敵な笑みを浮べて言う。
俺は、それをいわれてしまえば断れ無いので、奴隷のように、「分かった」といって、彼のあとをついていくことになった。
ポチャンポチャンと、何処からか水の音が聞え、だんだん繁華街のあの音がなくなっていく。薄気味悪くなって、チュウと、足もとにネズミが走る。
「ね、ねえ、本当にこんな所に落としたの?」
「紡先輩、恐がりですね」
「いや、そうじゃなくて」
「紡先輩、いいこにしててください。ここで、止っていて、そして、ここで何されてもそのまま受け入れて下さい」
「ちょっと、まって何、ちぎり――」
ピタリと足を止めたかと思えば、くるりとこちらの方を振返って、ちぎり君は、俺の口元に人差し指を当てて笑った。
何が始まるのかと、身構えてしまえば、ちぎり君は次の瞬間呪いの言葉を吐く。
「紡先輩、『お願い』できますね?」
「……ッ」
瞬間、身体がかたまって動かなくなった。呪い。
矢っ張り、そうなんじゃないかと、だんだんと確信に変わっていく。待ってと声をかけようと思ったが、既にそこにはちぎり君の姿はなく、代わりに、暗闇からぞろぞろと悪そうな男達が出てきた。
「は……?」
「此奴犯せば、さらに金額上乗せして貰えるってよ」
「男なんてぜってーないと思ったが、金額が金額だからなあ。あと、人妻みたいな顔してるし、案外いけるかもな!」
などと、下世話な話を俺の前でし始める。
(犯す? 金額?)
訳の分からない言葉が並んでいくと同時に、男二人が、俺の方をじろりと見た。かたまった身体は動かない。だって、『お願い』だから。
「此奴『お願い』すれば、何でも聞いてくれるらしいぜ。奴隷だよな、奴隷」
「そういうことなら、何も心配いらないなあ。じゃあ、さっそくヤろうぜ」
と、男の一人が俺に手を伸ばしてき、ニヤリと気味の悪い笑みを浮べた。